介護保険料の自治体間格差と是正策
-A県における事例を通して-
新潟大学大学院 中村 康一 (会員番号7150)
キーワード: 《公平性》 《格差是正》 《地方分権》
平成12年4月1日から施行された介護保険制度は、全国の市町村において定着普及してきたが、制度施行後10年目の現在、第1号被保険者の介護保険料(以下、保険料という。)や介護サービスに自治体間の格差が生じている
本研究においては、A県内の全市町村における保険料の格差の実態を把握して、被保険者にとってより公平な保険料を実現するための是正策について考察する。
65歳以上の高齢者が納める介護保険料は、自治体間格差がない方が望ましいし、たとえあったとしても、その格差はより小さい方が望ましいと考える。
A県内の全市町村(35市町村)について、第三期介護保険事業計画(平成18年4
月1日~平成21年3月31日)の保険料を調査し(A県高齢福祉保健課)、格差の実態を明らかにした。
現行の保険料格差の是正策である調整交付金の交付状況を調査し(A県高齢福祉保健課)、交付金制度の問題点を分析した。
保険料がA県内最高のB村及び県内最低のC町の介護保険事業の関係者から、介護保険の運営状況等についてヒアリング調査を実施した。
必要に応じて、厚生労働省ホームページの「介護保険事業状況報告」の数値を参照した。
情報の収集、調査にあたっては、個人情報の保護に十分留意した。
4.研 究 結 果(1)格差の実態
A県内の35市町村について、第三期介護保険事業計画の保険料を調査した結果、最高額はB村の5,500円、最低額はC町の3,200円で1.72倍の格差があった。
国は、保険料の格差を是正するために調整交付金の制度を設け、平成18年度実績で県内の35市町村に90億6,665万2千円もの交付金を交付しているが、なお1.72倍の格差が生じている。(全国の状況は、最高額が6,100円、最低額が2,200円で、その格差は2.77倍となっている。)
(2)格差に伴う問題点等
①毎年度、巨額の調整交付金が市町村に交付されているにもかかわらず、保険料格差が存在している。
②調整交付金の第1号被保険者1人当たり交付額を比較すると、保険料が県内最高のB村が17,247円、保険料が県内最低のC町が19,303円で、保険料が県内最低のC町が県内最高のB村よりも有利な配分を受けており、調整交付金の制度が十分に機能していない。
③B村の低所得者の保険料がC町の高所得者の保険料よりも高い状態が生じており、住む自治体が異なることによるこのような状態は不公平である。
④C町は、高齢化率が35.2パーセントでA県内の35自治体中高い方から5番目であるが、介護保険制度が開始される前から有している「町立病院」を中心とした町民の健康づくり施策が成果をあげ、保険料がA県内で一番低い。このことは、小規模自治体でも地域の資源などを有効に利用すれば、保険料の高騰を防げることを示している。
⑤保険料が県内最高のB村では、村内で受けられる介護サービスはディサービスのみであり、不公平な状況が生じている。また、国民健康保険料も県内で最高であり、生活コストの格差はさらに広がる。また、同村は財政力が弱くて、住民の健康づくり施策を有効に進めることが難しい。
(3)格差の是正策
①財政面からの是正策
広域化による保険者規模の拡大、調整交付金制度の拡充・改善に加えて、よりベターな是正策としては、市町村の一般会計からの繰り入れを認めて地方交付税による財政措置を講ずるのが適当と考える。
②住民の各ライフステージにおける健康づくり
財源には限りがあることから、本研究で明らかになったC町の取り組みが示すように、住民に最も身近な地方自治体である市町村が住民の健康づくりを推進することにより、要介護状態になる人の割合を少なくして、介護費用額を減らすあるいは増やさないような施策が必要である。
③地域社会全体での取り組み
高齢者が要介護状態になった場合に、団塊の世代によるボランティアの利用、NPO法人との連携など地域社会全体での取り組みを進めて、介護費用の増加を防ぐ仕組みづくりも必要である。
④地方分権の推進
地方自治体が健康づくり施策など独自の行政施策を進めるためには、地方自治体が自由に使用できる自主財源・一般財源の拡充が必要であり、税財源の移譲など地方分権を更に進めていくことが肝要である。