自由研究発表高齢者福祉8  森本 佳樹

小規模多機能型居宅介護における地域との関係構築に関する一考察(2)
   -地域包括支援センター・社会福祉協議会との関係-

○ 立教大学  森本 佳樹 (会員番号648)
大正大学  長倉 真寿美 (会員番号1791)
立教大学大学院  片山 友子 (会員番号6578)
立教大学大学院  大口 達也 (会員番号7296)
キーワード: 《小規模多機能型居宅介護》 《地域包括支援センター》 《社会福祉協議会》

1.研 究 目 的

改正介護保険法によって2006年4月にスタートした小規模多機能型居宅介護について、過去2か年にわたって調査研究を行った結果、今後の要介護高齢者、とりわけ認知症高齢者の地域ケアにおいて、本サービスが重要な役割を果たしうることが明らかになった。また同時に、そのために克服すべき課題として、①包括的なサービスを提供するためのスタッフの技術向上の必要性、②安定的な経営のための収入の確保、③これらを実現するための人材の育成、④地域密着型であるための地域との関係の構築などがあることもわかった。
   本研究では、これらの課題のうち、地域との関係構築に焦点を当てて調査研究を行っている。地域との関係構築は、事業所からの一方的な働きかけだけでできるものではなく、地域を基盤として活動しているさまざまな組織や団体がそのことをどう受け止めるか、あるいは地域ケアに関わる機関や行政(保険者)などがどう支援するかも非常に重要になってくる。そこで本研究では、ヒアリング調査を通し、地域との関係づくりにおけるプロセスについて考察し、小規模多機能型居宅介護サービスの地域展開の方向性と具体的方策を示すことを試みる。なお本報告は、2本立てで構成されており、発表(1)にて、小規模多機能型居宅介護事業所からのアプローチについて報告し、発表(2)にて、地域包括支援センターおよび社会福祉協議会との関係について報告する。

2.研究の視点および方法

本研究では、地域との関係構築をみるにあたり、小規模多機能型居宅介護事業所をとりまく地域の関係資源・団体等との関係に着目し、そのプロセスを追った。
   調査方法:訪問ヒアリング調査(半構造化面接)
   調査期間:2008年11月~2009年2月末日
   対  象:数値データ(人口規模別65歳以上人口あたりの小規模多機能型居宅介護事業所数、居宅4サービス利用件数偏差値)および先駆的実践の有無により検討し、18地域を選定した。

3.倫理的配慮

本発表は、日本社会福祉学会研究倫理指針に従い、ヒアリング調査結果について、調査対象地域および事業所名、関係団体名等を匿名化し報告する。

4.研 究 結 果

ヒアリング調査では、地域の関係資源・団体等との関係について調査し、本報告では、特に地域包括支援センターおよび社会福祉協議会との関係について報告する。

  A)地域包括支援センター(以下センター)との関係
   小規模多機能型居宅介護との関わり(個別ケースを通じた関わりや運営推進会議への参画、地域の行事の一体的実施等)の有無については、センターの運営状況や設置形態による違いは見られなかった。「関わりがない」という状況の要因は様々であるが、主な要因としては「小規模多機能型居宅介護事業は地域密着型サービス以外の一般の介護保険事業と変わらないもので特別視をしていない」ということが挙げられる。このことは、小規模多機能型居宅介護事業が「地域密着型サービス」に位置づけられている意味と、その機能についての理解が進んでいないことを示していると考えられる。
   一方で、「関わりがある」というセンターと小規模多機能型居宅介護事業所の関係についても、上述のように「小規模多機能型居宅介護の位置と機能」の理解がなされていないため、関わりがあったとしても良好な関係ではない事例も存在した。良好な関係を築き上げているセンターについては、小規模多機能型居宅介護の実践を受け、「地域とのつながりの確保」や「地域で支援を必要としている人の把握」が可能となっており、これらを専門機関や専門職とのネットワークと連動させ、小地域での地域包括ケアを充実させようとする動きが見られた。
  B)社会福祉協議会(以下社協)との関係
   今回の調査では、多くの社協が小規模の位置と役割を十分に理解していない、もしくは一事業所としての認識しかしていないことが明らかとなった。一方で、生活圏域単位での包括ケアのサービス拠点としての小規模多機能型居宅介護の意義について認識し、包括的な支援を行っていた社協については、小規模多機能型居宅介護事業所が地域との関係をつくる過程において大きな役割を果たしていることが分かった。また、これまで社協が推進してきた地区社協などの地域福祉推進基礎組織が、利用者の在宅生活を支える体制をつくる際に、重要な役割を果たしていたケースもみられた。
   今後は、小規模多機能型居宅介護が、生活圏域での地域包括ケアを実現するための「ツール」として有効であり重要な役割を持つことを理解した上で、社協がこれまで構築してきた小地域ネットワークとの連携を図るなど、社協の戦略に位置づけて展開していくことが重要である。

※ 本研究は、2008年度厚生労働省未来志向研究プロジェクトの研究助成金を得て実施したものである。

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