スウェーデンにおける家族・親族介護への公的支援
非営利団体との連携
関西福祉大学 藤岡 純一 (会員番号7072)
キーワード: 《スウェーデン》 《家族・親族介護》 《ボランティア組織》
スウェーデンの高齢者に対する在宅サービスにおいて、公的部門、とりわけ基礎的自治体であるコミューンの果たす役割は大きい。
しかし、家族・親族による介護も現実に重要な位置を占めている。1990年代に家族の重大な役割と介護負担についての調査結果が相次ぎ、
それら踏まえて、スウェーデン政府は、家族・親族介護者に対する支援を行うために、コミューンに対して補助金を交付し始めた。
現在、各コミューンは、この補助金を利用して、家族・親族介護者の支援の新たな取り組みを始めている。この補助金には、それを利用するに当たり、その一部がボランティア組織や非営利団体と連携して行わなければならないという条件が付けられている。
日本においては、2000年に介護保険が導入された。その目的は、要介護に陥った高齢者の自立を支援するとともに、介護を一身に担ってきた家族介護者の負担を軽減することであった。その導入によって家族介護者の負担はある程度改善されたが、全く無くなったわけではなく、地域によって相変わらず介護の重荷を家族が背負っている。その典型的な現われが高齢者虐待である。これらの解決には在宅サービスを増やすことであるが、同時に、家族介護者への直接的な支援も求められる。そして、家族介護者への支援が、要介護者の生活の質をより高めることにつながる。
本報告では、スウェーデンの高齢者福祉の新たな動向として、家族・親族介護者への公的支援と非営利団体との協働について明らかにする。同時に、このスウェーデンの新たな試みは、日本の今後の家族介護者支援にも示唆を与えるものであると考える。
スウェーデンの高齢者福祉ならびに家族・親族介護についての近年の歴史を踏まえながら、新たに試みられている家族・親族介護者への公的支援、および非営利団体との連携について、分析を行う。
公的な在宅サービスと家族・親族介護者への支援をいかに組み合わせるか、また、家族・親族介護者支援について、公的部門と非営利団体がどのように協力して行われるか、という視角から検討を進める。
本報告は、拙稿「スウェーデンにおける家族・親族介護者支援の課題」『関西社会福祉学部研究紀要』第12号(2009.3)に、歴史的な観点、最新の法律改正、コミューンにおける事例等を追加し、再編成したものである。
4.研 究 結 果歴史的に見ると、20世紀の前半の高齢者に対する介護は施設中心で、自宅では子どもが親の面倒と見ることが義務付けられていた。施設は居住性が悪く、いわば収容施設で廃用性症候群が頻発していた。1950年代に転換され、コミューン(市)が要介護高齢者を自宅で援助し始め、在宅サービスが充実していった。施設も居住性の高いものに変わり、特別の住宅と呼ばれるようになり、後には、大規模なものから小規模なものへと変わった。社会サービス法にはコミューンの社会サービスを行う義務について書かれている。公的な介護が高い水準で行われた。
在宅介護において家族・親族が再認識され始めたのは、1990年代である。この背景には、在宅をベースとした公的介護政策の成功が、多くの場合、家族・親族の役割に依存していたこと、第2に、1990年代前半の景気後退の結果、コストのかかるフォーマル・サービスに代替するインフォーマル・ケアとその可能性について関心が高まったこと、第3に、家族の重大な役割、介護負担、そして援助を必要と指摘する調査結果が増加したこと、第4に、公的政策を要求している介護者組織の近年における興隆がある。
1990年代末に、社会サービス法に「家族・親族を介護している人に対して、援助と一時的休息によって、その負担を軽減するべきである」という条項が加えられた。1999年から3年間、国からコミューンに合計3億クローノルの補助金が交付された(「家族・親族300」)。また、2006年と2007年には、それぞれ1億1425万クローノルが交付された。コミューンが補助金を申請する条件として、援助の一部にボランティア組織や非営利団体との共同が盛り込まれた。そして2009年5月の社会サービス法改正で、「コミューンは家族・親族を介護している人に対して、援助と一時的休息によって、その負担を軽減しなければならない」ことになり、6月から施行された。Shouldからmustに転換された。
コミューンの取り組みとして多いのは、第1にホームリスパイトである。ストックホルム市では、家族・親族介護者を休息させるためにホームヘルパーを訪問させるが、週4時間までは無料である。介護者は自宅にいても良いし、介護者の集まる休息施設(コミューンからの委託)に行っても良い。第2に、介護者出合いセンターがある。ここで介護者のためのグループ活動が行われている。市直営のところもあるし、家族・親族組織が行っているところもある。財源は市から手当てされる。ボランティアも活動している。ボランティアの年齢は60歳から65歳が最も多い。赤十字は、これらのボランティア・リーダーの教育を行っている。この費用もコミューンから支出される。
スウェーデンでは、要介護者の在宅介護に加えて、家族・親族介護者への支援に積極的に取り組み、公費が投入されている。ボランティア組織へ手厚い援助が行われている。