自由研究発表高齢者福祉2  大友 芳恵

施設サービス利用に伴う自己負担額と所得の連関
   ‐新型特養ホーム(ユニット型)利用の限界‐

北海道医療大学  大友 芳恵 (会員番号3006)
キーワード: 《所得》 《ユニット施設》 《要介護高齢者》

1.研 究 目 的

要介護高齢者にとって、生活を支えるための社会資源の一つとして、特別養護老人ホームが存在する。かつての老人ホームの 住環境である8人居室が4人以下居室に移行し、さらに現在は全個室を保障し、かつ生活スペースはユニットケアという小規模(10人)の 生活単位 を確保しているユニットケアが求められるようになった。介護保険制度は個人の自立した日常生活を支援するため、質の高い サービスを提供することを標榜し、この理念の下に「生活の場」である特別養護老人ホームにおいては、これまでの集団処遇型のケアから 個人の自立を尊重したケアへの転換を求める形に移行している。このケア転換の一つの形が「ユニットケア」であるが、ユニットケアへの 転換はプライバシーが重視されるという反面、それらを享受するための自己負担が増加したということも事実である。食費も自費となり、 身の回りの備品も全て自分で整えるのが大原則となった。これらの費用負担の支払いの元となる年金は二極化が顕著であるが、社会福祉法 の改正以降は、費用負担は「応益負担」へ移行し、低所得高齢者にとってはサービス利用の負担が高いものへと変化していることはいうまでもない。 2008年12月現在、新型特養は施設全体数のうち約2割程度であるが、今後は従来型施設との構成比は逆転し、特別養護老人ホームはユニット型である という時代が到来するのである。ユニットケアに関する先行研究では、利用者の収入とサービス利用の関連で論じたものは十分ではない。 介護サービスに対する所得の影響に関して、泉田(2008)は所得が高い群での施設サービス利用者の比率は所得低群の半数以下であり、さらに、 要介護度の高い者が施設サービスを利用する形態に移行してきているといえると論じ、低所得層の要介護状態が重度化していくと施設サービスを 利用する割合が高いこと示唆した。筆者が2007年に実施した、「A市のひとり暮らし高齢者へのインタビュー」結果からは、多くのひとり暮らし 高齢者が今後の生活の場への不安を語っていた。要介護状態の高齢者にとっての生活の場となりうる各種施設は、利用料に大きな差があり、終の棲家も お金次第であるということを憂慮する語りが多く聞かれた。高齢者領域のサービスは市場化され、選択肢が多様になった。反面、利用に係る費用も サービス内容も階層化が進んでいるように思われる。低所得層がユニットケア施設での介護サービスを希望しても現実的には利用料が高く、自己負担が 高いために選択を断念せざるを得ないという状況は生じないのであろうか。
   そこで、本研究においては、新型特養ホーム(ユニット型)は利用者の所得との関連で捉えた際に高齢者のニーズに十分に機能しうるのか、施設利用に かかる諸費用の現状の中から低所得高齢者の施設サービス利用の課題や限界を明らかにすることを目的とする。

2.研究の視点および方法

年金の二極化の中で、低所得高齢者の福祉サービス利用の現状と課題について、2009年に実施したA自治体における「ユニット施設」調査をもとに現状と 課題を明らかにする。①調査対象はA内のユニット型新型特養65施設(2009年1月1日現在)(A内特別養護老人ホーム289施設中、全体の約2割)、 ②調査期間は2009年1月20日~2月20日とし、③郵送法による自記式調査を実施、④回収率は65施設/35施設:回収率53,8%であった。

3.倫理的配慮

調査回答協力に際して、施設名は無記名とし結果データに関してはすべて統計的に処理を行い回答施設は特定できない旨を依頼文書にて文章化し、 倫理的配慮を行った。

4.研 究 結 果

A内のユニット型新型特養の利用者負担額は施設間の差は大きくなく、食費は一日あたり1.380円(厚生労働大臣が定める基準費用額)の施設が多く、 地域差はみられない。高額な施設で一日あたり1.590円という施設もあった。ホテルコスト(居住費)は施設によりさまざまであり、高額施設で2,620円、 低額施設で1,150円、回答の半数は1,970円(厚生労働大臣が定める基準費用額)となっている。食費にホテルコストとしての居住費を加えると、一日単位では 2,530円~4,000円、一ヶ月単位では88,350円~12,000円の費用負担が必要となる。そもそも、施設利用に伴って、上記の(食費+ホテルコスト(居住費))費用に 加えて、要介護度(1~5)別の1割負担の介護サービス費が必要となる。それらに加えて、施設側がオプション設定として費用負担を求めるサービスとして、 「財産管理」や「ユニット交流費」「入浴代」「理容代」などがあり、各種サービス提供の費用負担をもとめているものもある。利用者負担額に対して減額が なされない場合は、要介護度に応じた、介護1割負担が18,000円~32,000円、食費の基準費用額が一日1,380円×30日=42,000円、居住費の基準費用額で算出すると 一日1,970円×30日=59,100円程度が平均的な額となり、おおよそ13万円程度は必要となる。
   上記のような費用負担額に対する現行の低所得者対策には、施設を運営する社会福祉法人が低所得者への減額を講ずることができるように、社会福祉法人そのものが 法人減免制度の申請を完了する方法がある。しかし、法人減免制度は、減免を必要とする利用者が多い場合は、法人負担にマイナスに作用する場合もあり、経営的には 赤字の要素にもなるため、積極的に法人減免制度を適用させている法人ばかりではないという事実もある。費用負担の軽減のためには、第一にサービス提供側の知識や 制度活用への意欲がなければならないし、第二には、日本の社会福祉制度の伝統的な「申請」するという行為が前提条件となるのである。
   「施設利用に係る費用負担形態の多い順」の回答では、第一に、「本人が全額自己負担」が多いものの、3施設が第一位は「本人大半で家族が一部」と回答している。 費用負担の順位は、①「本人が全額負担」、②「本人が大半で家族が一部」、③「本人と家族で半分ずつ」であるが、第三位には「家族が大半で本人が一部」や 「家族が全額負担」という回答も数施設みられる。新型特養の利用に伴う費用負担は本人が支払いつつも、本人のみならず家族の負担によって利用できているという 現状があることがうかがえる。7施設からは、費用負担を誰が担っているのかは「不明」とした回答もあった。
   仮に、ユニット型新型特養の費用を月額13万円と規定してみると、単純計算では年額が156万円となる。施設で生活をする高齢者は、これ以外に医療費の負担や 介護保険料・医療保険料等のその他(交際費等)支出も必要となる。どのように考えてみても年額で160万円~170万円以上の収入がなければ、ユニット型新型特養での 生活継続は困難となることが推測される。筆者が聞き取りをした施設では、これまでに蓄えた預貯金を切り崩して支払いをしていたが支払いが困難という経済的理由で 退所をした高齢者もいたという事実がある。今後、このようなケースの増加も予測されるとすれば、高齢期を豊かに暮らしていく為に不可欠な所得とはどの程度の 金額を考えればよいのであろうか。
   「個」を尊重する時代となり、それまでの集団ケアを見直して「個室」を保障し、より家族的なサービス支援が高齢者施設のスタンダードとなろうとする時代にあって、 所得差によって、時代のスタンダードとされるサービスを享受できないということをどのように考えるべきなのかという大きな課題が山積している。藤村(2001)は 「人間の何が平等にあつかわれるべきか、また何が判定基準に用いられるべきかの共通理解があるわけではない」と述べているように、個室がスタンダードに移行して いく時代にあっても、それらのサービスを享受できない層の存在それ自体が、必ずしも議論の対象とはなりえないともいえる。生活できる年金権を保障すべきであると いう議論はこれまでにもなされているが、所得保障の根幹が手つかずのまま、周辺の諸制度を変化させようとしても、高齢期の豊かな生活を作りあげることにはつなが らないと考える。人生80年の時代となり、定年退職後20年以上の生活を安定的に過ごすためには、「終の棲家」の選択肢のひとつとして施設があればよいのではなく、 「終の棲家」を選択できるための所得保障がなければならないということに他ならないであろう。

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