自由研究発表高齢者福祉1  野中 久美子

地域包括支援センターにおけるネットワーク構造と機能についての試論
-第2回東京都内の地域包括支援センター実態調査から(2)-

○ 東京都健康長寿医療センター研究所(東京都老人総合研究所)  野中 久美子 (会員番号7394)
東京都健康長寿医療センター研究所  大塚 理加 (会員番号5473)
東京都健康長寿医療センター研究所  菊地 和則 (会員番号2613)
キーワード: 《介護保険》 《介護予防》 《地域包括支援センター》

1.研 究 目 的

 地域の保健・医療・福祉及び住民ボランティアなど多様な地域資源との連携による地域包括支援ネットワーク(以下, ネットワーク)の構築は,地域包括支援センター(以下,地域包括)の地域包括ケアには必須な業務である1).そこで,本 研究では機能的なネットワークの構造について,東京都内の地域包括への実態調査から明らかにすることを目的とする.

2.研究の視点および方法

本研究は,東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)による長期プロジェクト研究「中年からの老 化予防総合的長期追跡研究」の一環として実施された第2回東京都の地域包括支援センター実態調査により得られたデータ を分析したものである. 
  本調査では,東京都内に設置されている地域包括の全数である342ヵ所(ブランチ,サブセンターを除く)を対象として ,調査票を用いた郵送調査を実施した.調査票は自記式・記名方式を用いた.名簿については,東京都のホームページ上で 公開されている名簿(平成20年10月現在)を用いた.調査は平成20年11月に実施した.調査票の回収数は193票(56.4%)であ った.集計には,欠損値が多い等による分析に影響を与える調査票はなかったため,回収された全ての調査票を用いた.
  本研究では,以上の調査結果から,地域包括支援ネットワークに着目し;①連携機関数とネットワーク機能の評価の 関連,②連携機関数と含まれているネットワークの構造,③ネットワーク機能に関連する連携機関について,検討した.

3.倫理的配慮

本調査は,質問紙と共に,回答は任意であり義務ではないこと,記名も任意であることを明記した依頼文を送付した. 返送には郵便を利用し,回答があったものには同意があったものとみなした.本研究所では審査委員会を設置しているが ,審査対象は個人を対象とした研究であり,本調査は個人情報に関わる内容についての設問はなかったため,審査対象と はならなかった.

4.研 究 結 果

まず,地域包括の35機関・専門職団体等との連携機関数と地域包括によるネットワーク機能に関する評価(1=とても よく機能している~6=全く機能していない)について検討した.その結果,連携機関数が増えるほど,ネットワークの 機能に関する評価が高くなっていた(p>.01).
  次に,ネットワーク構造を明らかにするために,連携機関数が増えるに際に,どのような機関が新たに含まれるかに ついて検討した.分析にあたり,連携機関数を次のように5区分とした;①1~5機関,②6~10機関,③11~15機関,④ 16~20機関,⑤20機関以上.連携機関数が増えると新たにネットワークに加わる機関があり,それを表1に示した.例 えば,区分①では自治体をはじめとする公的機関を主としてネットワークが構成されているが,区分②では区分①を構 成する機関の他に病院や配食サービス等の高齢者支援に関する専門機関が多く含まれていた.連携機関が増えるにつれ 自治会や住民の自主活動グループ,商店等の地域の私的資源といった高齢者の見守り・安否確認に関係する機関が加わ っていた.同様に,成年後見人推薦団体や精神保健福祉センター等の高齢者の権利擁護や虐待対応に関する専門機関が ,連携機関数が増えるにつれ加わっていた.
  また,連携機関別の,ネットワーク機能に関する評価では,表1において下線で示された機関と連携が取れている 場合には,取れていない場合に比べて,ネットワークの機能に関する評価が高かった(>.01または >.05).住民との連携 では,自治会や自主活動グループと連携が取れている場合には,評価が高かった.また,認知症に専門的に対応できる 医師や精神保健福祉センター等の虐待対応に関連する専門機関と連携が取れている場合には,ネットワークの機能を高く 評価していた.弁護士や司法書士,および交通機関等の私的機関は有意な相関がなかったが,これらは連携ができている 地域包括が少ないことが影響していると考えられる.このことから,区分①を主に構成する自治体等の公的機関だけでは なく,多様な専門機関や地域資源が機能的なネットワークには必要であることが示唆された.以上のことから機能に関わ るネットワークの構成について論じる.

表1. 連携機関数によるネットワーク構造

 機関数

種類
 15 610  1115  1620  20以上 
公的
機関
自治体,民生委員,社会福祉協議会,保健所・保健センター   消費者センター*
警察署**
消防署 清掃局,郵便局*
精神保健福祉センター*
電力・ガス会社・水道局
専門
機関
介護支援専門員の連絡協議会* 配食サービス** 介護サービス事業者の連絡協議会*,病院,居宅介護支援事業者の連絡協議会 医師会,
福祉施設
認知症に専門的に対応できる医師**介護保険施設の連絡協議会** 成年後見人推薦団体*,司法書士,弁護士
私的
機関
 
      商店(薬局除く)**
薬局*
新聞配達点,コンビニエンス・ストア,金融機関,不動産関係者,牛乳等の配達店,交通機関,宅配便
 住民     自治会* 住民の自主活動グループ*,ボランティア組織  

文 献

1)厚生労働省老健局 地域包括支援センター業務マニュアル 平成19年版

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