家族介護者がかかえる介護の困難性と専門職のかかわりについての予備的研究
- サービス利用における「迷惑」と「遠慮」 -
岩手県立大学 藤野 好美 (会員番号3182)
キーワード: 《家族介護》 《専門職》
2004年の「高齢者虐待調査」及び2005年の「介護者の健康実態に関するアンケート」は家族介護者がおかれている実態がうかがいしれるものであった。
後者の調査では、4人に1人が抑うつ状態を示し、65歳以上の家族介護者の約3割が「死にたいと思ったことがある」と答えていた。これらの調査では、
家族介護者がおかれている孤立や孤独が浮かび上がり、ケアを受けている高齢者の孤立や孤独も懸念される。
このような介護保険サービスを利用していながら、虐待が起こっている現状を考えてみると、サービスの効果性や、介護支援専門員やサービスの
職員の利用者や家族介護者へのかかわりに対する疑問が生じてくる。何らかの介護保険サービスを利用しながらも、家族介護者が利用者を虐待して
しまっているのであれば、利用者や家族介護者にかかわっている介護支援専門員やサービスの職員のかかわり、そしてサービスが、虐待防止へと
機能していない可能性が考えられるからである。それは、つまり介護保険サービスが介護負担の軽減として機能していないとも言える。
家族介護者への支援が介護保険制度に組み入れられていないからと言って、家族介護者の負担を軽視して良いのではなく、だからこそサービスが効果的に
機能することや、サービス職員のかかわりが重要である。本研究では、特に利用者の思いや利用者視点をベースに、介護における家族介護者の介護の
困難性と専門職とのかかわりにアプローチすることを目的とする。
以上のような問題意識を持って、2008年2月~5月にかけて家族介護者7名に対して介護における困難性へのインタビューを行い、質的研究として分析を行った。
その中から、サービスやサービス職員とのかかわりについて、「言葉が冷たい」「取りつく島もない」「一方的」といった言葉に表されるように、コミュニケーション
不足からくるサービスやサービス職員に対する不信感が見出された。そして、サービスやサービス職員との信頼関係が構築されないまま、「申し訳ない」「迷惑を
かけている」といった思いを持ち、「遠慮」「我慢」「迷惑をかけてはいけない」という気持ちが形成されていることがうかがえた。本報告では上記のインタビューと
分析結果をふまえ行ったアンケート調査をもとに、サービスやサービス職員に対する思い、そして介護の困難性との関連を検討した結果を報告する。
2009年3月に、A県における家族介護者の会会員166名に対して、アンケート調査票を郵送し、返送された61名の調査票をデータとして分析を行った(回収率36.7%)。
アンケート内容は、「ケアマネージャー等サービス職員に対して感じたことがあること」、「サービスを利用することについて」、「介護をしていて辛いと思うこと」
「介護疲れについて」等である。これらは家族介護者へのインタビュー結果をもとに作成され、「全くない」「たまにある」「時々ある」「日常的にある」の4件法で
求めるものである。中でも、本報告ではインタビュー調査から浮かびあがった「サービス利用に対して『迷惑をかける』と思うから、サービス利用を『遠慮』してしまう」
という要因に着目し作成したサービス利用における「迷惑」(3項目)と「遠慮」(2項目)にかかわる項目について報告する。
アンケートの実施にあたり、A県家族介護者の会の代表委員会に了承を得た。また、アンケート調査票の作成についてはA県家族介護者の会代表にチェックいただき、 アンケート協力者に対し、あらゆる点での配慮を心がけた。そして、アンケート協力の依頼文及びアンケート用紙にはプライバシー保護する旨を記し、アンケート協力者に 周知を図った。アンケートの実施にあたり、A県家族介護者の会の代表委員会に了承を得た。また、アンケート調査票の作成についてはA県家族介護者の会代表にチェック いただき、アンケート協力者に対し、あらゆる点での配慮を心がけた。そして、アンケート協力の依頼文及びアンケート用紙にはプライバシー保護する旨を記し、アンケート協力者に周知を図った。
4.研 究 結 果回答者の属性は、男性13名(21.3%)、女性46名(75.4%)であり、「主たる介護者である」が46名(75.4%)、「主たる介護者でない」が11名(18%)であった。
年齢は、40歳以下が4名(6.6%)、41~50歳が4名(6.6%)、51~60歳が22名(36.1%)、61~70歳が19名(31.1%)、70歳以上が9名(14.8%)であった。
被介護者との同居については、「同居している」が40名(65.6%)で、「同居していない」が15名(24.6%)であった。
被介護者との関係は、配偶者が12名(19.7%)、実父・実母が24名(39.3%)、義父・義母が16名(26.2%)、その他が5名(8.2%)であった。介護期間は、「1年未満」が4名(6.6%)、
「1~3年」が12名(19.7%)、「3~5年」が18名(29.5%)、「5~10年」が15名(24.6%)、「10年以上」が8名(13.1%)であった。
分析の結果、「迷惑」にかかわる項目、「遠慮」にかかわる項目について、t検定、一元配置を行ったが、個人属性とは有意な関連がみられなかった。このことから、サービス利用にかんして、
「迷惑」や「遠慮」を感じるということと個人属性には関連がないことが示唆される。有意な関連が見られたのが、「ケアマネージャーやサービス職員の介護者(自分)に対する声かけ・態度」
「サービスの利用しやすさ」といった要因であった。また、「介護疲れ」に関連する要因(5項目)とは有意な関連を示さなかった。このことから、サービス利用にかんする「迷惑」「遠慮」については、
ケアマネージャーやサービス職員のかかわりとサービスの利用しやすさと関連があり、「介護疲れ」とは関連がないことが示唆された。
本調査の限界としては、何より標本が少ないことがあげられる。したがって、標本数を増やして再度アンケート調査を実施する予定をしている。そのため、本調査は予備的調査と位置づけたい。
介護保険は「介護の社会化」が目的で創設され、その趣旨からは家族支援は政策や制度として組み入れられていない。しかし、家族介護者による虐待等に見られる深刻な家族介護の状況は、「介護の社会化」の
形骸化を示しているようにも思える。その中で、サービスやサービス職員に対して、「迷惑をかけるから」とサービス利用を遠慮している家族介護者の姿が見出されることを考えれば、虐待の増加はある
意味自然なことと言えるかもしれない。介護にかかわる職員の劣悪な環境が指摘される中、今以上のものを求めるのは難しいとも思う。しかし、このままでは介護保険サービスの職員が、利用者や家族介護者から
信頼されない専門職となり、ケアや支援における、特に心が形骸化するのではないかという危機感が拭いきれない状況である。
本研究は2006~2007年度文部科学省科学研究費補助金 若手研究(B)『ケアの本質の探究』(課題番号:18730379)によって行われた研究成果の一部である。