地域包括支援センターにおける社会福祉士の実践とその支援に関する研究
-「阻害要因」と「促進要因」の仮説から-
ルーテル学院大学 髙山 由美子 (会員番号2313)
キーワード: 《地域包括支援センター》 《社会福祉士》 《阻害・促進要因》
2005年、市町村の責務により設置されることとなった「地域包括支援センター」(以下、センターという)には、
総合相談・ネットワーク構築・権利擁護業務を担う専門職として社会福祉士の配置が推進され、そこに働く社会福祉士には
地域を基盤とした「ソーシャルワーク機能」が求められることとなった。これは地域における「ソーシャルワーク機能」を
もつ相談拠点設置とこれを担う専門職の配置を意味している。
近年、関連学会・専門職団体等では、日本でいかにソーシャルワーク機能とそれを担う専門職を位置づけていくかについての
議論が活発になってきている(社会福祉・社会保障研究連絡会委員会報告『ソーシャルワークが展開できる社会システムづくりへの提案』(2003年)等)。
これらの成果の一部は今日のセンターにおける社会福祉士業務内容にも反映され、さらに全国レベルでの地域包括支援センター
職員研修や日本社会福祉士会が実施する研修の企画内容に生かされている。社会福祉専門職制度への反映としては、
「社会福祉士及び介護福祉士法」の改正により、社会福祉専門教育における新カリキュラム導入に連動している。
このような近年の動向をふまえると、わが国においていかにソーシャルワーク機能とこれを担う専門職を定着させていくかは、
大きな課題であることがわかる。そして、社会福祉士の実践現場の状況をふまえたソーシャルワークの展開とその機能が十分に
発揮できるための社会福祉士への支援について検討することが不可欠となっている。
そこで本研究では、センターにおける社会福祉士によるソーシャルワーク機能の展開状況から、その機能発揮を促進、あるいは
阻害している要因を明確化する。さらに、次の段階においては、社会福祉士がソーシャルワーク機能をより促進させ、一方で阻害要因をできるかぎり
除去するためには、社会福祉士に対してどのような支援が必要であるかを明らかにし、社会福祉専門職である社会福祉士への支援モデルの構築を
試みることを最終目標としている。
本研究ではセンターの社会福祉士がソーシャルワーク機能を展開するにあたっての「促進要因」と「阻害要因」に着目する。センターにおける社会福祉士による
ソーシャルワーク機能の発揮が容易でないことは、先行研究(日本社会福祉士会『2007年度 地域包括支援センター社会福祉士職業務環境実態調査』)に
よっても明らかにされようとしている。この背景には、社会福祉士がソーシャルワーク機能を発揮するにあたっての「阻害要因」が挙げられることが予測される。
それは、地域包括支援センターにおける社会福祉士の置かれている環境的側面によるものから、社会福祉士個人が有する力量及びこれに影響を与えていると
予想される社会福祉士が受けてきた社会福祉専門教育や社会福祉士となってからの自己研鑽状況等、その要因は多方面に及ぶものと考えられる。
まず、センターに関する文献及び実際に行われている研修等、センター社会福祉士への支援に関する取組み状況を整理し、何をどのように
支援しようとしているのかを明らかにする。その上で、仮説として「阻害要因」「促進要因」を提示し、その後の調査へと展開させる。
文献研究及び調査等の先行研究については出典を明記し、またすでに実施されている研修内容の分析等については実施組織の明記と組織への報告を行う。 今後予定している調査実施にあたっては、所属組織の研究倫理委員会に研究計画書を申請し許可を得る。
4.研 究 結 果(1)文献・調査・研修等にみる支援に関する取組状況(具体的取組状況は当日提示)
『地域包括支援センター業務マニュアル』(厚労省、2006)
『地域包括支援センターにおける社会福祉士実務研修事業報告書』(日本社会福祉士会、2006)
『地域包括支援センターのソーシャルワーク実践』(日本社会福祉士会、2006)
『わかりやすい!地域包括支援センター事業サポートブック』(東京都高齢者研究・福祉振興財団、2006)
『地域包括支援センター実務必携』(オーム社、2008)
『地域包括支援センター運営の手引き』(中央法規出版、2008)
『地域包括支援センターにおける総合相談・権利擁護業務の評価に関する研究事業報告書』(日本社会福祉士会、2008)
『地域包括支援センターのソーシャルワーク実践 自己評価ワークブック』(中央法規出版、2008)
『同 事例集』(中央法規出版、2009)
『地域包括支援センターにおける連携・ネットワークの構築に関する研究研修事業』(日本社会福祉士会、2009)
『地域包括・在宅介護支援センターのネットワークづくりの現状と課題』(全国地域包括・在宅介護支援センター協議会、2009) 等
「地域包括支援センター職員研修」(長寿社会開発センター、2007~)
「地域包括支援センター実務研修」(日本社会福祉士会、2006~)
「地域包括支援センター社会福祉士評価シート活用研修」(日本社会福祉士会、2007~)
「地域包括支援センター社会福祉士全国研究集会」(日本社会福祉士会、2007~)
「地域包括支援センターネットワーク実践力養成研修(仮)」(日本社会福祉士会、2009~)
(2)(1)の取組状況から推測される「阻害要因」
<社会福祉士個人に関することがら>
○ソーシャルワーカーとしての経験・力量不足(知識・技術等) ○専門性のなさ・低さ(専門性への意識や専門教育の不十分さ等) ○業務のマネジメント力の低さ(時間管理等)等
<職場環境等に関することがら>
○上司・同僚等の不理解や非協力的態度(業務分担、情報共有、スーパービジョンの不十分さ等) ○地域住民の不理解(依存的態度等)等
<制度運用等に関することがら>
○保険者(委託者)や法人(受託者)の意識・態度 ○人員配置の不十分さ ○業務過多等○マニュアルの不十分さ○ソーシャルワークの指標の不明確さ
(3)(1)の取組状況から推測される「促進要因」
<社会福祉士個人に関することがら>
○ソーシャルワーカーとしての経験 ○専門性への意識 ○研修・事例検討・勉強会等への参加
<職場環境等に関することがら>
○上司・同僚の理解と協力(情報共有、職種間による相互教育、スーパービジョン等)
○センター社会福祉士としての集中的な研修への参加(職場、地域、職能団体等) ○地域の他機関との関係(情報共有、ネットワーク) ○地域住民の協力 ○社会福祉士の認知
<制度運用等に関することがら>
○保険者への働きかけ ○職能団体等をとおした提言等
現段階では、仮説としてソーシャルワーク機能発揮の「阻害要因」「促進要因」を提示している。また、具体的にどのような課題に対し、どのような支援がーシャルワーク 機能の促進及び阻害要因の除去に効果があるのかまでは明確にされていない。今後は、この仮説をベースとして調査設計を行い、「阻害要因」「促進要因」の明確化と支援モデルの構築を試みたい。