自由研究発表高齢者福祉6  笠原 幸子

ケアワーカーが行うアセスメントに関する研究
-高齢者施設での質的研究をもとに-

四天王寺大学   笠原 幸子(会員番号2556)
キーワード: 《ケアワーカー》 《アセスメント》 《質的研究》

 

1.研 究 目 的
 高齢者施設のケアプランは,要介護高齢者(以下,高齢者)に関わっている複数のスタッフで進めるのが望ましく,高齢者の生活に最も関わるケアワーカーが行うアセスメントは重要であるという指摘がある.さらに,高齢者施設の居室担当のケアワーカーが,高齢者の入所時のアセスメント,ケアプラン作成等に6割から9割の高率で参加しているという調査結果がある.しかし,量的調査だけではなく,アセスメントの場が日常生活場面である,介護サービスの提供と平行して実施しているという特徴を持つケアワーカーのアセスメントでは,高齢者とケアワーカーとの相互作用に着目した研究が求められる.そこで,本研究では,質的研究方法を採用して,ケアを通してケアワーカーがアセスメントしている高齢者の情報とその行為の背景要因を明らかにすることを目的とする.このような研究は,高齢者に関する正確なアセスメントと質の高い介護サービス提供につながると考える.

2.研究の視点および方法
 調査対象者は介護老人福祉施設で介護業務に従事しているケアワーカーとした.当初は3名の調査対象者から始まったが,スノーボーリング方式で合計8名の調査対象者を得た.面接方法は半構成的面接法を採用した.面接時間は約1時間30分であった.面接場所や面接時間については,調査対象者の指定場所,指定時間を原則とした.面接期間は2008年4月から8月までであった.分析方法は,①ケアワーカーが,高齢者のどのような情報をアセスメントしているのかについて,高齢者とケアワーカーとの相互作用から捉えること,②施設のケアプランであるので,高齢者が新しい環境に適応するという視点を持って分析すること,③現実の多様性や複雑さをできるだけ忠実に捉えディテールの豊富なデータを用いるという要件を満たすM-GTA分析を選択した.得たデータについて筆者の解釈が適切かどうか,調査対象者と確認する作業をすると同時に,調査対象者と協同して,複数の概念の関係から成るカテゴリーを形成し,カテゴリー相互の関係から分析結果をまとめ,結果図を作成した.最後に,福祉研究者のエキスパートレビューを受け,適宜修正を繰り返しながら概念析出からカテゴリー分類と収束化を行った.



3.倫理的配慮
 まず,施設長に文書をもって調査の趣旨を説明し了解を得た上で,当該施設で勤務しているケアワーカーを調査対象者として紹介してもらった.その後,紹介してもらったケアワーカーに調査の趣旨を説明し, 理解していただけたら協力してほしいこと,協力を断ってもよいこと,協力が得られた場合は,データは事業所及び個人のプライバシーの保護に十分配慮し,匿名性が確保されること,面接に際しては,語りたくないことは語らなくてもよいことなどを確認し,録音することを了承のうえ実施した.

4.研 究 結 果
 1.〔人間関係〕,〔生活適応の手がかり〕,〔施設で生きる力〕,〔行動障害の背景〕,〔既成概念を取っ払う〕,〔いつものケアを見直す〕,〔心を開く〕,〔関心を持つ〕,〔あきらめない〕の9の概念が析出され,これらは,【高齢者理解の端緒】,【評価的態度】,【能動的・肯定的態度】の3つのカテゴリーに集約することができた.【高齢者理解の端緒】を構成する〔人間関係〕,〔生活適応の手がかり〕,〔施設で生きる力〕,〔行動障害の背景〕という概念は相互に関連していた.このような結果から,ケアワーカーは高齢者の情報を単体として理解するのではなく,ストーリー性をもって理解していた.つまり,高齢者の生活全体を総合的にアセスメントしていることが明らかになった.生活場面でケアワーカーが行うアセスメントには,〔心を開く〕,〔関心を持つ〕,〔あきらめない〕という【能動的・肯定的態度】と〔既成概念を取っ払う〕,〔いつものケアを見直す〕という【評価的態度】が影響していた.さらに,【評価的態度】と【能動的・肯定的態度】は,【実践的価値】という上位カテゴリーを形成した.
 2.ケアワーカーが行うアセスメントの内容は,ケアプラン作成に連動するものと連動しないものがあった.連動するものは,高齢者の行動障害に関するものが多かった.一方,連動しないものは,ケアプラン作成時には問題状況として検討されず,生活上の課題としても浮上しなかった情報であった.高齢者の生活は一見安定しているように見えているので,見過ごされてしまいそうな情報であった.それらは,アセスメントの場が日常生活場面である,介護サービスの提供と平行して実施しているという特徴を持つケアワーカーが行うアセスメントであるからこと把握できる情報であった.ケアワーカーは,ケアプランのためのアセスメントというよりも,高齢者の生活を少しでもより良くする手がかりを見出すためにアセスメントしていた.
 3.施設のケアプランであるため,ケアワーカーは新しい環境に適応するという視点を持ってアセスメントしていた.つまり,現状を確認しつつ,今ある状態が過去からどのようにつながっているのか,今の生活全体のなかで,それがどのような意味をもっているのか捉えようとしていた.

今後の課題としては,さらに多くのケアワーカーへの面接調査を実施して,今回の研究結果の妥当性を精査するとともに,新しい知見を探索することが求められる.また,ケアワーカーは,生活場面でのアセスメントを促進させるために,【実践的価値】を理解し内面化することが望まれるが,そのための支援についての研究が求められる.

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