サービスの質尺度の信頼性・妥当性の検討
-高齢者デイサービスセンターにおける自己評価尺度の作成-
聖隷クリストファー大学 福間 隆康 (会員番号6284)
キーワード: 《サービスの質》 《高齢者デイサービスセンター》 《自己評価》
本研究は高齢者デイサービスセンターにおけるサービス提供者側に焦点を当て,サービスの質に関する具体的な評価尺度を作成することを目的とした。自己評価尺度を採用する理由は,利用者評価や第三者評価と比較すると,サービス提供者側の実情に合わせた評価が行えること,具体的な課題を自ら把握しておくことによって,サービスの質の向上に向けた取り組みが行いやすくなると考えたからである。
高齢者デイサービスセンターを対象とした理由は次の2つである。1つは,介護保険制度が施行されてから9年以上経過しており,サービスの質の評価という意識が,利用者側と提供者側の双方に定着していると考えたからである。もう1つは,デイサービスは事業所間の競争が顕在化しており,今後,サービス利用者を安定して確保していくためには,いかに良質なサービスを提供し,現在サービスを利用している本人や家族にサービスを継続して利用してもらうかが重要となるからである。
調査施設は,静岡県西部地方の同一法人が運営する高齢者デイサービスセンターのうち協力の得られた7か所とし,そこに勤務する職員のうち,利用者の状態を把握することができる職員(介護職,看護職,リハビリ職等)110名を対象に質問紙調査(留置法)を実施した。調査期間は,2009年9月1日から10月15日であった。調査内容は,対象者の性別,年齢,実務経験年数,職種,勤務形態,およびサービスの質とした。
まず,サービスの質尺度の内容的妥当性を検討するため,探索的因子分析を行った。次に,探索的因子分析の結果に基づき,サービスの質尺度の構成概念妥当性を確認するため,検証的因子分析を行った。続いて,サービス評価のバイアスを確認するため,サービスの質尺度と個人属性との関連性を検討した。この分析に当たっては,探索的因子分析によって得られたサービスの質の下位尺度得点と性別,年齢,実務経験年数,職種,勤務形態との関連性を対応のないt検定により検討した。
なお,t検定および探索的因子分析にはSPSS17.0 for Windowsを使用し,検証的因子分析にはAMOS17.0を用いた。
倫理的配慮としては,研究者が所属する大学の倫理委員会の承認を経て,高齢者デイサービスセンターの責任者に対し,文書と口頭で研究の主旨を説明し,了解が得られた7か所に調査票を配布した。調査票の提出は無記名であり,対象者の自由意志に委ねられていること,研究以外に回答結果を利用しないこと,結果の公表の仕方等を明記した依頼文,調査票および封筒を責任者に配布し後日,責任者を通じて各回答者によって厳封された封筒を回収した。なお,研究への参加は調査票の回収箱への提出をもって同意を得たものとした。
4.研 究 結 果本研究では,回答のあった107名(有効回収率97.4%,無効回答なし)を分析対象とした。サービスの質尺度の開発にあたり,その内容的妥当性の検討は,居宅介護支援事業所の介護支援専門員からのヒアリングのみにとどまらず,集収したデータを用いて探索的因子分析を行った。さらに,本研究では構造方程式モデリングを基礎とする検証的因子分析を行い,モデルのデータへの適合度を通して,サービスの質尺度の構成概念妥当性の検討を行った。
探索的因子分析の結果,「結果・利用者理解」,「確信性・礼儀」,「信頼性・能力」,「物的要素」,「安全性・利便性」を一次因子とする34項目の「サービスの質自己評価尺度」を開発することができた。また,検証的因子分析の結果,データへの適合度は,統計学的な許容基準を満たすものであった(GFI=.967,AGFI=.963,NFI=.959)。さらに,サービスの質の5つの下位尺度のクロンバックのα係数は.678~.900であり,統計学的に許容しうる水準にあった。
個人属性とサービスの質の下位尺度の関連については,性別と年齢において有意な結果が示された。具体的には,信頼性・能力尺度得点は,女性回答者の方が男性回答者よりも有意に高かった。また,物的要素尺度を除いたこれ以外のサービスの質尺度でも,女性回答者は,男性回答者の平均値をすべて上回っていたことから,女性回答者の特徴として,サービスの質の評価が男性回答者に比べて高いことがあげられる。
一方,安全性・利便性尺度得点は,50歳以上回答者の方が50歳未満回答者よりも有意に高かった。また,物的要素尺度を除いたこれ以外のサービスの質尺度でも,50歳以上回答者は,50歳未満回答者の平均値をすべて上回っていたことから,50歳以上回答者の特徴として,サービスの質の評価が50歳未満回答者に比べて高いことがあげられる。
以上の結果から,本研究ではサービスの質の5つの下位尺度のうち,信頼性・能力尺度得点が評価者の性別による影響を受けており,また安全性・利便性尺度得点が評価者の年齢による影響を受けることが示された。しかしながら,全体的なサービスの質尺度得点については,施設のいずれの職員が評価してもその結果に大きな差異が生じなかったことから,評価者のバイアスの少ない結果が得られることが明らかとなった。