要支援の一人暮らし高齢者の経時的変化からQOLの影響と支援環境
前千葉県中核地域生活支援センターさんぶエリアネット 川西 恭子 (会員番号3763)
キーワード: 《一人暮らし高齢者》 《QOL》 《支援環境》
要支援の一人暮らし高齢者の経時的変化を比較検討することにより、QOLに及ぼす影響を明らかにし、支援環境の具現化に資することを目的とする。
2.研究の視点および方法高齢化が進むなかで、高齢夫婦のみ世帯の増加とともに一人暮らし高齢者の割合は、1980年10.7%から2005年22%と増加を続け、背景に配偶者との死別後子どもと同居しない人などの増加などが挙げられる。特に男性で一人暮らし高齢者の割合が大きく伸びること、一人で暮らすことへの不安を感じている高齢者の割合が増えていることが指摘される。(2008高齢社会白書)。2006年改正介護保険法により予防重視型システムの転換が図られ、介護予防では高齢者の心身機能の改善や環境調整などを通じて個々人の生きがいなどQOL(生活の質)を視野に総合的な日常生活の支援を目指している。一人暮らし高齢者にとって、支援や介護を必要になっても住み慣れた地域で過ごしたいというニーズは高く、個々人を尊重したQOL維持・向上への支援環境づくりは重要な課題である。
筆者は、ストレングズからみた要支援の一人暮らし高齢者の支援環境について2007年11月(以下、前回)に実地調査し、本学会(56回)で報告した。調査結果から対象者21名のWHO-QOL得点において106点から49点と幅が見られ、インタビューデータからも生活に対する受けとめなどの違いが見られた。このことはどのような意味を持つのか、QOL上位群7名および下位群5名を典型的な事例として選定し、2008年9月(以下、今回)、同市で継続的な調査を実施した。前回と同様、健康状態、介護サービスの利用、WHO-QOL-26、余暇活動、人間関係など調査票と並行して半構造化面接を行った。予備調査で前回同様、WHO-QOL-26の性的活動・ボディイメージの2項目を除き、24質問項目調査票を用いた。要支援の一人暮らし高齢者(以下、高齢者)の経時的変化を比較検討することにより、QOLに及ぼす影響を明らかにし、支援環境の具現化に資する。
日本社会福祉学会の研究倫理指針に基づいて、関係機関および調査対象者に調査目的・調査内容、対象者の匿名性の確保やプライバシーの保護、データの管理、投稿・学会発表等について説明し同意を得た。紛失・漏洩しないようにデータの管理に十分に留意する。
4.研 究 結 果1)全体の概要:対象者は女性9名・男性3名で平均年齢は80.7歳、後期高齢者は全体の約83%を占め最高年齢は90歳であった。一人暮らしの年齢は41歳~78歳で、その期間は1年未満~28年、平均16.4年であった。現在の居住期間は平均36.2年と前回同様、住み慣れた地域で長年一人暮らしの生活がうかがえた。要支援1が6名、要支援2が5名、自立1名(前回は要支援2)であった。介護サービス利用は、前回と同じ、訪問介護(75%)、通所介護(25%)であった。何らかの身体の不調で通院および服薬を全員が必要とし、そのなかで痛みや不快感などで生活の制限が、非常にある・かなりあるが33%の人に見られた。自分の健康に対する満足では、非常に満足17%、満足33%、どちらでもない17%、不満25%、まったく不満8%であった。「生活のなかでどんなことが大切と思われますか」の問いに、「気持ちのもちかた、くよくよしたってしょうがない、子どもや地域・周りの人たちとのつながり、寝込まないよう元気で過ごすこと」を多くの人が述べていた。
2) WHO-QOLの経時的変化:前回のQOL上位群7名(106~91点)のうち、今回は1名が91→57点と低下していた。低下の背景に身内の病状悪化、自分の健康への否定的な認知の高まり、お金の心配、強い将来不安が見られていた。一方、下位群5名(70~49点)のうち、1名が70→87点で要支援2→自立と改善し、仕事がQOL向上によい影響を及ぼしていた。「前の職場で短時間の仕事が出来るようになった、みんなと会えてすごくうれしい」「(地域包括支援)センターのGさん(担当)が困ったとき気軽に相談して、と言ってくれ、よくしてもらった」と活力や自分自身の満足、支援環境への感謝を述べていた。WHO-QOLの質問項目における今回のQOL上位群7名(105~87点)と下位群5名(57~43点)の平均値を比較すると、注目すべきは、「自分の生活をどのくらい意味のあることだと感じていますか(3.57倍)」、「毎日の活動をやり遂げる能力に満足(2.59倍)」、「自分自身に満足(2.46倍)」、「毎日の生活をどのくらい楽しく過ごしていますか(2.38倍)」で大きな違いが見られた。その一方で「毎日の生活で治療(医療)が必要(1.24倍)」、「家と家の周りの環境に満足(1.37倍)」において、上位群も下位群も
同じような傾向がうかがえた。
3)インタビューデータとQOL:上位群7名と下位群5名のインタビューデータをQOLの視点から比較すると、活動が制限される健康・自分への不満、日常的なお金の心配、生活への否定的な情動、孤立化は高齢者のQOLを低めていた。その一方で、上位群「人が来やすいみたいでね、話を聞いてあげてますよ、困ったときは上の家に電話するとすぐに来てくれてね」「腰は痛いけどそればっかりじゃーね、いろんな人が来たり、テレビ見て素敵だなと思ったり、楽しいですよ」「近所の人(高齢者夫婦)で動けなくなったらどうしようとか、食事や一人暮らしの不安やらよく聞かされますよ。愚痴ばっかり言ってもしょうがないんで、わたし励ましてあげてますよ」など、全般的に多少の不自由があっても健康・自分への肯定的な受け止め、楽しむ心、お互いの手助け、子どもや近隣・関係機関など人間関係の満足は、高齢者にとって安心や自信を引き出し、QOLを高めていた。
4)住み慣れた地域での支援環境:開放的な人の出入り、双方向的な相談・手助け、高齢者自身も活力を持って生活の有意味感、楽しい実感を持つことの重要性が示唆された。また、一人になる寂しさや食生活などの不安、人との交流や楽しみが少なくなるとの声を受け、気軽に参加しやすい余暇の居場所支援や高齢者のさまざまな生活の知恵や料理など地域の人的資源として学び取り入れ、楽しい支援環境づくりとして活かす必要がある。