自由研究発表障害(児)者福祉7  米倉 裕希子

知的障害のある方を対象にした心理教育実践
-中はりま手をつなぐ育成会当事者研修オープンスクールの取組み報告-

○ 近畿医療福祉大学  米倉 裕希子(会員番号5676)
神戸女子大学  木村 あい(会員番号6817)
キーワード: 《知的障害者》 《心理教育》 《余暇支援》

1.研 究 目 的

知的障害のある人を対象にしたオープン・カレッジの取組みは、①人権の保障、②発達の保障、③変化の可能性の保障の一助、4地域社会に対する大学の貢献などを目的に1998年大阪府立大学から始まった。その後、武庫川女子大学、桃山学院大学、皇學館大學、島根大学などにも広がり展開している。また、知的障害のある子どもをもつ親の会として全国的に組織化されている手をつなぐ育成会では、近年、知的な障害のある本人たちの会の活動が活発になってきている。このような、オープン・カレッジの取組みや、本人活動を参考に、地域で暮らす方に「学ぶ経験する場」の提供を目的として、2008年8月から「中播磨地区 手をつなぐ育成会当事者研修 オープンスクール(以下、オープンスクール)」を実施した。
  しかし、これまでのオープン・カレッジの取組みと異なり、当事者に対する心理社会的介入実践としてプログラムを構成した。精神保健分野では、家族に対する心理社会的介入が、再発などの予防につながるといった知見がすでに確立されている。さらに、当事者の方への心理社会的介入の実践が始まっており、当事者の方が、病気や薬に関する正しい知識、情報、対処方法、社会資源などを学ぶ機会を提供している。本プログラムも、余暇支援の内容を含みつつ、知的障害のある方への心理教育プログラムの開発を目的にしている。
  よって本研究の目的は、今後の実践に向け、中播磨地区で開催された知的障害者の当事者研修を振り返り、本プログラムの効果を評価することである。仮説として、本プログラムが、①知的障害者の自尊感情および②社会生活技能の向上に寄与すると考えた。

2.研究の視点および方法

オープンスクールは、2008年8月~4月の間に全10回のプログラムで、1回約90分の講座を行った。全10回の講座の内容は、①入学式と自己紹介、②福祉学、③学園祭、④精神保健、⑤心理学、⑤栄養学、⑥医学、⑦選択授業、⑧社会学、⑨修了式である。受講生の募集は中播磨地区育成会が中心になって行ない、主に育成会の会員の方、中播磨地区にある知的障害者の福祉関係者に広報した。  オープンスクールの効果を評価するため、受講する知的障害者本人(以下、受講生)に対して、10項目からなる①自尊感情測定尺度、また3項目からなる②うつ症状に関する質問紙を実施した。質問紙は、支援者、家族に手伝っても良いとした。また、ご家族あるいは支援者に対して、支援者・ご家族から見た受講生の自尊感情として、同様の①自尊感情測定尺度と、12項目からなる②社会生活技能尺度を用いた。それぞれの質問紙を介入の前後で実施した。

3.倫理的配慮

質問紙は、受講申し込みのあった方に対して、事前に研究参加のお願いに関する説明文を郵送し、同意書に同意していただいた方にお願いした。説明文では、研究に参加しなくとも、プログラムに参加できることを強調した。同意書に同意していただいた方にアンケートを返送していただいた。

4.研 究 結 果

オープンスクール受講生は9名で、男性4名、女性4名だった。受講生の年齢は、21歳~59歳で、平均年齢は37.2歳だった。9名の生活状況は、入所施設1名、グループホーム4名、在宅で地域の作業所(就労継続B型)3名、その他1名だった。全10回の出席率は86.7%である。質問紙に解答して下さったご家族あるいは支援者(以下、家族ら)と受講生との関係は、母4名、施設の支援者5名だった。性別は、男性3名、女性6名で、年齢は、31歳から59歳で、平均年齢は47歳だった。
  事前アンケートの回収率は、受講生7名で、家族ら9名だったが、事後アンケートは受講生7名、家族ら8名だった。そのため前後比較は対応のある8名で比較した。
①自尊感情測定尺度:事前の受講生の平均は26±3.9点(N=7)で、家族らの平均は、29.2±4.2点(N=9)だった。事後アンケートに答えてくれた受講生4名のうち、自尊感情の得点が上がったのは2名で、3名は下がった。事後アンケートに答えてくれた家族ら6名のうち、得点が上がったものは3名だった。
②社会生活技能スケール:事前の平均は、22.3±1.4(N=8)で、事後の平均は23.6±1.8(N=8)だった。8名中、4名が変わらず、4名が向上した。
③うつ症状:事前の平均は4.4±0.3(N=8)で、事後の平均は3.9±0.4(N=8)だった。8名中、1名が上がり、3名の得点は変わらず、4名が下がっていた。
  今回、知的障害者本人への質問紙の実施といった点で、質問紙の内容や実施方法などに課題があり、有効な回答を得られないケースもあった。今後、質問紙の実施方法に関する検討を行う必要がある。効果を評価するといった点では課題が残り、効果を明らかにはできなかったが、今後のプログラム実践に向けたいくつかの示唆は得られた。今回のプログラムでは、自尊感情の向上にそれほど影響を与えないという結果がでた。自尊感情を挙げるためには、周囲の環境に対する積極的なアプローチが必要かもしれない。一方で、社会生活技能やうつ症状の改善に役立つかもしれない。これは、オープン・カレッジが目的としてきた発達保障、変化の可能性を裏付けるものであり、外出の経験やプログラムを通した人との関りによるものと思われる。また、余暇支援をすることでうつ症状の改善につながる効果があるかもしれない。以上のような結果を、2009年6月から始まる第2期オープンスクールに活かし、今後もプログラムの内容および効果について検討していきたい。

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