自由研究発表高齢者福祉3  岡本 秀明

高齢者の社会活動および学習活動と心理的well-beingの関連
-日頃の活動満足度尺度の特性に焦点をあてて-

和洋女子大学生活科学系  岡本 秀明(会員番号3826)
キーワード: 《高齢者》 《社会活動・学習活動》 《日頃の活動満足度尺度》

 

1.研 究 目 的
 高齢者の社会活動や学習活動による主観的な効果は、生活や人生全体の満足度を捉えるような従来の主観的幸福感の尺度で敏感に把握することが困難である。そのようななか、高齢者の活動による主観的な効果の把握に焦点をあてた、日頃の活動満足度尺度が開発された。本研究では、日頃の活動満足度尺度を含んだ3つの尺度を心理的well-beingの指標とし、高齢者の社会活動および学習活動領域の各活動とこれらの指標との関連を検討し、日頃の活動満足度尺度の特性を明らかにすることを目的とした。

2.研究の視点および方法
 千葉県市川市の高齢者(65~84歳)600人を無作為抽出し、2008年4月から5月にかけて、自記式調査票を用いた郵送調査を行った。調査の結果、有効回答数は329人(54.8%)であった。このうち、代理回答、年齢と性別の双方に無回答の調査票を除外し、309人を分析対象者とした。平均年齢は72.5歳、性別は男性が38.8%、女性が61.2%であった。
 心理的well-beingは、日頃の活動満足度、生活満足度、生きがい感の3指標とし、それぞれ、日頃の活動満足度尺度、LSIK(生活満足度尺度K)、高齢者向け生きがい感スケール(K-Ⅰ式)を使用した。生きがい感の得点分布が高得点に大きく偏っていたため、高群と低群に二等分した。すべて同じ分析方法を用いるために、日頃の活動満足度と生活満足度の得点も高群と低群に二等分した。
 社会活動領域は、近所づきあい、友人・知人と食事、自宅外で行う個人的な娯楽・遊び、町内会・自治会、地域行事、高齢者クラブ、趣味の会などの仲間内の活動の7つの活動とした。学習活動領域は、高齢者向け大学・教室、カルチャーセンター、市民講座・研修会等の3つの活動とした。
 分析は、心理的well-beingの3指標それぞれを従属変数(高群=1、低群=0)、社会活動および学習活動領域の活動1つを独立変数(活動あり=1、活動なし=0)とする二項ロジスティック回帰分析をそれぞれ行った。コントロール変数は、年齢、性別、家族形態、IADL(手段的日常生活動作)、経済的な暮らし向きとした。

3.倫理的配慮
 調査の際に、回答データは統計的な処理を行い個人の特定をしないことを明記し、調査協力が得られる場合には調査票を無記名で返送するように依頼した。

4.研究結果および考察
 社会活動領域において、心理的well-beingの指標と統計学的に有意な関連が認められた活動は以下のとおりである。近所づきあいは、日頃の活動満足度、生活満足度、生きがい感と有意な正の関連が認められた。以下、同様に、友人・知人と食事は日頃の活動満足度、生活満足度と、自宅外で行う個人的な娯楽・遊びは日頃の活動満足度と、町内会・自治会は、日頃の活動満足度、生活満足度、生きがい感と、地域行事は日頃の活動満足度、生活満足度、生きがい感と、高齢者クラブは日頃の活動満足度と、趣味の会などの仲間内の活動は日頃の活動満足度、生活満足度と有意な正の関連があった。
 学習活動領域において、高齢者向け大学・教室、カルチャーセンター、市民講座・研修会等の3変数はいずれも日頃の活動満足度のみと有意な正の関連を示していた(表1)。
 日頃の活動満足度は、社会活動および学習活動領域のすべての活動と有意な関連を示しており、日頃の活動満足度尺度が高齢者の活動を敏感に捉えることが示された。特に、他の2つの尺度の得点は学習活動領域の活動すべてと有意な関連を示さなかったのに対し、日頃の活動満足度尺度の得点は関連を示していた。友人・知人と食事をしている者は、していない者と比較して、日頃の活動満足度が高群となる確率が16.65倍も高かった。これに対し、生きがい感との有意な関連が示されないなど、心理的well-being尺度の選択により、結果が大きく異なる場合が散見された。日頃の活動満足度尺度は、高齢者の活動による主観的効果の把握にふさわしい尺度である可能性が示唆された。


[本研究は科学研究費補助金(19730367)の助成を受けて行ったものである]

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