自由研究発表高齢者福祉3  久保 美由紀

介護保険制度下における一人暮らし高齢者の生活の現状と生活継続支援の課題
   -食生活に関する調査結果をもとに-

会津大学短期大学部  久保 美由紀 (会員番号3650)
キーワード: 《一人暮らし高齢者》 《生活の不安定性》 《生活継続支援》

1.研 究 目 的

一人暮し高齢者世帯の増加は、都市部に限らず地方においてもみられる傾向である。また、従来からの女性の一人暮らし高齢者の多さに加え、今後は男性の一人暮らし高齢者の増加が見込まれている。さらに、男女共に一人暮し期間は長期化の傾向にある。一般に高齢期は、心身機能の低下等による食事の準備や後片付け、掃除、洗濯などの日常生活行為の負担や稼働所得から年金を中心とした所得構造の変化による可処分所得の減少など、地域での生活継続が不安定化しやすい。こと高齢期における一人暮しの場合は、一人であるがゆえに生活上に生じるさまざまな出来事による影響を受けやすく、より生活の継続が不安定化しやすいことが考えられる。2005年の介護保険法の改正は、地域の高齢者が住み慣れた地域のなかで生活を継続していくための支援を行うことが改めて確認されたものだといえる。その一方で、高齢期における様々な生活課題に対して、介護保険制度においてすべて対応されるものではないことは周知のとおりである。
   では、生活継続が不安定化しやすい一人暮らし高齢者が、今後も地域のなかで生活を継続していくためにはどのような支援が必要なのだろうか。本研究は、現に地域で一人暮らしをする高齢者の生活の現状がどのようであるのか、その実際を把握したうえで、生活継続の支援における課題について明らかにしようとしたものである。

2.研究の視点および方法

1)研究の視点
   日々の生活を構成する衣食住は基本的なものである。特に「食」は生命を維持する上で欠かすことができないものであり、栄養状態や健康状況を改善するための方策を明らかにすることや目的として従来から調査研究が進められてきている。しかしながら、その一方で、食生活には、生命や健康維持に欠かせないというだけにとどまらず、献立、買い物、調理、配膳、後片付けなどのさまざまな日常の生活行為がどのように行われているのかが反映されることになる。つまり、食生活をとおして、一人暮らし高齢者の生活の全体像を把握しようとしたのが本研究である。
  2)方法
   A市に居住する65歳以上の一人暮らし高齢者を対象としたアンケート調査を実施した。調査は、A市高齢福祉課ならびに同市の老人福祉相談員*の協力を得て実施した。調査期間は2007年8月から9月であり、老人福祉相談員の定期の家庭訪問時に調査票を戸別配布し、その後、郵送による回収(無記名)を行った。回収された調査票のうち、有効回答は1,419であり、A市の一人暮らし高齢者(2007年2月現在:A市統計)の54.1%の回収である。
*老人福祉相談員:A市が高齢者福祉サービスの一つとして実施している「老人相談員事業」において、安否確認や日常生活の相談、助言などの援助を行うことを目的に65歳以降の一人暮らし高齢者や寝たきり高齢者宅を訪問する人びと。地区ごとに担当者が決まっており、民生委員と協力し活動を行っている。

3.倫理的配慮

本調査研究におけるアンケート調査の実施に際しては、老人福祉相談員への調査の趣旨や方法に関する事前説明を行ったうえで協力を依頼した。また、調査対象者本人及び家族に対しては、調査の趣旨とともに得られたデータは統計的に処理を行い、個人情報が外部に漏れるがない旨を明記した説明書を添え協力を依頼した。

4.研 究 結 果

調査の結果、食生活をとおしてみた地域で一人暮しをしている高齢者は、食を取り巻くさまざまな日常生活行為の多くを「自分で行っている」人びとがほとんどである(例:調理 93.1%、後片付け 97.1%)。しかしその一方で、1日の食事回数が1回や2回であったり、食材等は身内が購入しているなど、他からの見守りや支援を必要とするような「不安定性(不安定な状態)」を内在した生活が営まれていることを明らかにすることができた。また、在宅高齢者への食生活の援助サービスとして、訪問介護による食事援助や地域支援事業としての配食サービスが整備されているが、1日の食事回数に不安定性をもつ人びとに対しては必ずしも充分に活用されていない状況にあった。特に介護保険制度下においては、サービスは本人等の申し出により契約に基づいて提供されることとなる。つまり本研究で明らかにしたような「不安定性」を内在した生活であっても、本人または身内による支援が行われており問題認識されない、またはサービスニーズとして明らかになりにくいことが考えられる。生活継続においては、予防を含めて「不安定性」を支えるような積極的な働きかけが必要 だといえるが、介護保険制度下においては生活継続における「不安定性」が潜在化し、サービスニーズとしての把握が難しい状況だといえる。このような潜在化する「不安定性」を内在する一人暮し高齢者の地域での生活継続の支援をどのように行えばよいのか、今後の課題として引き続き取り組んでいきたい。

※本調査は、ユニベール財団の研究助成(2006年度)を受け実施したものである。

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