自由研究発表高齢者福祉3  三谷 勇一

在宅健康高齢者の日常生活における充実感の下位概念の特徴
   -ポジティブな心がけとポジティブな言動との関連から-

○ 大阪市立大学大学院  三谷 勇一 (会員番号6277)
   大阪市立大学大学院  岡田 進一 (会員番号1746)
キーワード: 《日常生活における充実感》 《ポジティブな心がけ》 《ポジティブな言動》

1.研 究 目 的

日本における年間自殺者数は、毎年3万人を超え、高齢者の自殺者数も顕著となってきた。心の健康に注目される中、諸外国では、Seligmanをはじめとし、positive psychologyの研究に注目が集まっている。本研究では、ポジティブな心がけとポジティブな言動に注目して、在宅健康高齢者を対象とした日常生活における充実感に関連するポジティブな要因から、その下位概念の特徴を明らかにする。その下位概念とは、「現在の生活に対する満足感」(以下、満足感)、「行動に対する自己効力感」(以下、効力感)、「対人貢献に対する役割期待感」(以下、貢献)の3つから成り立つ。

2.研究の視点および方法

調査設計は、大都市24区の選挙人名簿のうち、ランダムに10区を選出し、層化ランダムサンプリングを用いて、大都市に在住する65歳以上の在宅高齢者1,010名の抽出を行った。そして、その1,010名に対して自記式質問紙を用いた郵送による横断調査を行った。質問紙の回収率は48.7%であった。そのうち、本研究の主旨から、代理回答のもの、65歳以上でないもの、欠損数が5つ以上のものを省いた。さらに、日常生活における充実感測定尺度(DLFI-OCU)、ポジティブな心がけ、ポジティブな言動に使用された項目に一つでも欠損が有る場合、ケースごと削除した。これらの結果、116通が無効回答であると判断され、有効回答率は、37.2%(376通)であった。すべての質問項目の回答は、とてもそう思う(5点)からほとんどそう思わない(1点)の5段階で求めた。
   分析方法は、DLFI-OCUの下位概念をそれぞれ従属変数とし、基本属性に加え、ポジティブな心がけ、ポジティブな言動を独立変数とする重回帰分析を行った。統計解析には、SPSS14.02Jを使用している。基本属性において、ダミー変数としては、性別(男性=0)、年齢(前期高齢者=0)、世帯状況(一人暮らし=0)、学歴(高校以下=0)、住まい状況(持ち家=0)とし、加えて、健康度自己評価(以下、健康度)(3件法)、主観的豊かさ(以下、豊かさ)(5件法)を設定した。ポジティブな心がけ(5件法)として、「いつも物事のよい面をみようと心がけている」、「感情を豊かに表そうと心がけている」、「楽しく生活しようと心がけている」を設定し、「ポジティブに考えるよう心がけること(以下、心がけ)」と命名した。(α=.754)。ポジティブな言動(4件法)として、「前向き発言がおおい」、「よくしゃべるほうだ」、「思い出話をよくする」を設定し、「会話をよくする傾向(以下、会話)と命名した(α=.618)。

3.倫理的配慮

アンケート調査の際には、倫理的配慮として、プライバシーの保護や調査趣旨などの説明文を付け加え、アンケートに協力できないとしても不利益を被らない旨を記した。

4.研 究 結 果

重回帰分析の結果、F値はすべて0.1%水準で有意であったため、これらの重回帰モデルは有効なことが示された。また、VIF値は、高くても1.63以下であったことから、独立変数間に多重共線性はないと判断した。
   重回帰分析の結果、「満足感(R2=.432)」は、「健康度(β=.101*)」、「豊かさ(β=.358***)」、「心がけ(β=.309***)」、「会話(β=.118*)」で有意な関連がみられた。「効力感(R2=.386)」は、「性別 (β=-.102*)」、「健康度(β=.133**)」、「心がけ(β=.330***)」、「会話(β=.349***)」で有意な関連がみられた。「貢献(R2=.439)」は、「世帯状況 (β=.109**)」、「住まい状況(β=.179*)」、「心がけ(β=.416***)」、「会話(β=.315***)」で有意な関連がみられた。

5.考 察

各下位概念の第一要因を鑑みると、「満足感」を高める第一要因は、「豊かさ」であり、「効力感」を高める第一要因は、「会話」であった。また、「貢献」を高める第一要因は、「心がけ」であり、各下位概念に第一に関連する要因は異なり、それらの特徴を示していた。
   「満足感」において、第一に、「豊かさ」が影響しており、心理的側面より経済的側面からの影響が大きいと考えられる。「会話」のβ値以上に「心がけ」のβ値ほうが高いことから、「満足感」は、ポジティブな心がけ次第で高まる可能性を示唆する結果となった。
   「効力感」において、「心がけ」のβ値より「会話」のβ値が高い傾向であった。これは、積極的な言動を行う者は、「効力感」が高い傾向である可能性を示唆したと考えられる。また、「効力感」と「健康度」との関連は、健康であることが「効力感」を発揮するための前提条件であることを示しており、また、周りの環境以上に個人要因が重要であることを示唆している。さらに、男性である方が「効力感」が高くなる傾向を示した。これは、性別的役割期待が考えられ、男性は社会的に様々なことを率先的に行うことが期待されているためと考えられる。
   「貢献」において、「心がけ」や「会話」との関連が高かった。これは、ポジティブな心がけや積極的言動傾向が貢献的役割期待感の高まりを促進していることを示している。また、「会話」のβ値よりも「心がけ」のβ値が高いことは、良好な対人関係を築く上では、ポジティブな心がけが重要であり、そのことにより「会話」と「貢献」との関連が高くなったと考えられる。さらに、持ち家の所有者が「貢献」で高い値を示すことは、経済的安定を感じていることで貢献的役割を担おうとする気持ちが高まることを示していると考えられる。
   R2において、「効力感」は、他の下位概念と比べやや低い傾向を示した。これは、経済的な側面や心理的な側面だけでなく、高齢者の性格特性などの側面の考慮が必要であったと考えられる。

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