糸賀一雄研究(2)
-糸賀一雄が今に残したもの-
京都文教短期大学 石野 美也子(会員番号2485)
キーワード: 《糸賀一雄》 《実践》 《共感》
障害者自立支援法、後期高齢者医療(長寿医療)制度など、現代は社会福祉全体に対象者が不在といえる現象があるように思う。それぞれが必要に迫られたためのものであったとしても、社会福祉の立場からは利用する人の利益や尊厳が一番に考えられなければならず、その考えが揺らいできたとき社会福祉には何が出来るのであろうかとはじめに立ち返ることが大切ではないかと考える。それらのことを考える拠り所のひとつとして、哲学と思想を兼ね備えた実践を行ってきた糸賀一雄の福祉実践がある。糸賀思想を様々な角度からの研究と近江学園から派生した現存の施設の実践という両面から考察することで糸賀一雄が今に残したものを知り、現代に生かすことを目的とする、
2.研究の視点および方法糸賀思想を様々な角度からの研究と近江学園から派生した現存の施設の実践という両面から考察することで糸賀一雄が今に残したものを知り、現代に生かすということを研究の視点とする、
研究方法としては糸賀一雄についての研究の中から、特に思想について研究している文献を集め、時代区分ごとに考え方の変化をみる。
糸賀思想を引き継いだ施設からの聞き取り調査。
日本社会福祉学会の倫理規定に基づき、聞き取りや文献の出典については細心の注意を払って行う。
4.研 究 結 果作年は糸賀一雄没後40周年にあたり、多くの関連事業が行われた。このことからわかるように短い時期を駆け抜け、しかし現在の障害者福祉のみならず社会福祉の基礎を築いた糸賀一雄はノーマライゼーションに近い考えをデンマークの1959年法以前に持っていた。その思想の中心にあるものは『共感』の世界であり、社会性の芽生えがどのような人にも重要であるという考え方である。しかし、その考えは観念的なものではなく、あくまでも実践に貫かれていた。
優秀な行政手腕を持った糸賀一雄は現代を見通していたかのように次の言葉を残している。
「それにしても、私たちはその経営を独立自営に持っていきたかった。公的な援助を受けないというのではない。また一般の寄付を排除するというのでもない。ただ自分たちの額に汗して生活を支えるという基本的な構えのないところに、社会事業の発展はない。-略―寄付にたよれば卑屈になり、公費にたよれば官権におさえつけられることにもなろう。この自前の生産性を求めるのは理想であるかもしれない。」
『この子らを世の光に』P.58~59
今の混沌とした時代に糸賀が求めるまでの社会福祉の成熟はなく、さらにその中で施設や知的障害者の人びとが自前で生きるとは何を意味するのか。社会全体が人びとの社会性の芽生えを重要なこととしてとらえ、誰もが発達していく道行きを持っているのだという考えを共有して、初めて知的障害者の自立が可能になる社会が生まれる。
「この子らを世の光に」という言葉の意味を考えていくうちに、人としての尊厳、人としての価値はだれにも共通してあるものであるという糸賀一雄の考えに到達すると共に、そこにある考え方はよく日本のノーマライゼーションのさきがけであると称されるが、ノーマライゼーションという言葉は使っていないが哲学と教育、心理学から生み出された糸賀一雄の実践と思想はミッケルセンやニイリエの考え方とりわけニイリエの考えに非常に似ており、それらが形となる前に糸賀一雄は実践において、また文章としてその考え方を残していると言うことを本研究を通して見だした。