自由研究発表高齢者福祉7  權 順 浩

韓国の老人長期療養保険制度における在宅給付の現状と課題

龍谷大学大学院  權 順 浩 (会員番号6852)
キーワード: 《家族介護》 《在宅給付》 《老人長期療養保険制度》

1.研 究 目 的

介護問題を社会問題として制度的に対応するため、韓国では、1998年から介護制度に関する検討をはじめ、2007年4月第226回臨時国会の本会議で老人長期療養保険制度(以下、療養保険制度と略す)が成立し、2008年7月施行になっている。
  療養保険制度を概観すると、要介護者への介護サービス提供とその家族の介護負担の軽減を目的としつつ、在宅介護を基本方針としている。制度の特徴は日本とドイツのように社会保険方式をとっており、被保険者は20歳以上の国民健康保険加入者とするが、受給対象は65歳以上の高齢者と65以下の老人性疾患をもつ者に限定している。そして給付は、現物給付を原則としつつ、補完的に現金給付を認めている。自己負担の割合は施設が20%、在宅が15%である。医療給付受給者等低所得者は自己負担額の半額免除であり、国民基礎生活保障受給者は自己負担額の全額免除である。
   しかし、療養保険制度は介護問題を個人(家族)、社会、国が協力して改善・解決を目指すことにしているが、各々の役割が明確に示されずに導入されている。そのため、在宅介護においてどこまで家族が介護を行うべきなのかが課題になっている。それによって家族介護者の生活に大きな影響がでるからである。
   したがって、本研究の目的は、家族介護者の生活上の観点から老人長期療養保険制度の在宅給付を検討し、その課題を明らかにすることである。

2.研究の視点および方法

本研究は、韓国の保健福祉家族部と韓国保健社会研究院の資料や研究報告書等を中心として療養保険制度の在宅給付にみられる問題と課題を検討した。そして、研究の目的を果すため、以下のような研究課題を設定した。
   まず、療養保険制度における在宅介護サービスの内容(種類、利用条件等)と利用限度額を検討する。
   第2に、補完的に認めている現金給付の受給対象、給付額、そして家族介護受給に必要な資格条件とその報酬水準について検討する。
   第3に、第1と第2の在宅給付の現状を家族介護者の生活の観点から考察する。具体的には、①在宅介護サービスの利用と経済活動(常勤)の参加可否、②現金給付額と平均所得の比較、③利用限度額と現金給付額の差を検討する。

3.倫理的配慮

本研究は、文献研究として、日本社会福祉学会研究倫理指針に則して参考文献や引用文献を扱い、倫理的配慮を行っている。

4.研 究 結 果

研究結果は、以下のようである。
  1.療養保険制度における在宅給付は訪問療養、訪問入浴、訪問看護、昼・夜間保護(デイサービス)、短期保護(ショートステイ)、その他(福祉用具貸与、訪問リハビリ等)である。
   ①訪問療養は、1日に4時間まで、訪問看護は、週3回まで利用可能である。そして、昼・夜間保護は、最大1日12時間以上利用が可能である。短期保護は、連続に90日、年間180日まで利用が可能である。そして、訪問リハビリは特定の人に限られている。
   ②在宅給付の利用限度額は、短期保護以外、昼夜間保護、訪問看護、訪問入浴、訪問 看護は同じで、1等級(最重症)は1,097,000?、2等級(重症)は879,000?、3等級(中 等症)は760,000?で、利用限度額を超えると全額自己負担となる。そして短期保護は 1日、1等級は42,490?、2等級は38,860?、3等級は29,020?である。
  2.療養保護士の資格をもつ同居家族が要介護者に訪問療養サービスを提供する場合、1日120分まで認めている。補完的な現金給付は家族介護者に家族療養費として支給される。その対象は離島・僻地・天災地変 等長期療養機関で給与を受けられないと保健福祉長官が認めた者、そして身体・精神状態あるいは受給者の性格等により長期療養機関で給付を受けられないと大統領令で定めた者である。離島と僻地は保健福祉部令で離島は375ヵ所、僻地は258ヵ所が対象となり、家族療養費は毎月150,000?が支給される。
  3.療養保険制度上、要介護者が昼夜間保護を10時間以上利用すれば、在宅家族介護者は常勤の経済活動ができる。しかし、昼夜間保護施設の環境や職員配置基準からすると、介護と仕事を両立するのは難しい。従来、軽症と中等症を対象にして施設運営や環境等を整備してきたため、最重症と重症の要介護者に対応できる施設環境になっていない。また、施設運営についても10時間以上運営できる施設環境が整っていない。したがって、法律上ではできても、現状では難しい。それに1等級以外は、利用限度額内で10時間以上(22日利用基準)利用することもできない。
   そして、補完的な現金給付の主たる対象である農漁村の月平均所得(2005年、韓国統計庁)と現金給付額を比較してみると、現金給付額は月平均所得の約6.2%である。利用限度額と比較してみても、現金給付額は、1等級の利用限度額の約13.7%である。
   したがって、療養保険制度が施行され、要介護者の介護サービスの質や家族介護者の介護問題は一部改善されたかもしれないが、介護による家族介護者の所得損失問題まで改善されたとは言いがたい。

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