自由研究発表高齢者福祉7  鈴木 力雄

第1号介護保険料における所得段階定額制の分析
   -東京都区市を対象として-

岩手県立大学  鈴木 力雄 (会員番号2066)
キーワード: 《第1号介護保険料》 《所得段階制保険料》 《応能性》

1.研 究 目 的

2009(平成21)年4月より、第4期介護保険事業計画(2009~2011年)が始まった。それに伴い、介護保険料も改定されている。しかしながら、第1号介護保険料について、全国の動向をみてみると、第4期は4,160円(全国平均・基準月額・加重平均)であり、第3期4,090円からの伸び率は過去最低の+1.7%に留まったという(厚生労働省2009)。つまり、第1号介護保険料は全国的に見ればあまり変わらなかったということである。これは、東京都にも言えることで、都の第4期は4,045円(基準月額・加重平均)であり、第3期4,102円と比べると伸び率は-1.4%(東京都2009)と全国の動向と符号の向きは異なるが、その変化の幅は小さい。
   ところが、東京都において大きく変わったものがある。それは、第1号介護保険料の所得段階の数である。東京都の第4期介護保険料を公表しているホームページ(東京都2009)では、「62区市町村のうち、54区市町が『多段階制』を導入。」との見出しをつけ、「『多段階制』とは、標準6段階の所得段階区分について、区市町村の判断によって7段階以上に区分することにより、応能性を高めることができる法令上の仕組。」と説明している。東京都の第3期介護保険料では多段階制を採っていたのは38区市町村であったので(鈴木2009:59)、都内区市町村における多段階制導入の割合は第3期では6割強であったものが、第4期では9割近くに上昇した計算である。
   介護保険料の定額制について、二木は、「保険料が『定額制を基本とする』ことになれば、究極の逆進性となり、低所得者への負担の重さは消費税の比ではない」と指摘している(二木 2007:70)。従って、東京都が指摘するように応能性を高める多段階制の導入が進めば、定額制による逆進性を軽減することにつながり、評価できるだろう。しかし、多段階制を導入している区市町村が増加したことを根拠として、本当に応能性が高まったと言えるのだろうか。実際に導入された多段階制の中身を吟味した上で、応能性の実態を検討することが本研究の目的である。

2.研究の視点および方法

検討を進めるにあたり、全国に比して所得の状況が良くより所得状況に応じた対応が求められる、東京都を分析対象とした。また、島しょ部は他の区市町とは異なる特殊な事情を抱えている可能性があると考え、分析対象から除外した。さらに、奥多摩町など郡部4町は区市町村民税一人当たり税額のデータが得られなかったため、やむを得ず除外した。結果として、49区市を分析対象とした。
   研究方法であるが、東京都の49区市の第3期および第4期第1号介護保険料所得段階数、区市町村民税1人当たり税額などの統計データを用いて分析・考察を行い、応能性の実態について検討する。

3.倫理的配慮

公表されている行政等の統計データに基づく研究であり、出典を明示するよう努めた。なお、個人のプライバシー等には関わらない研究である。

4.研 究 結 果

多段階制導入が応能性の向上に寄与しているかどうかを検討するため、所得段階増加数と区市町村民税1人当たり税額について、ピアソンの相関係数を求めた。応能性の向上に寄与しているのであれば、相関係数は正の相関を示すはずである。しかし、実際には-.360(p<.05)と負の相関を示し、区市町村民税1人当たり税額が低いほど所得段階増加数が増加したことを示した。
   また、応能性を評価するためには、所得段階数だけでなく、各段階における保険料率そしてその段階が対象とする所得層についても検討する必要があるだろう。そこで、縦軸を第1号介護保険料、横軸を所得段階とする折れ線グラフを作成し、いくつかの区市を選び比較検討した。区市を選んだ基準は、所得段階数が8・10・12・14で、8と14段階は該当する区市が少なかったため1つだけ選び、10と12段階は保険料率が最も高いものと最も低いものを2つ選んだ。その結果、稲城(8段階)、小平(10段階)、町田(10段階)、羽村(12段階)、国立(12段階)、新宿(14段階)の6区市となった。これらの内、町田(10段階)と羽村(12段階)を比較してみると、400万円までは段階数の多い羽村の第1号介護保険料が高かったが、500万円を超えると段階数の少ない町田の方が逆転して高くなる。つまり、基本的には所得段階数が多い方が応能性は高くなるのだが、保険料率や所得層の設定によっては応能性が弱まるという事実を示していた。
   結論として、応能性向上の中身を見てみると、応能性を挙げる必要性の低い区市において所得段階数が増え、また所得段階数が多くても保険料率や対象とする所得層を低く抑えることで応能性が低いままの区市が存在していることが分かった。

(文献)
厚生労働省(2009)「第4期の介護保険料について」 (http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/04/h0423-1.html,2009.5.5)。
鈴木力雄(2009)「東京都における第1号介護保険料に関する研究」『岩手県立大学社会福祉学部紀要』11(2),59。
東京都(2009)「都内区市町村の第4期(平成21~23年度)介護保険料について」
   (http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2009/03/20j3vc00.htm,2009.5.5)。
二木立(2007)『介護保険制度の総合的研究』勁草書房。

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