小規模多機能型居宅介護事業所の有効性に関する研究
-全国における事業所の現状調査-
○ 社会福祉法人東北福祉会 野田 毅 (会員番号7248)
宮城大学 事業構想学部 糟谷 昌志 (会員番号3794)
キーワード: 《認知症》 《小規模多機能型居宅介護事業所》 《地域の拠点》
我が国では在宅介護に比較し施設介護が中心となっている。その一因は認知症高齢者に対する在宅時の介護負担である。認知症高齢者は、社会の高齢化に伴い増加している。
介護保険制度によって介護サービスが利用しやすくなってきたが、複数世代同居の家庭のみならず、一人暮らしや夫婦のみ世帯で、認知症高齢者の在宅介護を続けることの課題が多い。
認知症とは、認知機能の低下と社会生活の障害がその特徴である。そして、認知症は環境の変化に影響を受ける場合が多い。慣れ親しんだ地域で生活を続ける生活を続けるためには、生活の場とケアの場が密着し、きめ細やかなケアが行われる仕組みが必要である。在宅生活を望む認知症を持つ多くの要介護者やその家族が、施設への入居を決断する背景には、在宅で24時間365日の安心した介護を得ることが困難で、介護負担が大きいという点があげられる。
2006年の介護保険制度改正で、地域密着型サービスの一つとして誕生した小規模多機能型居宅介護事業は、地域の拠点として、在宅介護を支援することが期待されている。小規模多機能型居宅介護事業では、通いの機能と泊まりの機能と訪問の機能によって、利用者本人が困っていることを自宅での様子や家族との関係から捉え、その時の状況に応じて対応できるとされている。
そこで本研究では、小規模多機能型居宅介護事業所について、①在宅認知症高齢者の在宅介護支援機能、②在宅介護支援を行う地域の拠点施設機能、③経営の視点から見た事業所の維持・存続の可能性の現状を明らかにする。
(1)調査票配布先の選定方法
WAM-NETに登録されている介護保険の指定小規模多機能型居宅介護事業所全数の中から、ランダムサンプリングで500カ所を選び調査票を配布した。
(2)調査票回収率
調査票を配布した500カ所のうち、186カ所から回答を得た(回収率:37.2%)
(3)調査実施期間
2008年7月から8月までの2ヶ月間で実施した。
(4)調査実施方法
郵送で配布し、郵送で回収した。
(5)調査内容
①事業所の属性 ②実施しているサービス ③事業の実施場所 ④事業所の理念
⑤マーケティング実施状況 ⑥地域との関係性 ⑦認知症症状別受入状況
⑧事業所の経営状況 ⑨事業の継続性
(6)分析方法
①単純集計分析
SPSSを用いての単純集計による分析
②営利・非営利別による分析
法人の属性によって、サービス提供の仕方や経営に違いがあるのではないかとの仮説に基づき、属性を大きく営利法人と非営利法人の2つに分類して分析を行った。
調査結果の集計分析において、事業所が特定できないようにした。
4.研 究 結 果小規模多機能型居宅介護事業所における認知症高齢者の受け入れは、比較的積極的に受け入れている実態が認められた。さらに認知症高齢者の行動的心理的徴候(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)の種類や数によってその受け入れ方に大きな違いは認められなかった。これらの観点から、小規模多機能型居宅介護事業所は、在宅認知症高齢者を支える役割を果たしていると言える。
また、近隣地域の住民や関係機関・団体との連携が取れており、特に医療機関との連携が強く取れている。このことは、利用者の状態が急変した際の対応として、日頃からの関係が必要であるという認識の現れであると言える。
経営は、「順調である」(21.3%)、「横ばいである」(17.8%)、「厳しい」(57.5%)という回答であった。また、平均の収支比率は98.1%で、人件費比率の平均は64.8%で、事業経営の厳しさを表した回答であると言える。
本調査実施後に、全国の小規模多機能型居宅介護事業所の中から、新たにランダムサンプリングで1,000カ所を選び、調査票を配布し回収をした。現在、その回収した調査票を集計および分析している。あわせて、比較検証の視点から、全国の地域密着型通所介護事業所の中からランダムサンプリングで1,000カ所を選び、調査票を配布し回収をした。現在、集計および分析中である。