自由研究発表高齢者福祉4  小木曽 加奈子

介護老人保健施設における施設運営管理について
   -認知症ケアに焦点をあてて-

○ 中部学院大学短期大学部  小木曽 加奈子 (会員番号6904)
   岐阜医療科学大学  安藤 邑惠 (会員番号1580)
   東京都福祉保健局  阿部 隆春 (会員番号7301)
  東洋医療福祉専門学校  平澤 泰子 (会員番号7302)
キーワード: 《介護老人保健施設》 《施設管理》 《ケア実践者》

1.研 究 目 的

介護老人保健施設は,医療と福祉の中間施設として位置づけられ,利用者の日常生活を支えるケア実践者として,看護職や介護職が配置されている。異なる教育背景を持つ両職種であるが,利用者のQOLの向上のためには協働しながらケアを行うことが必要となる(小木曽,2009)。現在,施設の多くの利用者が認知症高齢者であり,認知症ケアの体制を施設全体で構築することが重要となる。そこで,看護職と介護職の視点から,認知症ケアを実践する上での施設運営管理の課題を明らかにすることによって,効果的な労働環境改善方法を検討するための基礎的資料を得ることを目的として本研究に取り組んだ。

2.研究の視点および方法

1)調査期間2008年4~5月。
  2)介護老人保健施設に加盟している東海4県の入所定員100床以上の規模の施設から,確率抽出法を用いて比例割当法にて100施設を抽出し,対象者1,000名(看護職500名、介護職500名)のうち,回収は669票(66.9%)であり,その内の看護職48名・介護職52名の認知症ケアにおける施設運営管理に関する自由記述を本研究の分析対象とする。
  3)分析は川喜田が示すKJ法である「紙切れ作り」「グループ編成(表札作り)」「A型図解(空間配置や島どり、図解化)」の過程部分を参考にして行った。カテゴリー化にあたっては,研究者4名で協議し合意を得ながら進めた。

3.倫理的配慮

看護課長に目的および調査内容について口頭と文書にて説明をし,看護職及び介護職に対しては,文書にて説明をし,本研究に賛同をしなくとも業務上の不利益がないこと,個人名が特定されることはないことを説明し,研究協力を依頼した。アンケートの提出をもって研究同意の意思確認を行った。看護職及び介護職の人選は,看護課長に一任した。なお,本研究は岐阜医療科学大学の研究倫理委員会の承認を受けて実施した。

4.研 究 結 果

1)対象者の属性として,看護職の平均年齢±SDは44.92±8.984であり,女性は46名(95.8%)であった。看護師は26名(54.2%)であり,常勤の採用形態は46名(95.8%),年収は300~400万未満は21名(43.8%),現職場での勤務年数は5~10年未満が15名(31.3%)と最も多かった。介護職の平均年齢±SDは37.21±11.171であり,女性は41名(78.8%)であった。介護福祉士は41名(78.8%)であり,常勤の採用形態は46名(88.5%),年収は200~300万未満は22名(42.3%),現職場での勤務年数は5~10年未満が22名(42.3%)と最も多かった。
  2)領域は「」、カテゴリーは『』、サブカテゴリーは" "で示す。回答内容を一文一義一語彙とし,看護職113,介護職200は,5カテゴリーを形成し,更に「施設の社会的側面」「施設のマンパワー」の2つの領域となった。
   「施設の社会的側面」の領域:サブカテゴリーとしては,"施設の役割の不明確さ""介護保険上の制約""医療との関わりの不足"で構成された。介護老人保健施設は在宅復帰を目指した施設として位置づけされているが,現状では転帰が難しい状況にある。また,医療施設ではないため,医学的な管理が不十分な側面も併せ持っている。そのためカテゴリーとして,『社会的な役割の狭間で』と命名した。サブカテゴリーとしては,"専門棟でのケア体制の必要性""施設のユニバーサルデザイン化""認知症の特化した施設の少なさ""ユニットケアの難しさ""ユニットケアの必要性"で構成された。施設のハードやソフト面の課題であるため,カテゴリーとして,『施設のシステムの課題』と命名した。サブカテゴリーとしては,"さまざまな課題への対応""安心な暮らしを支えるための取組み""社会的な認知症ケアの捉え方"で構成された。認知症の症状のバリエーションや多方面からの支援が必要な状態を示しているため,カテゴリーとして,『認知症ケアの難しさ』と命名した。
   「施設のマンパワー」の領域:サブカテゴリーとしては,"人手不足""個別ケアを実現する人員の増員""働く環境を整備する""施設の報酬を見直す"で構成された。ケア実践の職場環境を整えることが意識されているため,カテゴリーとして,『雇用体制』と命名した。サブカテゴリーとしては,"業務に追われる""認知症の重度化に対応できない""スタッフ個人の課題""施設の意向がケアを左右する""医療との関わりを蜜にした管理体制"で構成された。認知症高齢者のケアを実践するためにはさまざまな課題がある。認知症の重度化に対し施設全体のケア体制を構築することが意識されているため,カテゴリーとして,『ケア体制』と命名した。

5.まとめ

介護老人保健施設は,利用者個々に合わせた療養の場や医療の場として活用されることが求められており,認知症ケアにおいては,柔軟にケアが提供できるように施設のハード面の整備とソフト面の整備が必要である。また,マンパワーの不足が深刻であり人手不足から業務に追われている現状がある。ケア実践者の働く環境を整備することも重要となる。

参考文献
小木曽加奈子,安藤邑惠,阿部隆春,平澤泰子「介護老人保健施設におけるケア実践者の離職意向-看護職と介護職の認識の違い-」第39回日本看護協会論文集-看護管理,pp108-110,2009.

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