自由研究発表障害(児)者福祉8  福永 佳也

「触法行為」のあった知的障害者の語り
-エピソード記述を用いた当事者への面接調査の分析結果から-

○ 大阪府立大学大学院人間社会学研究科  福永 佳也(会員番号6794)
大阪府立大学  山中 京子(会員番号4129)
大阪府立大学  三田 優子(会員番号7194)
キーワード: 《知的障害》 《「触法行為」》 《エピソード記述》

1.研 究 目 的

昨今の実践報告や報道等によって、窃盗や詐欺といった犯罪行為や、それらに至らないまでも刑罰法令に触れる可能性がある行為をした人のなかに、適切な福祉サービスを受けることができていない知的障害者が存在することが広く認知されつつある。しかしながら、彼らの生活を支えるために、支援者にどのような視点が求められているのか、またどのような支援実践がなされているのか、これまで十分に明らかになっていなかった。昨年度は、先述した行為を総称して「触法行為」と定義し、「触法行為」のある知的障害者の地域生活に関する具体的な支援内容や、支援経過のプロセスを明らかにすることを目的として実施した、支援者への面接調査の分析結果を報告した。支援実践の一部を報告すると共に、支援者が認識している当事者像や当事者の生活背景について様々な示唆が得られた。
 本報告は、昨年度の報告と同時期に実施した「触法行為」のあった知的障害者に対する面接調査の分析結果をまとめたものである。本調査の目的は、「触法行為」のあった知的障害者とされる当事者が、自らに起こった出来事をどのようにとらえているのか、当事者自身の視点で事象を捉えることである。「触法行為」のあった知的障害者の語りは、これまでほとんど研究対象とされていないうえに、自らが過去の出来事にどのような意味づけをしているのかを明らかにすることで、今後の支援に生かせる視座が得られるものと期待される。具体的な調査目的は、①「触法行為」を含むこれまでの生活歴、②「触法行為」に対する本人の認識、③現在までの支援の状況、④今後の生活の希望、以上について明らかにすることである。

2.研究の視点および方法

本研究では、「触法行為」のあった知的障害者が地域で生活するにあたり、過去の出来事をどのように認識しているのか明らかにすることで、当事者が求める支援とは何かを考察すべきであるという視点に立つ。当事者の認識を明らかにすることで、当事者の視点で現状を把握し、求められている支援をとらえなおし、本領域が抱える課題の整理が可能であると考える。
 本研究では、支援者面接調査を実施したA県障害者総合支援センター(以下、支援センター)の職員に調査協力を依頼した。支援センター職員を通して、調査の趣旨説明を行い、協力の意思を示した当事者3名に面接調査を実施した。主な調査項目は、①「触法行為」の内容、②「触法行為」の理由、③「触法行為」時の支援者の存在、④「触法行為」後の生活、⑤「触法行為」後の認識、⑥現在の支援状況、⑦今後の生活に期待すること、である。
 得られた調査結果については、エピソード記述を用いて、質的な分析を試みた。

3.倫理的配慮

調査の実施にあたっては、支援者を通じて調査協力の打診を行い、面接前に調査の実施について口頭と文書で説明した。難しい熟語や言い回しを避け、一つの文章に複数の意味を含まないよう、できるだけシンプルでわかりやすい内容になるよう配慮した。自身の経験した「触法行為」に関するエピソードを聞くにあたり、本調査によって得られた個人情報が、調査や研究の目的以外で外部に漏れたり、本人に不利益が被らないよう、細心の注意を払うことを調査協力者に伝えた。以上により、面接内容の録音の許諾を含めて、調査協力に関する承諾を得た。
 データの取り扱いには十二分に配慮し、得られた個人情報は文書化(逐語録の作成)にあたって、「触法行為」のある知的障害者と支援者の氏名、本人らに関する地名や施設名などをすべて匿名化した。

4.研 究 結 果

エピソード記述を用いた調査結果の分析により、面接内容は意味をなす語りごとにまとめられた。3名の語りは、それぞれが固有のものであるとし、調査協力者間の経験や認識を横断的に分析することは行っていないが、共通する分析結果を以下に述べる。
 (1)失職・離職の連続体験  現在までの生活歴は、職を転々としており、就労に関する生活史といっても過言ではなかった。就労継続には、何らかの支援が必要だったことが推察されるが、就労に関する支援があった様子は語られておらず、誰にも頼ることができずに失職、離職となり、その結果として、収入が確保されず生活苦へ陥り、そして生活を成り立たせるため「触法行為」に至っていた。
 (2)「触法行為」に対する「まっいいか」という認識
 「触法行為」に関しては、他に術を知らず「触法行為」によって、自らの生活を成り立たせようとした「生活に困って」による「触法行為」と、「好奇心でやった」という「触法行為」の2種類があった。いずれの場合も、「触法行為」が悪いことだと認識していたが、「まっいいか」という語りにもあるように、半ば現状の生活に対するあきらめのような感覚を抱いていた。
 (3)生きる術として支援を獲得してきた体験
 「触法行為」に至るまで福祉の支援を受けた経験がない者がいた。自らの障害を実感することなく、就労によって何とか生計を立てており、就労が中断した結果、生活苦に陥りセーフティネットからこぼれ落ち、「触法行為」へ行き着いていた。一方で福祉サービスの対象者となっている場合でも、必ずしも福祉サービスを肯定的にとらえているとは限らなかった。「自分の力」で生活してみたいと願っており、福祉サービスが本人に窮屈なものと認識されていた。

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