自由研究発表障害(児)者福祉7  金 文美

地域精神保健福祉機関におけるコンシューマ・プロバイダーへの
 支援に関する考察
-ピアサポートを推進する役割とは-

大阪府立大学大学院人間社会学研究科社会福祉学専攻 
博士前期課程  金 文美(会員番号7406)
キーワード: 《コンシューマ・プロバイダー》 《精神障害》 《ピアサポート》

1.研 究 目 的

精神保健福祉分野において精神障害者/当事者が、地域精神保健福祉機関のサービスや事業に参加して自らサービス提供を行うコンシューマ・プロバイダーの役割が近年拡大している。本研究では、従来から当事者を積極的に雇用し、福祉理念の具現化としてピア活動を当事者とともに展開・支援してきたA機関にて調査を行い、ピアヘルパーの役割を中心にコンシューマ・プロバイダーと専門職との協働の在り方を追求してきた実践に焦点をあて、その役割・課題・意義を見出そうとするものである。
  ピアサポートの活動の発端は、1970年代の「自立生活運動」においてみることができる(坪田2000)。歴史的に自立生活支援センターの活動のひとつにピアカウンセリングが位置づけられ、海外の精神保健福祉領域ではクラブハウスモデルをはじめ、コンシューマとの協働の実践報告がなされている。ピアに関連する活動は、ピアサポートに価値を見出し、積極的にそれを発展させようとする精神障害者当事者運動や専門職の実践活動の動きが背景にあることが指摘されている(坂本2007)。コンシューマ・プロバイダーの活動の利点は、自己の成長や発達への道筋を示すだけでなく、価値観や自分の価値をも増すという点、安定した雇用、加えて自身の生活上のセルフケアの軽減という意味でも評価されており、また、コンシュマ・プロバイダーの存在は、スタッフの教育や管理上の手段としてプラスとなるなど、精神保健システムや、他の専門職スタッフに与える影響も記されている(S.Carlsonら2001)。

2.研究の視点および方法

わが国での精神保健福祉領域におけるピアサポートの広がりは、ピアカウンセリングにとどまらず、ピアヘルパー、従来の退院促進事業の精神障害者/当事者自立支援員、「当事者の語り」の機会等、大阪府内においてもそのバリエーションが様々な形で展開している。これらピアサポート活動の意義を整理し、地域精神保健福祉機関におけるコンシューマ・プロバイダーへの支援の方法について考察・探求することが本研究の素地となっている。協働するピアの役割が拡大する一方、その課題も議論されており、サービスを提供するコンシューマ・プロバイダーに関して、そのサービス対象者との間におこる二重関係、役割葛藤、秘密保持の三点の課題について、その代替策が示されている(S.Carlsonら 2001)。本研究においても、コンシューマ・プロバイダーと利用者本人との役割葛藤について導き出されている。
  具体的な研究のアプローチとしては、A機関におけるフィールドワークと、コンシューマ・プロバイダーを支援・調整する専門職スタッフに対してのインタビュー調査(平成20年8月~10月実施)を行った。修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを参考に、逐語録のオープンコーディングから概念生成と、導き出された概念の相互関連性に関する分析を行い、フィールドワークにおける観察記録を分析に補完的に加えた。

3.倫理的配慮

この調査研究に関する倫理的配慮として、調査協力者とA機関の代表者に対して、守秘と記録管理、研究発表に関する文書を事前に提示してインフォームドコンセントを行い、承諾を得た。また、インタビューの逐語録を予め提出してメンバーチェッキングを受けた。

4.研 究 結 果

分析によって導き出された概念は、コンシューマ・プロバイダーの活動の積極的意義、協働の条件、コンシューマ・プロバイダーへの支援体制、協働をすすめる中で地域機関において留意すべきこと、当事者スタッフへの精神的サポートやフィードバックのありかた、などに分類された。A機関が評価するコンシューマ・プロバイダーの役割は、ピア活動の開拓の役割の自覚意識、利用者への実際的な情報提供と地域移行への定着支援、自己の経験に基づいた支援、具体的な精神科疾患の困難が共感できること、利用者への回復のモデルとなり得ることなどが抽出された。逆にコンシューマ・プロバイダーの「しんどさ」への支援、連携する医療者にとって当事者のサービス提供の理解の低さ、「長い息で続ける」必要性などの課題も見られた。導きだされた概念の相互関係を明らかにし、コンシューマ・プロバイダーへの支援のありかた、地域精神保健福祉機関における精神障害者/当事者との協働の意義と今後の協働・パートナーシップを機軸にした地域実践についての課題について考察している。

引用文献(順不同)
1) 坂本智代枝(2007)「精神障害者のピアサポートの有効性の検討」『大正大学研究紀要』92.314-301
2) 坪田充功(2000)中野善達監訳『障害とリハビリテーション大辞典』湘南出版.424P
3) Linda S.Carlson(2001)Hiring Consumer-Providers: Barriers and Alternative Solution, Community Mental Health Journal,37(3)

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