自由研究発表障害(児)者福祉7  廣野 俊輔

「自立生活」概念の再検討に向けて
-自立生活の意味に注目して-

同志社大学大学院  廣野 俊輔 (会員番号6293)
キーワード: 《自立》 《自立生活》 《障害者福祉》

1.研 究 目 的

本報告は,「自立生活」という概念の意味を再検討することを目的としている.このような試みの背景には次のような問題意識がある.
  「自立生活」という概念は,障害者福祉論において重要な用語の1つとなっている.この自立生活という概念に含まれる「自立」という用語は,時を経て多様に意味が変化してきたとされている.大まかにまとめると,経済的な自立,身辺的な自立,そして自己決定による自立という順に変容していったとされている.もちろんこれらの諸概念は,先行するものが後のものにとって変わられるという関係ではなく,積層的である.このうち,自己決定によるによる自立は,障害者の自立生活運動の成果として紹介されることが多い.すなわち,それまでは,経済的自立や身辺的自立が困難であったために「自立できない」とされていた障害者が,自立生活運動が提起した自立概念,―自己決定にもとづく自立―,から見れば自立しうるといった指摘が定説となっていると考えられる.
  報告者の問題意識は,この自己決定に基づく「自立(自立生活)」に向けられている.というのも,論者によって自立(自立生活)」の意味するところが異なると思われる場合があるからである.
  また,この自己決定にもとづく自立は日本においては,アメリカの障害者運動によって もたらされたと説明されることが多かった.しかし,これに対しては,同様の運動が日本にも存在するという見解が出されている.さらに,最近,日本の運動とアメリカの運動は質的に異なり,両者を同一のものとはとらえられないとする見解も出されている.
  これらの議論に対して筆者は,「自立(生活)」の意味を明確にすることが課題だと考えてきた.なぜなら,そもそも「自立生活」に共通の理解がなければ,上記のような議論は生産的にはならないだろうからである.本報告では,「自立生活」の概念を明確化するという課題の一環として,各論者の自立生活に関する定義(意味)の異同を整理する.

2.研究の視点および方法

本報告では,「自立」,「自立生活」の定義(意味)の変遷に着目する.具体的には,各論者による定義がどのような点に力点を置いているのか(自己決定や生活の場)について注目する.またその定義と論者が想定している自立生活運動がどのような運動であるのか(日本の運動やアメリカの障害者運動)にも着目する.本報告は自立生活運動を論じている著書や論文を対象とした文献研究である.

3.倫理的配慮

日本社会福祉学会研究倫理指針にもとづき次の点に留意する.すなわち,(1)自説と他説の区別を明確にすること.(2)文献は原典を参照すること,(3)最新の内容を発表することである.

4.研 究 結 果

本報告では,自立生活(運動)に関する議論を,特に自立生活(運動)の定義と運動の起源をどのようにとらえているか,という点に注目して検討した.その結果,次のようなことが明らかとなった.
  第1に,アメリカに自立生活(運動)の起源を求める論者の自立生活の定義には,次のような傾向がある.すなわち,自立生活運動に不可欠な要素として,自己決定を定義に含ませている.一例を挙げると,定藤(1991:30)は自立生活を「障害者がたとえ日常生活で介助者のケアを必要とするとしても,自らの人生や生活のあり方を自らの責任において決定し,また自らが望む生活目標や生活様式を選択して生きる行為を自立とする考え方・・・(後略」」と規定している.こういった理解は先に定説として述べた定義と重なっていると考えられる.
  第2に,日本にも自立生活運動があったと主張する論者には次のような傾向が看取できる.すなわち,自立生活の定義に必ず生活の場を定義に含めている.一例を挙げると,志村(1991:30)は障害者の『自立生活』とは,従来,『施設』か『在宅』かというオプションしか与えられていなかった障害者が,自分たちも他の『健常者/健全者』と同じように地域社会に出て,自分たちの意志で生活していこうという障害者の当事者運動である」と規定している. 
  第3に本報告で取り上げた論者のうち,日本にも自立生活運動があったとする論者は,一様に自己決定と同様の意味を定義に盛り込んではいるが,「自己決定」という用語を必ずしも用いていない.論者によっては,「やりたいようにやり生きたいように生きようとすること」といったように表現されている(立岩1999).
  これらの相違点はもちろん絶対的なものではない.しかし,以上の検討から,自立生活(運動)に関する定義において少なくとも,関連するけれども異なった論点があることが確認できる.すなわち,まず第1に自己決定という言葉に示されるように「自立生活(運動)」障害者の主体性という論点である.そして,第2に,施設や親元を離れるという言葉に示されるように,生活の場である.
  いくつかの定義はこの両方の要素を含んでいる.しかし,おおむねアメリカの自立生活運動が論じられる際には前者が,日本の自立生活運動が論じられる際には,後者に力点が置かれているのではなかろうか.重要なことは,別に論ずることも可能な論点が「自立生活(運動)という概念に含まれているということに自覚的であることだと考える.
※詳細な資料は当日配布する.

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