自由研究発表高齢者福祉5  佐瀬 美恵子

特別養護老人ホームの看取りを支えるケアカンファレンス
   カンファレンス記録にみるターミナルケア

○ 甲南女子大学  佐瀬 美恵子 (会員番号3118)
   高知女子大学  後藤 由美子 (会員番号6758)
キーワード: 《ターミナルケア》 《ケアカンファレンス》 《チームケア》

1.研 究 目 的

長年暮らした所(自宅や施設)で、尊厳をもって安心して穏やかに死を迎えることは高齢者や家族の願いであるが、我が国では高齢者の多くが病院で死を迎えており、特別養護老人ホーム(以下、特養と略記)の入居者も最期を病院で迎えることが多い。
   介護保険制度の改正では特養での看取り加算が設定されるなど施設でのターミナルケアが指向されている。しかし、特養はその経験が少なくスタッフの戸惑いも大きいと思われる。そこで、開設当初から看取りに取り組んでいる施設の事例を分析し、施設での看取りを可能にする要件やケアの方法、チームケアのあり方、課題等を明らかにする。それらが明らかになることによって、高齢者の尊厳のある最期を支援する方法のいくつかを提示できると考えている。研究は初期の段階であるが、ケアカンファレンス(以後カンファレンスと略記)記録の分析からいくつかの知見を得たので報告する。

2.研究の視点および方法

分析資料としてカンファレンスの記録を使用した。記録にはケアの根拠や経過、課題が整理され、また、各専門職の役割等が記録されており、振り返りの資料として適していると考えた。具体的にはA特養において平成16年度に施設で看取った11事例の記録(平成13~16年度)を、'ターミナルケア'が検討されはじめてから死亡するまでの期間(ターミナル期)とそれより前の期間の2期に分け、カンファレンスの開催状況や記述されているケアの内容、生活指導員・介護士・看護師・医師・家族等の役割を分析した。

3.倫理的配慮

施設長と研究者との間で個人情報の取り扱いに関する覚書きを取り交わし、宣誓書を施設長に提出した。カンファレンス記録の事例は全て匿名化し、個人を特定できないようにして提供いただいた。本研究は甲南女子大学研究倫理委員会の承認を得ている。

4.研 究 結 果

カンファレンスの参加者は対象者を担当する介護士、生活指導員、看護師の3職種を基本としており、状況に応じて家族や医師の参加があった。カンファレンスはケアプランの立案・評価、高齢者の体調の急変時、ターミナルケアの検討等のため開催されている。
   カンファレンスの開催状況はひとりの高齢者に対して約3年間(入所期間ではない)で最大19回、最少5回、平均すると12回程度になる。間隔は平均約3ヶ月であるが、ターミナル期になると短くなり、毎日カンファレンスが行われている事例もある。
   A特養では入所時にターミナルケアに関する意向を伺っている。しかし、カンファレンスの記録の中に最初に'ターミナルケア'に関連する記述がみられる時期は、事例によってさまざまである。最後の記録に初めて記述される事例もあるが、亡くなる1年以上前からターミナルケアを意識しながら援助している事例が6事例ある。早い段階で看取りに対する考え方を把握、共有しながらチームケアが展開されていると考えられる。
   最後のカンファレンスから死亡日までの期間は、133日後に死亡している1事例を除くと平均9日になる。カンファレンスの翌日に死亡している事例も3例ある。状況の変化にあわせてカンファレンスが行われており、スタッフ間でケアの統一を図りながら家族とともに看取りの準備が行われている。
   ケアにかかわる人々の役割をみると、生活指導員はカンファレンスの日程調整を行い、時に入院先の医師と家族の面談にも立ち会い、家族支援の中心的な役割を担っている。介護士は他のスタッフに本人の状態やケアの状況の説明を行い、ケアプランの策定・実施・評価について中心的な役割を担っている。看護師は他のスタッフからの医療的な疑問に応え、状況を解釈しアドバイスを行いながらスタッフと共にケアの評価・ケア計画に参加している。また、看護師は医師への連絡調整や、医師が参加できない会議において代替的に他のスタッフや家族への説明役を担っている。医師がカンファレンスに参加する機会は多くはないが、ターミナル期には病状の説明を行い、家族の医療的な不安に応えると同時に、予測される看取り期のリスク(誤嚥、窒息、訪室したら亡くなっているかもしれない等)について説明を行っている。
   家族(子どもや甥姪・孫等)のカンファレンスへの参加状況には事例によってバラツキがあるが、どの家族も本人の苦痛を伴わない限り、施設での自然な看取りを希望している。スタッフは家族の参加の有無にかかわらず、家族の意向を尊重しながら最期までその人らしい生活を保障することを考え、食事量の減少や誤嚥や状況の変化等に苦慮しながらも、家族の希望に添うようにチームケアを展開している。ターミナル期には家族の参加も増え、延命処置やケアのあり方が繰り返し検討されている。スタッフは家族に情報提供を行いながら家族の意思決定を支援し、家族と共にターミナルケアを展開している。
   以上、分析結果からA特養ではカンファレンスが有効に活用され、家族も含めたチームケアが展開されており、施設での看取りを可能にしていると考えられる。しかし、ターミナルケア場面において家族にも専門職にも迷いや揺れがある。今後は本人のカンファレンスへの参加等により意思を確認しながら、本人の意思を尊重した、家族もスタッフも納得できるターミナルケアのあり方を検討することが課題である。
   また、今回の分析はカンファレンス記録を基にしたものであり、スタッフや家族の実際の思いや活動を充分把握できない限界がある。今後はスタッフへのグループインタビュー等も加え、分析を深めたいと考えている。

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