自由研究発表障害(児)者福祉7  遠藤 美貴

当事者主体の組織改変を目指す取り組みに関する研究
-「組織のボスになる」から「自分のボスになる」へ-

立教大学大学院コミュニティ福祉学専攻博士後期課程  遠藤 美貴(会員番号5028)
キーワード: 《当事者主体》 《組織改変》 《知的障害当事者》

1.研 究 目 的

2000年に社会福祉関係八法が改正され、行政主体の措置制度から利用者主体の契約制度に変わり、「当事者主体」ということばを目に、耳にすることが多くなった。また、当事者自身も「私たち抜きに私たちに関することを決めないでください(Nothing about us without us)」と自分たちに関する事柄の決定に参加・参画することを望む声は年々大きくなってきている。しかし、社会福祉サービス提供組織は「職階制に基づく上下関係が内在し、当事者はその階層のどこにも位置しないのが普通である。位置するとしたら階層のさらに下となっている1)」。 さらに、組織に関する様々な決定事項は「理事会」で決められ、その場にサービス利用者である当事者が参加・参画している場合は少なく、とりわけ利用者が知的障害当事者である場合は皆無に等しいであろう。そのようななか、2007年に知的障害当事者の組織運営への参加・参画に取り組む組織が現れた。知的障害当事者が組織運営に関する決定権をもてるように、つまり「当事者主体」の組織へと改変することを目指す取り組み(「特別プロジェクト」)である。この「特別プロジェクト」は現在も継続中ではあるが、これまでの取り組みから社会福祉サービス提供組織を「当事者主体」の組織に改変するための方法について考察する。

2.研究の視点および方法

この「特別プロジェクト」は東大阪にある社会福祉法人創思苑が有する通所施設パンジーに通う利用者が、法人や施設の運営に参加・参画することを可能にするため組織改変をおこなうことを目指して結成された、正式名称を「パンジーを変える!特別チームさわやか」というプロジェクトチームである。2007年7月に法人理事長から委嘱され、活動が始まった。6名の当事者と2名の支援者で組織され、仕事としてプロジェクト活動をおこなっていた。さらに1ヶ月に1回、外部からアドバイザーが参加し、当事者と一緒にプロジェクトの目標を確認し合い、今後の活動内容を検討していた。プロジェクトの目標は「1.当事者がいきいきと働けるようなパンジー(法人)にしていくこと、2.当事者が中心となれるようなパンジー(法人)にしていくこと、3.当事者が自分たちで考え、決めていけるようなパンジー(法人)にしていくこと」である。 この目標を達成するためにはパンジー(法人)の運営に当事者が参加・参画することが重要であると考え、このことを当事者が理解しやすいように「自分が理事や施設長になる」あるいは「組織のボスになる」ことを目指すと表現し、活動を進めてきた。しかし、2008年度の活動を通じて目指すべきことが「自分がやりたいことをやれるようにする」「自分のボスになる」ことへと変わってきた。そこで、本発表ではプロジェクトへの2年間の参与観察から「自分のボスになる」ことが当事者主体の組織改変となり得るのか否かを検討する。

3.倫理的配慮

法人名、施設名を明記しているが、この点については当事者からも法人理事長からも了解を得ている。

4.研 究 結 果

2007年度はまず、この法人がもつ様々なサービス事業所の幹部職員(チーフと呼んでいる)の仕事内容をインタビューで把握したり、それを実体験するための「チーフ体験」が数回実施された。「チーフ体験」後はメンバーが「仕事」「生活」「遊び」の3つのグループに分かれ、当事者中心のパンジーにするために必要なことをこの3つの視点から考えることになった。2008年3月には他の法人の作業所やグループホームを見学しながら、評価表を作成し、その評価表を用いてパンジーを評価し、改善策を提示することがアドバイザーから要請されていることであった。この段階では、「パンジーを変えるためにはメンバーが上に立つ」「トップに立てるようになる」ということばが何度か使われており、組織改変のための手段・方法としてプロジェクトのメンバーが理事や施設長になることが強調されていた。 しかし、立ち上げ当初からかかわっていたこのアドバイザーが長期海外出張することとなり、2008年度はプロジェクトにかかわることができなくなった。そこで、2008年4月から新たなアドバイザーを迎えることになった。以降、混乱を避けるため立ち上げにかかわったアドバイザーを「2007年度アドバイザー」と表記し、2008年度アドバイザーを「2008年度アドバイザー」と表現する。 プロジェクト2年目は来年度のプロジェクト体制や活動内容の検討や、9月に訪問したグルンデン協会2)の振り返りの過程において当事者中心とは「一人ひとりがやりたいことをする=自分のボスになること」であるということを導き出した。現段階においてプロジェクトは「一人ひとりが自分のボスになることでパンジーが当事者中心になる」と整理し、「自分のボスになる」ためにメンバー各自が6つの活動に取り組もうとしている。しかし、「自分のボスになる」ことと「当事者中心の組織に変えること」の関連が明確ではないという点が課題になっている。果たして、「自分のボスになる」ことが、当事者中心の組織へと改変し得るのか否かを考えてみたい。
  プロジェクトは組織運営に関する決定権は理事や施設長に委ね、活動レベルにおいて当事者である利用者が自分のやりたいことを支援者から必要な支援を得ながら進めていくことで、組織全体が当事者主体に変わるだろうと整理している。しかし、この方法は「当事者主体の組織に変わるか否か」の決定を職員や施設長、理事が握ることになる。例えば活動レベルにおいて各活動が当事者主体になるかどうかは支援者次第であり、支援者が当事者の決定を尊重しなければそこに「当事者主体」は生まれないのである。また、このプロジェクトに法人から補助を出しているという事実からも現・理事長は当事者主体の取り組みを積極的に評価していることが分かるが、理事長が交代しても同様の活動が認められる保証はない。誰が支援者になっても、施設長や理事長になっても「当事者主体」を貫くのであれば、組織運営に関する決定に当事者も関与する必要がある。このことは必ずしも理事の全てを当事者が占めるということを意味するものではない。 なぜなら、現代社会において「当事者だけで管理・決定できる場/機会」は多くなく、むしろ非当事者とともに決定することが求められるであろう。そこで「当事者」と「非当事者」が同じ場で、対等に決定していくことが重要なことである。しかし、理事全体に占める当事者の割合として半数以上は必要である。そして、もっとも検討されるべきことは、理事会における支援のあり方や理事会の進め方そのものであろう。

  本研究は文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業(RARC平成17年度~平成21年度)による私学助成を得て行なわれた。
1)河東田博「ピープル・ファースト運動と組織変革」パンジーさわやかチーム、林淑美、河東田博編著『知的しょうがい者がボスになる日-当事者中心の組織・社会を創る』、現代書館、2008年p.7
2)スウェーデン・グルンデン協会は、実際に知的障害当事者が組織の協会(法人)の運営を担い、職員を雇用し、国際的な活動も含め様々な活動に取り組んでいる組織である

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