自由研究発表高齢者福祉1  大塚 理加

地域包括支援センターにおける介護予防事業の現状と課題
   -第2回東京都内の地域包括支援センター実態調査から(1)-

○ 東京都健康長寿医療センター研究所(東京都老人総合研究所)  大塚 理加 (会員番号5473)
   東京都健康長寿医療センター研究所(東京都老人総合研究所)  野中 久美子 (会員番号7394)
   東京都健康長寿医療センター研究所(東京都老人総合研究所)  菊地 和則 (会員番号2613)
キーワード: 《介護保険》 《介護予防ケアマネジメント》 《地域包括支援センター》

1.研 究 目 的

平成18年4月の介護保険法改正により,地域包括支援センター(以下,地域包括)が創設された. 同年,その実態を明らかにするために,東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)において, 長期プロジェクト研究「中年からの老化予防総合的長期追跡研究」の一環として,第1回東京都の地域包括支援センター実態調査が行われた.
   地域包括創設当初は,要支援者の介護予防ケアマネジメント(以下,介護予防CM)が業務の大半を占めるとされ,地域包括ケアという本来の業務に 支障がでると指摘されていた.しかし,第1回調査の結果からは,介護予防CMの業務量が比較的少ない地域包括が少なからず存在し, 地域包括の業務事態は,地域によって大きな差があることが明らかになった1).
   地域包括の創設から3年目となった昨年度は,この第1回調査の結果に基づき,東京都の地域包括の2年間の業務の変化とその要因,2年後の 実態と課題や支援の必要性を明らかにするために,都内の全地域包括を対象に第2回調査を行った.
   本研究では,以上の調査結果から,地域包括の介護予防CM業務の現状と,創設当初からの業務状況の変化,および今後の課題や必要な支援を明確にすることを目的とする.

2.研究の視点および方法

本研究では,地域包括の多くの業務のなかから,介護予防CMに着目し,それに関連する要因を検討する.また,第2回調査の結果のみではなく,第1回調査からの変化を示し, 地域包括において改善された点や,残された課題,今後の支援の必要性について考察する.
   第2回調査は,東京都内に設置されている地域包括の全数である342ヶ所(ブランチ,サブセンターを除く)を対象として,調査票を用いた郵送調査を実施した. 調査票は自記式・記名方式を用いた.名簿については,東京都のホームページ上で公開されている名簿(平成20年10月現在)を用いた. 調査は平成20年11月に実施した.調査票の回収数は193票(56.4%)であった.集計には,欠損値が多い等による分析に影響を与える調査票はなかったため,回収された全ての調査票を用いた2).
この調査結果から,介護予防CM業務の実態(担当要支援者数,支援内容,業務実施上の困難等)を示すとともに,前回の調査結果と比較し,今後の課題について検討する.

3.倫理的配慮

本調査は,質問紙と共に,回答は任意であり義務ではないこと,記名も任意であることを明記した依頼文を送付した.返送には郵便を利用し,回答があったものには同意があったとみなした. 本研究所は審査委員会を設置しているが,審査対象は個人を対象とした研究であり,本調査は個人情報に関わる内容についての設問はなかったため,審査対象とはならなかった.

4.研 究 結 果

この2年間の変化についての質問において,要支援者の介護予防CM業務の改善に関しては,約6割の地域包括が良くなっていると回答していた.また,要支援者の介護予防CM実施上の 困難については,第2回調査では,第1回調査項目と同様の設問を設けた.その結果,総じて改善傾向であったが,「要介護認定から要支援認定になったことによるサービス利用制限のため, 生活・身体機能が低下した例がある」の質問項目での変化は認められなかった(39.1%→38.9%).
   このように,地域包括の介護予防CM業務全体では,その改善が進むなかで,「サービス利用制限による生活・身体機能の低下」の利用者が,本業務開始時と変わらず,約4割の地域包括で認められた. このことから,前回の調査結果から指摘した,要支援の利用者像が明確ではないこと,サービス利用の効果についてのエビデンスが少なく,科学的根拠に基づくプログラムが展開できないこと, 利用するサービスの変更による影響が考慮されていないこと等の問題3)が解決されていないことが示唆された.これらには,早急に対応する必要があると考えられた.さらに,この問題に関連する 要因について検討し,地域包括の介護予防CM業務の現状における問題点を報告する.
   また,今回の調査で,介護予防CMの実施上の困難として最も多かったのは,要介護と要支援の利用者の行き来での「事務負担」(78.8%),「利用者の混乱」(74.1%)であった. また,「介護サービスを利用するための区分変更の申請」(72.0%),「利用者の介護予防サービスの意義の理解」(72.0%)も挙げられた.これらの結果は,第2回調査から得られた介護予防についての 自由記述の内容とあわせて報告する.
   以上のことから,地域包括の介護予防CMの業務や制度への問題点,改善点について具体的に示したい.

文  献

1)鈴木隆雄(2007)『第1回 東京都内の地域包括支援センター実態調査報告書』長期プロジェクト研究「中年からの老化予防総合的長期追跡研究」,東京都老人総合研究所.
 2)鈴木隆雄(2009)『第2回 東京都内の地域包括支援センター実態調査報告書』長期プロジェクト研究「中年からの老化予防総合的長期追跡研究」,東京都老人総合研究所.
 3)大塚理加・菊地和則・鈴木隆雄(2008)「介護保険法改正によるサービス利用制限の影響と残された課題」『厚生の指標』55(7),1-8.

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