自由研究発表高齢者福祉5  山口 麻衣

介護施設におけるケアチームの現状と課題
   -相談職と介護職のケアの質に関する認識に着目して-

ルーテル学院大学  山口 麻衣 (会員番号5165)
キーワード: 《ケアチーム》 《介護施設》 《チームへの支援》

1.研 究 目 的

介護施設においては、従来型施設・新型ユニット・準ユニット・併用型の施設など、ユニットないしは一定のワークチームによって、ケアワーカーが協働してケアの質を高めるための実践を行っている。高齢者ケア実践における多職種間・多施設間の協働についての議論は比較的多くなされてきたが、施設内のケアワーカーのチーム形態・チーム内の協働についての議論は少ない。我々が特別養護老人ホーム(以下、特養)の施設長、相談員、リーダーなどへのインタビュー調査を実施した結果から、特養に多様なチーム形態があり、職員間の効果的なチームワークや協働がケアの質を高める要素であることがうかがえた。 本報告では、インタビュー調査実施後に行った、生活相談員(あるいは施設介護支援専門員、以下、相談員等)と介護職員への量的調査の結果をもとに、(1)介護施設におけるチームケアの現状と課題、(2)相談員等と介護職員によるチームにおけるケアの質の認識、(3)相談員等によるチームへの支援の現状について探索的に検討することを目的とする。

2.研究の視点および方法

A県老人福祉施設協議会の協力を得て、同協議会に所属する全100施設の特養の相談員等1名と介護職員各施設10名に対し、郵送法による質問紙調査をした(2008年6月実施)。相談員等61名(うち35名が女性、平均年齢35.9歳)、介護職員538名(うち384名が女性、平均年齢32.6歳)から回答を得た(回収率それぞれ61%、53.8%)。施設内におけるチームケアという視点から、相談員等には、施設内のケアの質のチーム差の認識、施設相談職としてのチームへの支援(9項目,6件法)、チームによるケアの質が生じる(生じない)要因(自由回答)についてたずね、介護職員には、自分のチームにおけるケアの質の認識、チームの強みと課題(自由回答)などの項目についてたずねた。分析方法としては、量的データに関する記述統計・分散分析と自由回答の分析を中心に行った。

3.倫理的配慮

調査内容は事前に老人福祉施設協議会に確認いただいた。調査依頼書及び質問票に、調査の目的、プライバシーの確保、答えたくない質問は答えなくてもよいこと、調査票の返送をもって同意を得たものとさせていただくことを記した。

4.研 究 結 果

(1)介護施設におけるチームケアの現状と課題
   介護施設におけるチーム形態の実態としては、組織別では特養従来型施設(全体で一チーム)が32.8%、ユニット単位の施設が41.4%、複数ユニット型が8.6%、施設内構造単位が15.5%、その他が1.7%という結果となり、多様な実態が確認できた。
  (2)相談員等と介護職員によるチームにおけるケアの質の認識
   相談員等のチーム間のケアの質の差の認識の回答は、ユニット間であまり差がない(20.8%)、少し差がある(54.2%)、大いに差がある(25.9%)であった。自由回答結果から、差が生じる要因としては、リーダーの能力・資質・力量、情報共有不足、職員本人のモチベーション低下、不十分なコミュニケーションなど、差が生じない要因としては話し合いによる情報共有の徹底、スタッフ配置の工夫による技術レベルの均一化などがあげられた。
   介護職員のケアの質の認識として、従来型(44.1%)、新型ユニット(26.1%)、両者の併用(準ユニット含む)(22.2%)のグループ間で比較した結果、従来型が他グループより自分のチームのケアの質を低く認識していた。自分のチームの課題(自由回答)としては、情報共有不足、コミュニケーション不足、新人教育、余裕のなさ・負担感などがあげられた。
  (3)相談員等によるチームへの支援の現状
   相談員等によるチームへの支援については、「チーム内の問題解決の促し」「相談」「励まし」などの情緒面での支援は約8割が対応している(「かなりあてはまる」から「どちらかといえばあてはまる」)と回答していたが、「規範」「役割」「運営の仕方」への教育的な支援への同上の回答は5-6割程度であった。施設内の業務や関係調整に関連する支援は、「効率的遂行」と「チーム間の調整」が約6割であったのに対し、「チーム内の関係維持・促進」が約8割と回答にばらつきがみられた。

   以上の調査結果から、特養のケアチームは多様であること、相談員等の約8割がケアの質のチーム差を認識していたこと、介護職員のケアの質の認識も形態によって異なっていたことからチーム間のケアの質の多様性がうかがえることが確認できた。相談員等のチームへの支援については、対応できている傾向がみられたが、項目による傾向の違いも認められた。本調査は探索的ながらも相談員等と介護職員のチームやケアの質の認識について把握できたが、一都道府県での調査であり一般化は難しい。特に相談員等調査は人数も限定的であり本調査結果を踏まえ他の都道府県もあわせた調査デザインの検討が必要である。ケアチーム間のケアの質の差の状況と関連要因の分析、相談員等によるケアのチームへの支援やスーパービジョンの分析、チームリーダーの役割の分析などが今後の課題である。

*本研究は平成19-20年度科学研究費補助金(基盤研究(C))「介護保険施設でのケアの質を高めるチームコミュニケーションと組織公正感」(研究代表者:明治大学教授 山口生史)(課題番号19530567)による研究成果の一部である。

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