インドネシア人介護福祉士候補者と受け入れ施設の雇用における意識と課題
○ 大阪人間科学大学 中井 久子 (会員番号2317)
高知女子大学 後藤 由美子 (会員番号6758)
キーワード: 《インドネシア人介護士》 《受け入れ施設》 《介護人材雇用》
1.研 究 目 的
2008年8月にインドネシアから介護福祉士候補者が来日し、6か月間の日本語研修を終えて2009年1月末から日本の医療・介護施設で就労を始めている。特に介護施設では初めて外国人介護士を受け入れるところが多く、宗教や生活習慣の異なる外国人への対応に試行錯誤を繰り返している。今回のインドネシアからの介護福祉士候補者第一期生の募集は、日本側もインドネシア側も応募開始から締め切りまで、わずか1週間という短い期間で行われ、受け入れ施設と応募者との直接的な面接がないままマッチングが行われたという経緯があり、お互い十分に情報の共有がなされていないという現状であった。第一期生として来日したインドネシア人介護福祉士候補者は、今後の外国人介護士受け入れの試金石として研修中からその動向は注目されていたが、彼らの就労に対する思いや不安は受け入れ施設や国民には聞こえてこなかった。今後もEPAによる外国人介護福祉士候補者の受け入れが展開していく中で、彼らが何を期待して日本で就労するのか、また彼らが日本での就労にどのような将来的展望を持っているのか等を知ることは、施設の受け入れ体制の整備や今後の介護人材の確保や育成を考える上で重要なことと考える。そこで、6か月研修終了直前のインドネシア人介護福祉士候補者に日本での就労に関する意識調査を実施した。また、彼らの受け入れ施設にも受け入れに関する現況調査を実施し、双方の調査結果からインドネシア人介護福祉士候補者の就労における課題を抽出することを研究目的にしたいと考える。
なお、この調査は平成20年度科学研究助成金事業(課題番号19530536)として実施したもので、今回は調査結果の一部を報告する。
2.研究の視点および方法
インドネシア人介護福祉士候補者と彼らの受け入れ施設に、それぞれ日本での就労に関する意識と外国人介護士受け入れに関する意識を知るためのアンケート調査を実施した。
・「インドネシア人看護師・介護福祉士候補者受け入れ施設に対する現況調査」
調査対象者:2008年度インドネシア人看護師受け入れ施設47と介護福祉士候補者受け入れ施設53の施設責任者
調査時期:2008年9月25日~10月25日
回収率:看護師候補者受け入れ施設 38.3%、介護福祉士候補者受け入れ施設 32.1%
・「インドネシア人介護福祉士候補者の就労に関する意識調査」
調査対象者:関西で入国後研修を受けているインドネシア人介護福祉士候補者56名
調査期日:2009年1月23日
3.倫理的配慮
アンケート調査では、回答結果は数量的処理を行い個人が特定されないように匿名性の保持に努めると共に、回答者に個人情報は厳重に管理し目的以外の使用はしない旨を明文化した。また、インドネシア人介護福祉士候補者に対するアンケート調査では、入国後教育研修機関に調査の許可を求めると共に、調査の趣旨や調査内容をインドネシア語に翻訳し回答者が理解出来るようにした。
4.研究 結 果
インドネシア人介護福祉士候補者が日本で働きたい理由として、男女共に①「高いケア技術」の習得、②「ケア資格取得の可能性」があること、③「経済連携協定(EPA)が結ばれたため」となっており、「高い給料」は全体で上位3位に入っていない。
一方、施設がインドネシア人を受け入れる動機は①「国際的な立場に貢献」できる、②「日本人介護士の刺激」になる、「労働力の不足がカバー」できるであり、自由回答も含めて分析すると施設は将来の人材不足に対する先行投資として受け入れを考えているところが多い。 |
インドネシア人介護福祉士候補者の日本で働く心配事は、①利用者との関係(男女共) ②生活習慣の違い(男女共)、③同僚との関係(男)、生活費が高い(女)である。
一方、施設の受け入れについての心配事は、①生活習慣の違い、②職場のコミュニケーション、情報共有、③雇用の費用がかかる、職員数としてカウントできない、である。インドネシア人は職場の人間関係を主に心配しており、受け入れ施設は文化・宗教の違いによる生活習慣の違いや日本語能力が低いことによる職務遂行への影響を心配している。 |