自由研究発表高齢者福祉6  加藤 利佳子

地域包括支援センターにおける介護予防ケアマネジメントの有効性
   -介護予防サービスが利用者の生活の質に及ぼす影響-

○ 首都大学東京大学院  加藤 利佳子 (会員番号6451)
首都大学東京大学院  石附 敬 (会員番号6958)
明星大学  浅井 正行 (会員番号3535)
首都大学東京  和気 純子 (会員番号1605)
キーワード: 《介護予防ケアマネジメント》 《EBP》 《QOL》

1.研 究 目 的

介護保険制度は2005年の改正により「予防重視型のシステム」へと転換され,新たに創設された地域包括センターにおいて新予防給付や地域支援事業が実施されることとなった.国では2005年に「介護予防事業等の効果に関する総合的評価・分析調査検討委員会」を設置し,費用対効果の観点から前向きコホート研究を実施している.限られた資源の中で最大の効果をあげる実践を追及するためにも更なるエビデンスの蓄積が急務であるが,その効果測定は単なる介護予防の達成のみでなく,利用者の生活全般の質の向上を含めて,より包括的な観点からなされる必要がある.そこで本研究では,新規に介護認定を受けた調査対象者への事前調査により彼らの「生活の質」を総合的に把握し,さらに6ヵ月後の変化やサービス満足度の評価を行って,介護予防ケアマネジメントの有効性を検討した.

2.研究の視点および方法

(1)調査対象者
   東京都A市にある12箇所の地域包括支援センターにおいて,①平成19年11月~平成20年3月に新規に要支援認定をうけ,介護予防ケアマネジメントに基づいて継続的に介護予防サービスを利用した137名,および6ヵ月後の2回目調査に回答した111名,②平成19年11月頃に要支援認定を受けたが,個人的な希望により介護予防ケアマネジメントに基づく介護予防サービスを利用しなかった要支援者18名,③上記①の2回目サービス利用者111名のケアプラン作成を担当する地域包括支援センター相談員を対象とした.
  (2)調査の枠組みおよび方法
   介護予防サービスの効果を,①要支援者の生活の質の変化(サービス利用者ならびに非利用者の6ヵ月後の変化),②利用者のサービス満足度(6ヵ月後),③相談員の実践自己評価(6ヵ月後)の3領域から評価したが,本稿では①に絞って言及する.サービス利用者については地域包括支援センターの担当相談員が,非利用者については本調査の研究スタッフが対象者宅を訪問し,初回認定直後,および6ヵ月後の2回にわたり聞き取り調査を実施した.生活の質の構成要素として,ADL,IADL,生活満足度,精神的健康度,ソーシャルサポートを測定したほか,基本属性,主観的健康状態,暮らし向きについてたずねた.
  (3)分析方法
   t検定を用い,各項目における初回調査と6ヵ月後の平均値を比較した.また,精神的健康や生活満足度に影響を与える要因を探るため,サービス利用者のうちそれぞれの得点で改善した者と悪化した者上位20名を抽出し,t検定を用いて各項目の平均値を比較した.

3.倫理的配慮

対象者に対し,面接者が訪問時に研究の目的を書面および口頭で説明し,同意が得られた者に対してのみ調査を実施した.対象者台帳は各包括支援センターで管理し,調査票は無記名でコードナンバーを割り当て,匿名性を確保した.

4.研 究 結 果

(1)対象者の属性と6ヵ月後の介護度の変化
サービス利用者は非利用者に比べて要支援2の割合が多く(p<0.05),高学歴の者が多かった(p<0.01).その他の基本属性について両群に差は見られなかった.サービス利用者の6ヵ月後の要支援1の改善・維持率は約70%,非利用者は86%であったが,初回調査の時点で利用者は非利用者と比べて身体的自立度が低かったことが影響していると思われる.サンプルに偏りが見られるため,以下,日利用者のデータについては補足的に示す事とする.
  (2)生活の質の変化
   サービス利用者において,IADLの「請求書の支払い」(p<0.05),「年金などの書類記入」(p<0.05),「預貯金の出し入れ」(p<0.05)と,「健康に関する記事や番組への関心をもつこと」(p<0.01)の4項目で統計的に有意な差がみられ,いずれも6ヶ月後で自立度が低くなっていた.また,ADL及びIADLの合計が有意に近い傾向で低下していた(p<0.1).一方,サービス非利用者はすべての動作で変化はみられなかった.
   精神的健康はWHOQOL5を用いて測定した.尺度の合計において有意差はみられなかったが,「意欲的で活動的に過ごすことができたか」という設問について,サービス利用者において改善が認められ(p<0.05),非利用者で悪化傾向が認められた(p<0.1).
   生活満足度は,「最も満足な生活を100とした場合,あなたの今の生活の満足度は何点か」という設問でたずねた.その結果,サービス利用者で改善傾向を示し(p<0.1),サービス非利用者では統計的な差異はみられなかった.
   ソーシャルサポートは,サービス利用者では,同居家族からの情緒的サポートの受領がやや増加し(p<0.1),別居家族への情緒的サポートの提供が減少(p<0.05)した点を除いて大きな変化は認められなかった.一方,サービス非利用者では,専門家からの情報的サポートの受領が減少したほか(p<0.1),別居家族および友人・隣人への手段的サポートの提供(p<0.05),友人・隣人への情報的サポートの提供(p<0.01)が有意に減少していた.
  (3)生活の質に影響を与える要因
   精神的健康度が悪化した者は改善した者に比べ主観的健康感(p<0.05)と受領サポート(p<0.01)が有意に低下していた.生活満足度に関しては統計的な有意差はみられなかった. 以上のことから,加齢や疾病に伴い身体的自立度が低下したとしても,介護予防ケアマネジメントに基づく予防サービスの利用により意欲や生活満足度は向上し,同居家族からの情緒的サポートも増加するなど一定の効果が得られることが示唆された.

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