自由研究発表高齢者福祉2  飛永 高秀

高齢者福祉施設における入居者の居住支援に関する研究
   -入居者の住生活史にみる「家族」と「すまい」-

○ 長崎純心大学  飛永 高秀 (会員番号3878)
   長崎純心大学  山頭 照美 (会員番号3261)
キーワード: 《家族》 《すまい》 《居住支援》

1.研 究 目 的

我々にとっての生活の基盤、拠点である「すまい」は各々の人生の生活史の中で重要な位置を占めているであろう。その各人のすまいの形態や「すまい」に対する意識は社会的背景や社会階層、家族構成、所得、子どもの有無や生活価値によって左右される。
   住むということは、「すまい」を中心として家族生活を営む中で地域社会の人々と交わり、絆を深め、さらに記憶や思い出という人生の歴史的な刻みを続けることにほかならない。高齢者福祉施設は、高齢者にとって「終の処」とし要介護状態になった場合の「生活の場」として位置づけられる。しかし、「生活の場」であったとしても、自宅等における在宅生活から高齢者福祉施設などの施設生活への移行に係る問題が、自宅等における従前生活の継続性、保障という観点から課題となってくる。これらの課題については、施設における入所前後の適応、施設生活の満足・不満足等の研究が進められてきている。これらは、施設入居者の今までのライフスタイルを一方的に施設の枠にはめ込む過程やその結果から生じる問題について検討がなされてきていると言えるのではなかろうか。
   社会福祉の理念においても、利用者本位・主体や自立支援、さらには地域生活の継続が問われてきている。今後は、入居者の過去の生活様式やその中で育まれてきた生活価値を反映させながら、施設側が施設という枠にはめ込むことなく、入居者一人ひとりの従前生活が継続できる生活支援が求められる。
   そこで、本研究では、高齢者福祉施設入所者の住生活史を通し、施設入所における「家族」と「すまい」の記憶や捉え方をもとに施設生活を行う入居者への居住支援のあり方について検討することを目的とする。

2.研究の視点および方法

本研究において、高齢者福祉施設入所者の従前生活における「家族」と「すまい」の記憶や捉え方などの生活模様をもとに、いかにして自宅と施設の継続性を確保し、支援していくかについて検討する。このような観点から考察することは、高齢者福祉施設を「生活の場」とする高齢者への「暮らしの継続を意識した支援」として捉えられ、在宅生活の継続のみならず、施設における生活支援にあり方についても一定の示唆を与えるものであると考えられる。
   研究対象は、軽費老人ホームM施設入所者11名(男性2名、女性9名)、養護老人ホームS施設入所者の9名(女性9名)、ケアハウスC施設入所者21名(男性7名、女性14名)の計41名である。研究方法は、発表者らが施設に訪問し、半構造化インタビューを実施した。面接場所は居室、施設内の面接室等である。時間は概ね1時間程度である。

3.倫理的配慮

研究対象であるM施設、S施設、C施設の施設長及び入所者には文書と口頭でインタビューの趣旨と内容を説明し、理解が得られた後、再度文書によりインタビュー協力の承諾を得た。また、調査に先立ち対象者全員と同意書を交わした。

4.研 究 結 果

今回のインタビュー調査において、対象とした高齢者は、施設類型、入所者特性などの違いがあるものの、住生活史における「家族」と「すまい」の記憶や思い出など自らが歩んできた歴史的事実を心に抱きながら施設生活を送っていた。
   特に在宅生活から施設生活へというように「生活の場」(すまい)の移行において、家族関係や職業などの雇用形態とそれに伴う経済的状況、また、自らの身体的機能の低下などの生活不安の程度、さらには戦争体験などの社会的状況によって、「家族」や「すまい」の捉え方が異なっていた。
   多くの対象者が、「幼少時代の記憶」や「故郷への愛着」、「子育て」、「家事」など「家庭生活の拠点」などの「家族」を取り巻く記憶を持っていた。
   しかし、一方で「生活の糧を得るための居所」というように「家族」や「すまい」などの記憶や思い出が少ないかむしろない者もいた。特に女性においては、戦後の混乱期に職業的自立の不安定さが経済的困窮を招き、定住することが困難な状況の中で、人間的・社会的繋がりが不十分なままで生活が継続され施設入所となっていた。また、「家族やすまいに思い入れはない」、「家族やすまいを思い出したくない」ということも聞かれた。
   その他には「自分自身が働いてきた証」、「人生(苦労や努力)の証」、「仕事」、「不動産価値」といった位置づけもなされていた。
   高齢者の多くは、人生の軌跡として「家族」や「すまい」を自らの生活価値の中に位置づけている。これは、それぞれの人生における人間関係や社会関係、経済的事情などにも左右されると思われる。
   これらのことから施設生活における生活支援においては、高齢者の住生活史を通して「家族」や「すまい」に対する記憶や思いを反映し、柔軟に対応することが「暮らしの継続を意識した支援」、すなわち、施設生活において高齢者の従前生活を尊重した居住支援として必要となるのではないだろうか。

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