自由研究発表障害(児)者福祉9  中山 忠政

自閉症「独自の処遇」をめぐって
-関係する法律の改正が見込まれる中で-

静岡県立大学短期大学部  中山 忠政(会員番号3138)
キーワード: 《発達障害者支援法》 《障害者自立支援法》 《障害者基本法》

1.研 究 目 的

2007年12月、国連は、毎年4月2日を「世界自閉症啓発デー」とすることを定めた。国連総会における決議文には、自閉症「固有」の困難性にもとづく、支援の必要性が訴えられている。わが国においては、2005年4月から、発達障害者支援法が施行されている。自閉症など発達障害に対する「社会的認識」が高まったといわれるが、「今、なお困難な状況が改善されていない」という指摘もある。障害者自立支援法が制定されるなど、障害福祉の世界は大きな変革期にあるが、自閉症の関係者らは、いかなる主張を行っているのであろうか、検討するものとする。

2.研究の視点および方法

発達障害者支援法や障害者自立支援法、障害者基本法のいずれもが、見直しの時期に達している。自閉症関係者らの、自閉症の「独自の処遇」をめぐる声を、分析の対象とした。

3.倫理的配慮

本研究は、日本社会福祉学会の研究倫理指針を遵守し、行われた。

4.研 究 結 果

わが国における自閉症の症例報告は、1952年である。長年にわたって、保護者や関係者らは、自閉症「独自の処遇」を求めてきた。その成果の一つとして、2004年、発達障害者支援法が制定された。しかしながら、障害者基本法は、「障害者」の定義を、身体障害・知的障害・精神障害の3障害としたままであり、附則において、自閉症などを「障害者の範囲」に含むものとしているに過ぎない。
 一方、発達障害者支援法は、「発達障害」を、自閉症などの広汎性発達障害と学習障害、注意欠陥多動性障害などと定義している(第2条)。これまで、「発達障害」といわれる場合、知的障害や脳性まひ、てんかんを含んで用いられることもあったため、現在、「発達障害」が使用される場合、使用者がその範囲を示さない限り、どの範囲の「発達障害」を示しているのか不明という、混乱した事態に至っている。
 発達障害者支援法の施行から5年目を迎え、関係者らの、自閉症「独自の処遇」を求める声は、どのような変化をみせているのであろうか。まずは、発達障害者支援法の制定に至る経緯を、簡単に整理しておきたい。自閉症の子どもをもつ保護者らは、長年、知的障害とは異なる、自閉症独自の法制度を求めてきた。しかしながら、2002年、自閉症・発達障害支援センター事業が開始された前後から、日本自閉症協会は、全国LDの親の会やえじそんくらぶ(ADHDの支援団体)と協調しながら、発達障害を対象とした法律の制定を目指すようになった。発達障害者支援法制定以降は、日本発達障害ネットワークを発足(2005年12月)させるなどしている。2007年4月から特別支援教育が開始されたことと相まって、発達障害に対する社会的認識は急速に高まった。一方で、単独の障害としての自閉症に対する認識は、相対的に低下することとなった。
 これについて、自閉症の関係者らは、「発達障害という障害名で一括されてしまう」という危機感をあらわにしており、特に「自閉症に対する政策の一括傾向」を懸念として示している。障害者自立支援法において、自閉症ゆえの困難度が、「障害程度区分」に反映されにくいことや、自閉症に対する支援として、高度な専門性が必要なこともあり、障害者自立支援法によるケアマネジメントの手法では、対応が難しいことなども背景にある。
 日本自閉症協会は、2009年1月、障害者基本法の改正に関する要望書を自由民主党に提出した。障害者基本法は、その附則で、2004年5月の改正から5年をめどとした見直しが定められている。要望書では、障害者基本法の抜本改正にあたっては、「自閉症の特性に応じた修正」を求めている。また、「障害者」の定義(第2条)に関しては、「発達障害の追加、出来れば自閉症等発達障害、または、広汎性発達障害等として欲しい」としている。その支援(第12条3)としては、「医療、介護、生活支援」の他に、「発達支援」の追加を求めている。
 知的障害関係団体の動きである。日本知的障害福祉連盟は、2006年に、日本発達障害福祉連盟に、名称の変更を行っている。また、知的障害の親や本人の会の機関誌には、「「知的障害」と「発達障害」をことさら区別する理由はありません」や「知的障害を発達障害者支援法の定義から外す根拠はない」などの記述がみられるようになっている。
 発達障害者支援法の制定以降、自閉症の関係者らは、自閉症「独自の処遇」を求める主張を、強めはじめていた。ここ近年は、発達障害者支援法の制定をめざし、他の発達障害関係団体と協調し、主導的な役割を果たしてきた。しかしながら、障害者自立支援法による障害程度区分において、自閉症の障害特性が介護度に反映されにくく、必要なサービスを受けることが難しいという現実が、自閉症「独自の処遇」を求める主張を、再び強める結果となっていた。発達障害者支援法が制定され、「社会的認識」が高まったとしても、あくまでも「理念法」である発達障害者支援法は、実際のサービスの提供に結びつくことはなかったのである。
 今後、発達障害者支援法と障害者自立支援法、障害者基本法の改正が見込まれる。その中で、「障害者」の定義や範囲が、大きな焦点の一つとなることは間違いない。障害者自立支援法は、3つの障害福祉法をとりまとめる法律として制定されながら、「障害者の定義」に関して、従来の3障害福祉法の定義をそのまま準用するかたちとなっている。抜本的な制度改変の必要がいわれながらも、暫定的な対応に終始し、問題を先送りしてきたといえるのである。今後、自閉症関係者らは、自閉症「独自の処遇」を求める声をより強めていくことが予想される。

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