高齢者福祉サービスにおける苦情の捉え方と苦情解決の実態と課題
-特別養護老人ホームおよび居宅介護支援事業所に対する全国調査から-
北星学園大学 岡田 直人 (会員番号2454)
キーワード: 《苦情解決》 《特別養護老人ホーム》 《居宅介護支援事業所》
2000年以降、社会福祉に苦情解決の仕組みが動き出した。先行研究の結果、一様ではないが苦情内容の分類はあるが、苦情の捉え方や苦情解決の技法はいまだ整理されていなかった。しかし、先行する一般企業やビジネスのそれを当てはめるには違和感がある。なぜなら、そこには利用者の権利擁護や自立支援の視点がないからだ。そこで、介護保険および老人福祉サービス(以下、高齢者福祉サービス)における実践現場での苦情の捉え方と苦情解決の実態と課題を明らかにするために量的調査を実施した。ここでは、特別養護老人ホーム(以下、「特養」)と居宅介護支援事業所(以下、「居宅支援」)の苦情の捉え方および苦情解決の実態の相違点と類似点および課題を明らかにすることを目的とする。
2.研究の視点および方法調査対象者は、WAM-NETに登録(2008年12月15日時点)されている全国47都道府県の特養(6,115件)、居宅介護(34,661件)から無作為に抽出した。その際、47都道府県毎の特養と居宅支援の登録数に比例するように、都道府県毎に調査対象数の規模を反映させた。このような手続きをふみ、①特養の苦情解決責任者、②特養の苦情受付担当者、③居宅支援の管理者または苦情対応している介護支援専門員の3者に対して、同時期に同じ質問紙を500人ずつ合計1,500人に発送した。調査方法は、質問紙を用いた自記式郵送調査を実施した。調査期間は、2009年1月9日(金)から1月26日(月)までとした。結果、本報告の分析対象となる有効回収率(数)は、①特養の苦情解決責任者は27.2%(136)、②特養の苦情受付担当者は37.6%(188)、③居宅支援の管理者または苦情対応している介護支援専門員は26.8%(134)であり、全体では30.5%(458)となった。なお、ここでは、苦情解決責任者と苦情受付担当者を合算し、特養と居宅支援を比較して分析を行った。なお、調査項目は、同じ趣旨で行われた半構造化質問紙による面接調査(15名)(平成18年度)の結果と先行研究を踏ま え、回答者と事業所に関する基本属性(15項目、以下同様)、苦情の捉え方(20)、誠意の捉え方(9)、苦情の内容(11)、日頃の苦情対応の仕方(20)、相手の主な要望内容(13)を設定した。基本属性以外の項目は、「そう思う(5点)」から「そう思わない(1点)」の5段階を設定し得点化した。分析方法は、基本属性は単純集計のみとし、それ以外については独立したサンプルのt検定を行った。
3.倫理的配慮調査の実施、結果の集計、分析などは本報告者が行い、調査の結果はすべて統計的に分析し、調査対象者の匿名性を確保すること、調査結果は学会・論文・研修会等で報告することを質問紙に記載して調査対象者に説明した。
4.研 究 結 果〔結果〕【回答者と事業所に関する基本属性】の職種では、特養は「(主任)生活相談員」40.1%、「正副施設長」36.7%、居宅支援は「介護支援専門員」59.4%、「管理者」35.3%であった。専門性では、特養は「相談援助職」48.6%、「管理職」39.2%、居宅支援は「相談援助職」55.7%、「管理職」23.7%であった。性別では、特養は「男性」63.3%、居宅支援は「女性」76.1%であった。年齢は両者ともに「50歳代」が最も多く、「40歳代」と続いた。
以下、t検定の結果を「有意差があり特養の方が平均値の高かった項目(平均値)」「有意差があり居宅支援の方が平均値の高かった項目(平均値)」「有意差がなかった(共通)項目(特養と居宅支援の平均値)」で整理した。【苦情の捉え方】特養では「声を聞くチャンス(4.50)」「権利擁護の機会(4.14)」、居宅支援では「理不尽要求に困惑(3.69)」「生活困りごとが苦情(3.44)」、共通では「必ず発生する(3.95)」「理解を促すチャンス(3.93)」「介入のチャンス(3.67)」「ノーマティブニーズがある(3.57)」「プロフェッショナルニーズがある(3.45)」他となった。【誠意の捉え方】特養では「まとまったお金(2.66)」、居宅支援では「自宅への訪問(4.18)」「関与職員の謝罪(4.08)」、共通では「丁寧な態度(4.50)」「心のこもった謝罪(4.43)」「責任者の謝罪(4.39)」「詳しい説明(4.35)」他となった。【苦情の内容】特養では「他の利用者(3.05)」、居宅支援では「制度(3.48)」、共通では「職員の接遇(3.87)」「サービスの質・内容(3.83)」他となった。【日頃の苦情対応の仕方】特養では「上司に相談(4.39)」「窓口一本化(
4.16)」「複数人で対応(3.89)」、居宅支援では「精神疾患に配慮(4.37)」「認知症に配慮(4.35)」「外部機関に相談(3.04)」、共通では「言葉遣いに気をつけている(4.50)」「関係者から情報収集(4.49)」「まず受け止めている(4.44)」「反論せずに聞く(4.38)」他となった。【相手の主な要望内容】ここでは有意差のある項目はなかった。共通として「再発防止(4.09)」「事実確認の説明(4.05)」「誠意ある対応(4.04)」「今後に活かされる(3.86)」「サービスの質の向上(3.77)」「謝罪(3.62)」他となった。
〔考察〕以上の結果から、高齢者福祉サービスのなかで特養と居宅支援について、そのサービス実施主体の特性・体制に起因すると示唆される相違点がある一方、サービス実施主体に関わらず共通する苦情の捉え方と苦情解決の実態があることが明らかとなった。
〔課題〕研修等を通じて、共通に表れた結果をジェネリックな視点・支援として自信を持って適切に苦情対応・解決できるように強化していく一方、相違点のあった項目で組織体制の脆弱性に起因していると示唆されるものについてはそれを喚起・強化する必要がある。
本報告は、平成18~20年度科学研究費補助金(若手研究(B))「高齢者福祉サービス分野における苦情の捉え方と苦情解決の技法に関する実証的研究」(研究代表者:岡田直人)による研究成果の一部である。