自由研究発表障害(児)者福祉8  柳沢 君夫

身体障害者と子ども達との地域交流
-影絵劇団による影絵公演を通して-

沼袋西児童館  柳沢 君夫(会員番号6940)
キーワード: 《身体障害者》 《子ども達》 《地域交流》

1.研 究 目 的

筆者は自立訓練(機能訓練)・地域活動支援センター事業を実施するX施設に勤務し,身体障害者のリハビリテーションに従事している.X施設に通所する利用者は,大部分が脳血管障害(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)や頭部外傷による身体機能に障害がある65歳未満の人たちである.X施設の運営方針には,地域との交流の推進と参加が謳われている.しかし現実は,X施設での地域交流が,年1回のまつりでの交流に限られていた.このような状態は,障害者の地域移行・地域生活の充実が十分になされておらず,X施設として早急な対応が必要とされていた.そこで筆者は,X施設の地域交流として,影絵劇団を結成し,地域の子ども達に影絵公演することをX施設会議で提案した.その結果,この試みをX施設の地域交流事業の一環として位置付けることが決定した.筆者は劇団員を募集したところ,3名の利用者が応募した.そして2006年8月から活動し,2007年3月までに近隣児童館2回,保育園児に1回,計3回の影絵公演を実施した.
 以上より本稿では,地域の子ども達に対し,X施設の身体障害者の影絵劇団による影絵公演の様子を報告し,この試みが地域交流として適切であったかを提示することを目的とする.

2.研究の視点および方法

(1)劇団員紹介
 Aさん:男性27歳 1種1級 頭部外傷による機能障害
 Bさん:男性46歳 1種1級 脳出血による機能障害
 Cさん:男性27歳 1種2級 疾患による機能障害
 (2)影絵の題材及び演じ方
 影絵の題材は,子ども向きの絵本から採用した.筆者が影絵を製作し,その影絵をOHP上で操作し,スクリーン上に投影する方法を取った.さらに劇団員は,筆者が絵本を参考にして作成した台本に書かれた台詞を影絵の動きに合うように言うことにした.

3.倫理的配慮

3名の劇団員には研究の趣旨を説明し,発表について文書にて承諾を得ている.

4.研 究 結 果

(1)第1回D児童館影絵公演の様子 演目:落語「じゅげむ」,落語「ばけものつかい」
 12月20日:公演当日,劇団員がE児童館に到着すると,若いAさんとCさんに子ども達が一斉に集まった.子どもたちは次々に,「どうしてきたの?」,「このTシャツは何?」,「どうして車椅子に乗っているの?」と質問してきた.2名は上手に受け答えし,「影絵をしに来たんだよ.」,「サッカーチームの名前だよ.」,「怪我や病気で(車椅子)になったんだよ.」と正直に答えていた.観客の子ども達は,小1から小3を中心に約30名であった.公演が始まると子ども達は静かに見ていた.一緒に「じゅげむ」の名前を言う場面では,子ども達が競って早口で「じゅげむ」を言おうとしていた.公演後,子ども達は,「おもしろかったー!」,「ありがとう.」と言ってくれた.館長より,「次回も公演してくださいね.」と,公演の依頼があった.
 (2)第2回D児童館影絵公演の様子 演目:「たべられたやまんば」,「おいてけぼり」
 3月27日:影絵公演当日,劇団員が児童館に到着すると,子ども達が寄って来て,「影絵やるの?」と聞いてきた.すっかり劇団員と子ども達が顔見知りになっていた.準備中,劇団員と子ども達が拍子木を打ち合ったり,マイクで遊んだりと交流が始まった.約20名の子ども達と子ども連れのお母さん数人が集まり,公演が始まると,静かに見ていた.しかし「たべられたやまんば」の「おしょうさん」と「こんぞ(こぞうさん)」とのやりとりの場面では,笑いが起こった.終了後,Bさんが子ども達に,「面白かったですか?」と聞くと,子ども達は一斉に,「おもしろかったー!」と答えた.館長から,「また,お願いします.」と再度の公演を依頼された.
 (3)E保育園児影絵公演の様子 演目:「たべられたやまんば」,「おいてけぼり」
 3月28日:E保育園児をX施設へ招待して影絵公演が実施された.約50名の子ども達が来館した.公演が始まると,子ども達は静かに見ていた.Aさんの台詞が,感情が込められており,保育士達を感心させていた.ここでも「たべられたやまんば」の「おしょう」と「こんぞ」のやりとりに子ども達の笑いが起こった.終演後,保育士が,「お礼に歌をプレゼントしたいと思います.」と言い,子ども達が全員立ち上がり,歌を2曲歌ってくれた.帰る時,子ども達は一人一人,劇団員に,「ありがとう.」と言って帰って行った.翌日,E保育園園長より筆者に電話があった.「ありがとうございました.とても面白かったと子ども達も先生方も言っていました.好評でした.また,誘って下さい.保育園でも影絵を取り入れたいので,影絵の作り方や演じ方を教えてください.」と園長が言った.

5.考察

3回の公演によって,子ども達を喜ばせ,楽しめませることができただけでなく,児童館・保育園からの公演依頼があった.また,児童館の子ども達と劇団員との交流が影絵公演だけでなく,公演前後にもなされた.さらに保育園児による公演後の「歌のプレゼント」は,子ども達が観客という受け身ではなく,子ども達からの身体障害者への交流として捉えられると考えられる.以上のことから,この影絵公演は,身体障害者と子ども達との地域交流の一つの形として提示できるのではないか,と考えられる.

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