首都圏の大規模集合住宅における単身高齢者の社会関係
~孤独死問題を抱える団地の住民への調査を通して~
○ 目白大学 福島 忍 (会員番号4961)
目白大学 坂井 圭介 (会員番号6024)
キーワード: 《単身高齢者》 《大規模集合住宅》 《高齢者の孤独死》
高齢化が22%を越えた我が国において、単身高齢者は410万人となっており、平成17年のデータでは1人暮らし高齢者のうち誰にも見取られず死後発見される孤独死をした人が約15%であったという調査結果も出ている。高齢期になると認知症等による精神機能の低下や疾病による体力や気力の低下、配偶者との死別などによる単身世帯化、地域交流の減少や情報入手の困難などを背景に、孤立化や閉じこもりの状態に置かれる危険性が増大する。また地域コミュニティの希薄化が進む現代において、どのように単身高齢者のセルフ・アドボカシーの機能を低下させないように地域にある社会資源が連携を取り合って高齢者の生活を支えていくかが重要な課題となっている。
そして、現在高齢者や低所得世帯への住宅供給の場として重要な役割を果たしている都営住宅においても住民の高齢化は深刻な問題となっている。都営住宅においては、単身者向け住宅の場合50歳以上の単身者が入居要件となっており、平成17年以降、世帯主が65歳以上である世帯数が全体の半数以上を占めるようになっている。
そこで本研究では、全国に比べ高齢化率が高い傾向にあり、孤独死の発生件数が多いことが指摘されている首都圏の大規模集合住宅に焦点をあて、住民の生活実態と課題について、主に単身高齢者の社会関係に重点をおき、明らかにすることを目的とした。
調査の対象者は、東京都A区にあるB大規模集合住宅C地区の5つの号棟の全世帯の年長の世代の者である。B集合住宅は高齢化率が40%であり、かなり高齢化の進んだ団地といえる。単身高齢者の割合が高く、孤独死も発生している団地であり、そこでの住民、とりわけ単身高齢者の社会関係の状況に着目した。
調査は無記名自記式質問紙調査であり、調査票の中で、回答者は家族のなかで「年長の世代の方」とし、身体的状況などにより年長の方が記入できない場合は、他の家族員が聞き取りをしながら記入してもよいとした。調査票の配布及び回収は自治会役員に協力を得た。調査票の配布は自治会役員による訪問またはポスティングにより行った。回収は、同封した封筒に回答者が調査票を入れ密封した上で自治会役員が回収した。調査票の配布数は610である。調査期間は平成20年5月下旬から6月下旬である。
調査票のはじめに、研究の目的と、調査は無記名で行い個人名が特定されないこと、強制ではないため協力しなくても不利にはならないこと、得られた結果を目的外に使用することはないことを明記し、同意を得たうえで調査を行った。
4.研 究 結 果610世帯のうち、186世帯から回答があり回収率は30.5%、有効回答数は180であった。回答者の性別は、男性が66人(36.7%)、女性が114人(63.3%)であり、6割以上が女性であった。年齢は65歳以上の人が約8割を占めた。
入居年数は、30年以上暮らしている人が6割、5年未満の人は1割であった。世帯構成は、1人暮らしが4割であった。1人暮らしの人は、男性では9人(男性の総数のうち13.6%)、女性では58人(50.9%)であり、男性では7人に1人、女性では2人に1人が単身高齢者であった。1人暮らしをしている理由は「家族との死別」と答えた人が半数であった。
有効回答者全体において、かかりつけの病院ないと答えた人は25人(13.9%)、緊急連絡先がないと答えた人は8人(4.4%)、親しい友人・知人がいないと答えた人は19人(10.6%)であった。また、友人・知人と会う機会がほとんどないと答えた人は男性11人(18.3%)、女性で11人(10.8%)であった。団地の環境に関して困っていることを尋ねたところ、主なものとして「防犯・防火対策が不安」が最も多く27人(15%)、「階段の上り下り」が16人(8.9%)、「団地の運営に関して」が14人(7.8%)、「ゴミを出すのが大変」は12人(6.7%)、「情報が入りにくい」と「気軽に話せる人がいない」が同数の11人(6.7%)、「気軽に出向ける場所がない」と「団地内での人間関係」が同数の6人(3.3%)であった。健康状態では、健康でないと考えている人が男性3割弱、女性が4割弱であった。外出の頻度は「ほとんど外出しない」と答えた人は男性女性とも約5%であった。参加したい地域活動は、「自分が楽しめる活動」をあげた人が約4割いた一方、「思い浮かばない」と答えた人が2割弱、「参加したいと思わない」と答えた人が1割いた。利用しているサービスでは、「利用し
ているものがない」と答えた人が122人(67.8%)おり、これらの人に「現在利用したい、あるいはつながりをもちたいと思うサービス」を聞いたところ、「緊急通報システム」が12人(9.8%)、「近隣の人からの声かけ」6人(4.9%)、区の独自事業である高齢者向けの情報誌の配布が5人(4.1%)、同じく独自事業のボランティアによる見守り活動が4人(3.3%)であり上位であった。
これらの結果から、主に介護保険以外の区の独自事業のサービスにおいて、ニーズがあってもサービス利用に結びついていないケースが多くあること、また近隣住民の声かけなどインフォーマル的な支えやつながりを求めている人が多くいることが分かった。以上が全体の調査結果の概要であるが、単身高齢者の詳細な分析結果については学会において発表する。