自由研究発表高齢者福祉4  後藤 美恵子

ベトナムにおける介護職員の高齢者イメージからの示唆
   - 介護福祉の概念形成への展望 -

○ 東北福祉大学  後藤 美恵子 (会員番号7009)
   東北福祉大学  赤塚 俊治 (会員番号0073)
   東北福祉大学  生田目 学文 (会員番号6069)
キーワード: 《ベトナム》 《高齢者イメージ》 《介護概念形成》

1.研 究 目 的

ベトナム社会主義共和国(以下ベトナムと略す)では統制計画経済政策から市場原理へ転換する1986年の「ドイモイ(Doi Moi:刷新)」政策の導入後、国家経済が飛躍的な成長を遂げた。その一方で、2008年には65歳以上の老年人口が総人口の5.69%を占め高齢化が進展しており、2024年には8.29%といわゆる高齢化社会に達すると予測されている(政府統計)。ベトナム社会は、伝統的社会文化的構造として、国家の基本的な社会単位は村落であった。急速な経済成長は、国民生活に社会的変化、価値体系の変化をもたらした。その一つとして、ベトナム社会に根付いていた家族主義・家族機能が変容し、高齢者の身分的地位・社会的役割が衰退し、高齢者をめぐる問題は新しい社会問題として顕在化するようになった。このような社会的現象を反映して、ベトナムでは、高齢者対策として1998年に高齢者保護法が制定された。さらに、2000年4月に高齢者法が制定され、同法の具体的な施策の一つが施設施策である。しかし、ベトナムでは社会福祉という概念自体が定められておらず社会救助(社会救済)という概念で社会問題への対策を行うものであり、施設における介護職員の専門教 育・研修システムについても未整備の状況である。
   従来、高齢者に対する対人援助職において、サービス提供者がもつ高齢者へのイメージや態度は、提供されるサービスの質に大きな影響を及ぼすとされ、高齢者のイメージ形成は、特に否定的なステレオタイプやイメージが、具体的にサービス提供者からの不適切な対応として表面化することが示されている。さらに、老人観はその社会で老人がおかれている状況を反映すると同時に、それを規定し、老人自身の自己概念や適応にも大きな影響を及ぼしているとされている。一方、ベトナム高齢者福祉施設の介護職員と利用者の二者間の関係課題についての研究結果が報告されている。本研究では、ベトナム高齢者福祉施設の介護職員の高齢者イメージを測定し、その構造を検証した上でベトナム社会における介護福祉の概念形成及び人材育成・研修システムへの示唆を検討することを目的とした。

2.研究の視点および方法

調査はホーチミン市にある高齢者福祉施設3ヶ所の介護職員49名を対象とした。本研究に用いた指標は、基本属性、職務意識(東條ら,1985)、高齢者イメージ(古谷野ら,1997)である。本研究では基本属性及び分析に用いた指標に欠損のない47名のデータを用いた。高齢者イメージは、古谷野ら(1997)が開発した、SD法による老人イメージの尺度を用いた。職務意識については、仕事の中身に対する姿勢に関わる要素から検討することとし、東條ら(1985)の次元別仕事満足度『「仕事内容」に対する仕事満足度』を用いた。

3.倫理的配慮

調査は事前に対象者に趣旨と概要を説明し承認を得た上で無記名・任意回答で行われた。

4.研 究 結 果

平均年齢43.1±10.0歳。平均経験年数63.5±78.4ヵ月。高齢者イメージ尺度について、項目の取捨選択と因子数の変更を行いながら因子分析(主因子法・バリマックス回転)を行った結果、因子負荷0.4以上の17項目が選択され2因子が抽出された(累積因子寄与率37.69%)。因子負荷量の高い項目を優先し、かつ先行研究との整合性をとりながら本研究では第一因子から順に「親和性」「力動性」と命名した。高齢者イメージの2因子について、それぞれの項目の得点を合計し項目数で除したものを各因子の得点とし、その高低によって2群に分けた(平均値を基準)。高齢者イメージと職務意識との関連についてピアソンの積率相関係数の算出を行った結果、親和性得点と仕事満足度「満足感」「魅力」で正の相関を認め、力動性得点と経験量で負の相関を認め、仕事満足度「満足感」で正の相関を認めた。また、各因子の得点によって分けられた2群について、経験量と高齢者イメージの高低に差があるか否かを 検定によって比較した。その結果、「力動性」因子のみで有意な関連が見られた( (1)=7.89,p<.01)。さらに、2群について、次元別仕事満足度の高低に差があるか否かを 検定によって比較した。その結果、「親和性」因子と次元別仕事「満足感」において有意な関連が見られた( (1)=5.49,p<.05)。
   以上の結果より、高齢者イメージは介護経験量が少ないと力動性イメージが高いという傾向が認められた。つまり、介護経験量が少ないことが高齢者に対する否定的なイメージ形成に繋がり、経験を重ねることによって否定的なイメージを緩和させ、高齢者というステレオタイプ化されたイメージ形成が経験を通して、高齢者イメージを変容させていると推考される。一方「親和性」因子については、介護経験を重ね、否定的なイメージ形成を変容させ、その結果として利用者に対して親和性イメージを抱き、自身の仕事に魅力を感じ、さらには仕事に対する満足感へと相乗効果を派生させていた。ベトナムにおいては、社会福祉及び介護福祉の概念が確立されていない状況の中で高齢者福祉施設が存在し、そこで生活をし、人生を歩んでいる利用者が存在している確かな現実がある。また、介護職員は専門知識や専門技術を持ち合わせてはいない現実ではあるが、現在の仕事に対する満足感や魅力を感じ、さらには、高齢者に対して肯定的なイメージ形成がされていたことから、今後の人材育成に大きな展望が期待できる。
   ベトナム社会における社会構造の変動、高齢化の進展、さらには、家族主義・機能の脆弱化などを要因として、高齢者問題が表面化した現代にあってその対策に不可欠な介護専門職の人材育成・研修システムを構築することの重要性が示唆された。その際、ベトナム独自の生活習慣・社会性・文化などに即した介護の概念形成及び人材育成・研修システムを構築するための対策を実施すべきである。それを具現化するための方法論を論証することが今後に残された研究課題となる。そして、本研究課題の最終的な到達目標は、「介護の概念形成」によって高齢者はもとより国民一人ひとりが安心して過ごせる生活環境を確立することに、本研究の意義を見出すことができるのである。
   [本研究は平成20年度科学研究費(基盤研究(B))補助金による研究成果の一部である。]

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