介護予防プログラムの利用を促進・阻害する要因の検討
-利用者に対する質的調査からの分析-
○ 明星大学 山井 理恵 (会員番号1719)
国立保健医療科学院 森川 美絵 (会員番号3249)
ルーテル学院大学 山口 麻衣 (会員番号5165)
キーワード: 《介護保険》 《介護予防》
介護保険が再編され、筋力トレーニングなどの介護予防プログラムが設けられた。介護予防プログラムについては、効果を評価するもの(竹内 2005)、効果を疑問視するもの(二木 2006)の両者が存在する。しかしながら、当事者である利用者自身が介護予防プログラムに対していかなる認識を持ち、参加や中断に至るのかについては十分に明らかにされているとは言えない。
本研究では、介護予防プログラムを継続している利用者、中断した利用者、参加しない利用者からの声を比較することにより、利用者自身の視点からの介護予防プログラムに参加・継続する要因を明らかにし、参加・継続を促すための支援方法について検討を行うことを目的としている。
(1)研究の視点:調査研究にあたっては、社会資源の一つである介護予防プログラムの利用に至る促進要因と阻害要因を、当事者である利用者自身の視点に焦点を当て検討する。
(2)研究の方法:調査の対象は、東京都下B市に所在するデイサービスセンターQの利用者8名である。調査に当たっては、デイサービスのセンター長に「要介護1、2」から「要支援1、2」の利用者で調査に協力可能な利用者の選定を依頼した。本報告ではこのうち「要支援1、2」と認定された利用者5名を対象とする。面接調査の内容は、①基本的属性、②介護保険再編前後のサービス利用状況と生活への影響、③サービスに対する意見である。
調査の実施時期は、平成20年1月30日、2月3日から2月5日の4日間である。デイサービスセンターQの会議室で面接調査を行った。面接調査には、調査メンバー1名あるいは2名で行った。
調査に際しては、研究の趣旨や結果の利用、調査対象者や利用者に対するプライバシー保護、記録の作成に関する使用許可、論文作成について説明し、調査対象者からの了承を得ている。面接は、外部から話を聞くことのできない会議室などで実施し、守秘性に配慮した。得られたデータについては、プライバシー保護のために分析に支障をきたさない範囲で、省略・修正を行っている。
4.研 究 結 果分析対象である5名について(1)介護予防プログラム(筋力トレーニング)に継続して参加している利用者、(2)一度参加したが中断している利用者、(3)参加していない利用者ごとに概要を示す。
(1)介護予防プログラムに継続して参加している利用者
介護予防プログラムに参加している3名の利用者が介護予防プログラムに参加したきっかけは、デイサービスセンターのスタッフから、「よい機械がありますよ」「参加しませんか」と筋力トレーニングを誘われたことである。参加した結果としては、「ご飯がよく食べられ、よく眠れる」「足が良く動くようにになった」「ほかの人よりも多く取り組んでいる」というような声が聞かれていた。
(2)一度参加したが中断した利用者
一度参加したが、現在は中断している利用者も1名存在した。プログラムに参加したことで、体力が強化したことは感じていたものの、一度体調を崩して休んだことで体力が低下、再度参加する意欲をなくしてしまい、参加を中断したままになっている。
(3)参加していない利用者
一度も参加していない利用者も1名存在する。参加していない理由としては、身体の痛みが強いことをあげていた。さらに、「要介護」から「要支援」に変更したことにより、サービスが減少し、生活の変化に不安を抱いていた。
参加している利用者からは、筋力トレーニングに参加したことに対する変化に対して、「よく眠れるようになった」「食欲が増進した」「筋力トレーンングがない日は『どうして』と思う」という明確な効果を評価する声が聞かれた。この明確な効果に対する認識が今後もプログラムに継続・参加する要因であると考えられる。一方、中断した利用者においては、中断による体力の低下が再びの参加の意欲を損なっている。さらに、身体の痛みのある利用者については、参加の意向を全く見せていなかった。
梅谷(2007)は、不安を抱かずにパワーリハビリテーションを行うための援助方法として、丁寧な指導や個別メニュー作成、ケアスタッフによる身体状態の把握、なじみの仲間との実施、体調に関する医療的サポートをあげている。本研究の結果からは、プログラムに参加・継続する要因として、利用者自身が快適な生活をもたらす効果を認識があることが明らかになった。
*本研究は科学研究費補助金(基盤研究(C))「介護保険制度再編にともなうケアリング関係の変容とその対処方法に関する実証的研究」(課題番号18530456)による研究成果の一部である。報告者以外の研究メンバーは、笹谷春美(北海道教育大学)、永田志津子(札幌国際大学)、齋藤曉子(日本赤十字看護大学)である。