自由研究発表障害(児)者福祉9  熊澤 辰義

高齢聴覚障害者の障害特性と支援の在り方に関する一考察
-社会福祉専門職に求められるスペシフィックな視点-

 秋田看護福祉大学  熊澤 辰義(会員番号7384)
キーワード: 《聴覚障害》 《障害特性》 《共通言語》

1.研 究 目 的

高齢化が進展している我が国において、聴覚障害者の高齢化も深刻な状況となっている。ろう学校の義務教育化(1948年)以前に学齢期にあった者は、現在60才以上という高齢期を迎えており、加齢により聞こえの障害が出現する老人性難聴者を含めると、今後も聞こえに障害を持つ高齢者は着実に増えることとなる。
 聴覚障害者は、失聴年齢や障害の程度、生育歴等の違いから日本語力の獲得の制限等により、コミュニケーション方法や行動が異なる障害特性を持っている。特に、後期高齢者層に至っては、戦前の医療や教育を受ける機会が十分でなかった不就学者もおり、言語の獲得や文章の読み書きなどに支障を来している者や身近な者だけに通じるホームサインを使用している者もいる。また、ろう学校経験者では、独特の文法や表現方法を用いる日本手話の使用者も多く、たとえ手話通訳者が介入したとしてもコミュニケーションが十分に図れないこともあり、さらに意志疎通を困難なものにしている。
 昨今の社会福祉サービスを利用あるいは支援していく過程において、利用者本位という考え方が重視され、利用者の自己選択・自己決定を遂行していくための視点が強調されてきた。しかし、社会福祉専門職が介入しサービスに繋げたもののサービスが定着しなかったり、途中で中断してしまう状況が数多くみられる。つまり、今後の生活を支えるために、多種多様な福祉サービスを必要としている年齢層にありながら、意思疎通に制限があることで、適切なサービスが受けられない状況が現存している。
 関連諸制度の制定により、今後、相談支援事業が社会福祉実践の要となる以上、このような障害特性を持つ聴覚障害者を支援する際に、手話を習得していない社会福祉専門職がどの程度その状況を認識し対応しているのか、面接姿勢が問われるところである。
 以上により、発表者は社会福祉専門職が聴覚障害者支援の際に求められる専門性を追究するため下記2に示す視点から考察し、『聴覚障害者への支援(ソーシャルワーク)とは、スペシフィックな視点に立ったジェネリックなアプローチである』点を明確にした(①熊澤:2008)。本研究では、さらに検討を加え、成人層とは異なる障害特性を有する高齢聴覚障害者層への支援の特殊性と今後の課題について考察を進める。

2.研究の視点および方法

人援助において利用者と共通言語を共有することは、ラポールを形成する上でも、その後の支援展開を図る上でも重要な要素となる。しかし、現任の社会福祉専門職で相談支援を実践できるほどの手話技術を習得している者は少ない。従って、前段では、『手話を習得していない社会福祉専門職が、聴覚障害者へのソーシャルワークを展開していく上で求められる視点と専門性』について現状の対応の問題点を含めて考察する。後段では、高齢期にある聴覚障害者の特性をさらに細分化し、支援の配慮や専門性について、文献や先行研究(※)および発表者の実践経験等を用いて考察を進めていく。

3.倫理的配慮

本研究で取り上げる事例は、個人が特定されないよう、発表者が聴覚障害者との関わりの中で経験したコミュニケーションの実態と、既に公開されている事例報告集にあるコミュニケーション上の工夫のみを取り上げ検証する。

4.研 究 結 果

聴覚障害を単一障害で捉えた場合の区分は、研究者による差異はみられるが、一般的には「中途失聴・難聴者」「老人性難聴者」「ろう者」「高齢ろう者」の4区分に整理される。これらの聴覚障害者に共通した制限として、その度合いの軽重はあるにせよ、自己主張の内容を周囲に正確に伝えられないことや、必要な情報が得られず、または、提供された情報が十分理解できないまま判断をしてしまい、後に修正を要する等が上げられる。その原因として、社会福祉専門職がその障害特性や考慮すべき点の認識が薄いことから、コミュニケーション上の配慮を欠いた面接となっている場合などが考えられる。
 従って、社会福祉専門職が聴覚障害者へのソーシャルワークを展開する場合、その障害特性(固有性)を十分に把握し、対応できるコミュニケーションスキルを持つこと、また、手話通訳者を活用する場合、その役割を十分に把握し連携したアプローチができる知識と技術が重要となる。さらに高齢者においては、同じ年齢層にありながら各々異なる障害特性と支援の在り方が考えられることから、新たに高齢期にある聴覚障害者を「老人性難聴者」「高齢ろう者」「不就学高齢ろう者」に細分化し考察することで支援方法の違いを明確化した。特にこの年齢層は、加齢による視力障害、認知力や記憶力などの精神機能の低下、さらには体力の低下も付随してくるため、聴覚障害という障害特性以外に、加齢現象による心身の変化に関する知識も重要となってくる。また、身振りやホームサインが意思伝達手段の中心となっている不就学高齢ろう者の場合は、手話通訳者の連携というよりも、支援者が対象者の発しているサインと生活様式や生育歴が融合されたサイン(共通言語)を察しながら、相互理解を深める方法を模索し確立していくことが重要となる。このように、聴覚障害者は一括りには出来ない特性を持ち、対応範囲は情報の乏しさが起因して生活全般に及ぶこととなる。従って、聴覚障害者へのソーシャルワークは、この障害特性を十分に認識して対応していく必要があることから、スペシフィックな視点に立ったジェネリックなアプローチであると考える。
 拙稿 ①熊澤辰義 東北福祉大学大学院 「聴覚障害者への面接支援の在り方~社会福祉専門職に求められるスペシフィック・アプローチの視点~」2008年3月
 ※参考文献については記載省略。当日の発表時に紹介する。

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