自由研究発表障害(児)者福祉9  楯 雅博

強度行動障害を示す人への施設支援のあり方
-知的障害をともなう自閉症でトゥレット障害を併存している事例-

財団法人鉄道弘済会 総合福祉センター 弘済学園  楯 雅博(会員番号4950)
キーワード: 《強度行動障害》 《施設支援》 《トゥレット障害》

1.研 究 目 的

障害者自立支援法の趣旨から今日の発達障害がある人の支援は、地域で行われることになった。ただ、すべての人が在宅生活に適応できるのではなく、不適応行動が強化され、行動障害が増悪して入所施設を利用するニーズは少なくない。
 入所施設は、こうした社会的ニーズにその強さを生かし、療育支援の方法論を呈示する必要がある。今回は、養護学校という比較的配慮された環境にも適合できず、激しい行動障害を示していた人が、入所施設を利用することで改善し、在宅生活に戻ろうとしている事例を挙げた。入所施設での支援経過から、行動観察、行動分析、支援方法のあり方を検討し、強度行動障害の改善と早期解決に向けた施設支援アプローチを模索する。

2.研究の視点および方法

対象は、18歳の重度知的障害を伴う女子である。2歳時に発達の遅れと多動とを主訴に医療機関を受診し、自閉症と診断された。3歳時に保育園を利用し、小学校は心障学級に入級したが、行動障害が頻発した。小学4年生の時に養護学校に転校するが、情緒不安定による行動障害を強く示し、家庭養育は限界となった。児童相談所で緊急性があると判断され、11歳で当学園の措置入所となった。
 支援記録をもとに、行動障害につながる要因を整理し、支援経過と支援方法を検討した。

3.倫理的配慮

個人が特定できないように固有名詞や具体的な数字は本質的な部分を除き一部改変した。
 本研究の口頭発表においては、対象事例の保護者(研究協力者)に、研究目的、方法、得られたデータ処理におけるプライバシーの保護等を説明し、文書で承諾を得ている。

4.研 究 結 果

入園前の調書によると、学校で問題となったのは、他人を蹴る、特定の人を突き飛ばす、器物を破壊する行動であった。これらを制止するとパニックになり、授業にも支障をきたした。パニック時には母親はすぐに学校に呼ばれ、本人を自宅に連れ戻した。その結果、母子ともに心的ダメージが強く、母親はうつ状態に陥った。家庭生活が成り立たなくなり、入所施設利用に踏み切った。入所時の強度行動障害の得点は、自傷5点、他害5点、こだわり5点、破壊5点、多動5点、騒がしさ3点の計33点で激しい強度行動障害に該当した。
 入所施設での支援は、24時間体制の利点を活かし規則正しい生活の中で生活習慣を整え、生理的な安定を提供することから始めた。慣れない環境の不安に対しては、クラス集団を基盤に毎日を構造化した生活展開にすることで本人の安心感につなげた。見通しのつかなさからの不安に対しては、個別のスケジュールボードを用意し、写真と文字による筆談で予定を伝えた。しかし、人への蹴りや突き飛ばし、器物破壊は継続し、行動障害は軽減できなかった。本人の特性把握と支援の難しさの背景要因を分析した。その結果、これらの行動は、行事等の環境が変化する場面に出やすかった。また行事のある週は、情緒不安定な状態が出現していた。2年目には、軽減しない不安感を緩和するように職員のうちのキーパーソンを位置づけた。内面洞察し、課題については心情を理解する分析視点を強めた。職員を固定することで、より的確な状態把握が可能になった。適正な要求水準と有効なコミュニケーション方法を獲得することで自信のなさや不安感を補うようにした。その結果、苦手な課題に対しても、キーパーソンを頼りにしながら取り組もうとする行動が芽生えた。同時に、不安な気持ちをぶつける対象がキーパーソンに限定されてきた。3年目には、行動障害の現れ方が変化した。他害や破壊行動が減少した一方、汚言、奇声の割合が大半を占めた。手で顔をこする不随意な行動も多くなってきた。これらの行動は、不随意で突然の出現であり回数も頻回であることからそれぞれ運動性チック、音声チックであり、重篤なチック症状として捉えた。そこで、精神科に相談した。結果、3年目の時点での本人の中核となる障害は、トゥレット障害による「強迫性」であることが明らかになった。引き続き、集団生活の中で安定した生活を提供し、「強迫性」を主訴とした薬物療法を進めることで激しい行動障害は幾分軽減した。4年目の強度行動障害得点は、他害1点、こだわり3点、破壊1点、多動1点、騒がしさ1点の合計7点に減少した。5年目になり、課題であった対人関係の不安感は、キーパーソンとの間で穏やかな相互関係が成立してきた。日中活動では、目的行動を明確に提示し、達成できたらタイミングよく評価して、自己効力感を高めるようにした。その結果、例え自分の思いと違ったとしても、自分で気持ちを切り替えようとする自己を対象化してコントロールする姿が出始めた。受け止められる指示の巾も広がり、人との関わり方も、いっそう穏やかさを増した。6年目は日中活動が、機織を主に活動する作業グループへ異動した。現在は、クラス動線を写真や絵に文字を加えたスケジュールカードで提示することで、見通しを持って活動することができるようになり、強固な安定した毎日を送っている。強度行動障害判定得点は0点となり、強度行動障害には該当しないレベルに改善された。
 本事例では、自閉症への基本的療育に加え、トゥレット障害や強迫性障害など合併障害に対する支援の視点が欠かせなかった。障害を的確に理解されずに対応されてきた負の経験が長く続き、それが人への警戒心につながり、人との出会いで構成される生活全般に悪影響がみられた。このストレスが行動障害を強めていたと考えられた。有効な支援の端緒となったのは、入所当初の受容的な対応と自閉症特性への支援、継いで行動障害をトゥレット障害にみられる重篤なチック症状であり、随伴する強迫性、衝動性、多動性等と捉え支援したことであった。最重度から軽度、触法、社会的に不適応な行動を示す方、特に強度な行動障害を呈する人には、多様な障害を併存しながら、障害を的確に理解されず不適応を強めている場合があるとの認識が重要である。

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