訪問介護実践の過程に関する研究
- 介護実践の<起点>の探究-
○ 東北福祉大学大学院 博士課程 隣谷 正範 (会員番号7346)
社会福祉法人薫風会 佐藤 和夫 (会員番号4367)
東北福祉大学 田中 治和 (会員番号0116)
キーワード: 《訪問介護実践》 《起点》 《合目的的営為》
訪問介護の「介護」という枠組みで示される身体介護、生活支援、相談・助言は、介護福祉援助技術に属する内容である。この介護については家事行為を中心にroutine workと解されがちな面があるが、介護実践にはそれと不可分の形で≪如何に関わるか≫という創造性を必要とする営為である。
そして、創造性を醸成するのが訪問介護員の省察(反省・勉強…これらは訪問介護員自らの発言に基づく)という≪思考上の介護実践の再構築≫であり、これに基づいた≪対象の感じ方、捉え方、行動のとり方≫こそが後の介護実践の展開(転回)を決定する須用な要件である。これらの要素に裏づけされた訪問介護員の意図的な働き掛けは、相手への意識等の事象認識を基に、適時修正を加えながら実践される、謂わば対象への仮説をもった合目的的営為と捉えられる。
本研究では、訪問介護員が、何時を起点に利用者と自身を含む双方のイメージを意識して描き実践しているかという、「仮説の実践化」に至る過程を面接調査を通して探究し、訪問介護実践の特徴に一定の示唆を与えることを目的とする。その上で、本研究結果を訪問介護実践を繙く基礎資料の一部としたい。
【研究デザイン】:一定の質問に従い若干の自由度を持ち合わせながら面接を進行し、被面接者の語りに沿って情報を得る調査技法である半構造化面接法を用いた。
【対 象】:先行研究を根拠として訪問介護に対する一定の価値観を有する訪問介護員の抽出を策すため、経験年数が5年以上かつ介護福祉士有資格者を中心とした同資格者を含むⅩ県内のY訪問介護事業所に勤務する訪問介護員を調査対象とした。
【調査期間】:データの収集にあたっては、2009(平成21)年5月2日から5月11日までの10日間において、順次、面接を行い事象のデータを収集した。そして、面接とデータの分析を併行して行い、7名の調査を終えた時点でデータの飽和化に至ったと判断し、調査を終了した。尚、データ収集に先立ち、2007(平成19)年8月から定期的にY訪問介護事業所における研修、参加観察による該当訪問介護員の実践への理解の機会、予備調査の期間を設けており、研究実施に際しての主観性の減少を企図している。
【分析方法、質問項目】:面接内容は対象者全員の了解の基に録音し、全時間の逐語記録を作成、文節毎に文章を抽象化し、その意味内容から共通性を見出した。
面接では、研究者自身が作成した半構造的質問紙を使用した。その上で、各訪問介護員が関与するケースを対象として、主としてa. 援助・支援行為に際する意識化の起点、b. 援助の導入・終期時の思惟、c. 実践の点検、の内容に関する質問を行った。
研究計画書、及び研究者の守秘義務等の責任を明らかにした研究承諾書を用意して調査研究への協力を得る等、日本社会福祉学会研究倫理指針に基づき調査を実施した。
4.研 究 結 果本研究では、訪問介護員が仮説に重きを置きながら日々の介護実践を創りあげているということを改めて捉えることができた。つまり、訪問介護員の創造に基づく「仮説の実践化」の過程は、【前回の実践の終結部から次回の実践の導入部】までの各段階が独立したものではなく、相互に連関する一連の過程であることを前提に捉えた際、以下の三点に顕著な特徴を見出せる。
(1)訪問介護員は、何時から双方(利用者・訪問介護員)のあり様を意識して描くか、というイメージ化は、≪実践の前日或いは当日≫に行われる。また、この部分において≪全体の大枠のみ≫が創られる。その大枠を基として、実践導入部において≪利用者の状況≫を踏まえてから、初めて≪イメージの修正、援助・支援内容細部の創造≫に至る。
(2)訪問介護実践の点検と、次回の実践のイメージ化の間には、該当する利用者のことを思考しない期間が存在する。調査データを根拠材料とすれば、この期間の役割は訪問介護員の援助・支援に際しての、謂わば≪熟成する期間≫と位置付けることができる。
(3)≪思考上の介護実践の再構築≫は、日々の訪問介護実践の≪イメージ化≫の段階、≪イメージの修正・細部創造≫の段階のみならず≪利用者状況の把握≫、≪利用者情報獲得≫の際の解釈・運用に活用される。さらにはその援助・支援が利用者に効果的な実践であったか否かという根幹をも左右すべき主要素となる。
<具体的内容については、発表当日に面接記録等の資料を用いて、詳細な説明を加える。>
参考文献
・田中治和「続・社会福学方法論の基本問題」『東北福祉大学研究紀要』東北福祉大学、2003年
・隣谷正範 『訪問介護の本質に関する基礎研究』東北福祉大学大学院 修士論文、2008年