自由研究発表障害(児)者福祉6  谷口 明広

「個別教育計画(IEP)」と「個別支援計画(IPP)」の連続性に関する研究
-イタリア・ボローニァ地方での取組みを参考にして-

○ 愛知淑徳大学  谷口 明広(会員番号1065)
華頂短期大学  武田 康晴(会員番号2464)
キーワード: 《個別教育計画》 《個別支援計画》 《個別教育プロジェクト》

1.研 究 目 的

2006年(平成18)6月に「学校教育法」の一部改正がなされ、07年4月から「特別支援教育」が実施されている。それまでは、身体や知的に障害や病気をもった子供への教育は、盲(もう)学校、聾(ろう)学校、養護学校などの特殊学校、あるいは小中学校に設置された特殊学級で実施されてきた。弱視や難聴、軽度の知的障害をもつ児童は、特殊学校に入学しなくても良いが、普通学級では不適応を起こす中間領域の児童や、学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)、そして高機能自閉症(アスペルガー)など、今までとは異なった問題を抱える児童が増加している。文部科学省が2002年に実施した調査においても、普通学級において特別な支援を必要とする児童生徒は約6.3%いると見込まれており、「個別教育計画」の重要性が増してきている。
  このような現実を背景にして、学校内の総合支援体制を確立していくばかりではなく、地域社会をも巻き込んだ特別支援体制を整えなければならなくなった。各学校長が"特別支援教育コーディネーター"を指名し、そのコーディネーターが中核となって、校内だけではなく、医療や保健、福祉等の校外機関と協力して教育を行えることを目指した。
  しかし、コーディネーターに高度な専門的な知識や判断力が求められるが、そうした人材の養成が遅れているし、地域自立支援協議会に参加している"特別支援教育コーディネーター"も数少ないと認識している。このような課題を解決するためには、「地域雇用」という概念を基本にしたイタリア・ボローニァ地方の「個別教育プロジェクト」を参考にするべきであり、「真の地域生活支援とは何か」を明らかにしようとした研究である。

2.研究の視点および方法

イタリアには生協や農協などの組合と並び、障害をもつ人たちの生活や仕事を支える福祉と雇用が一貫した「社会的協同組合」がある。1991年に制度化され、イタリア全体で約6500の組合があるといわれている。ボローニャ市郊外にあるコーパプス(COpAPS)は、1979年に設立され、精神障害や知的障害をもつ人たちが、仕事を通じて社会参加を実現することを目指し、果樹や野菜栽培などの農業、農産物の加工と直販、レストラン「イル・モンテ」の経営などをする。現在約40人のスタッフと34人の障害者が働いている。障害者自立支援法で言うと、就労移行支援と就労継続支援が一緒になったような事業所で、仕事の内容や資格等を鑑みて、国が決めた給与基準に合わせて給料が支払われている。
  イタリアという国の障害者雇用に対する考え方は優れており、特別支援学校や学級のみで取り組んだり、福祉関係機関のみで取り組んだりするのではなく、「地域雇用」という考え方の中で「個別教育計画」から「個別支援計画」への移行がスムーズに為されており、「個別教育計画」の中にコーパプスでの実習も定期的に組み込まれている。我が国の現実は、就労に必要とされる技能や方法とは懸け離れた訓練が特別支援学校において為されていることも少なくない。特別支援学校が持つ優れた就労支援ネットワークを福祉分野にも広げることが、障害をもつ人たちの就労支援には急務と言える。

3.倫理的配慮

個別支援の様式やシステムに関する研究であり、個人情報露呈や人権問題に触れることはないが、日本社会福祉学会の倫理指針を遵守し,個人情報に関する配慮を行っている。

4.研 究 結 果

研究成果としては、ボローニァ地方(州)で使用されている「個別教育プロジェクト」におけるアセスメントから始まる「個別教育計画」および「個別支援計画」の内容を明らかにすることができた。これらの項目を列挙すると、以下のようになる。
●1章-「個別教育計画」の構成 個人の経歴  【別資料1】
  1節-アセスメントの留意点     
  2節-現行の教育に関する環境
●2章-初期状態:知識、能力、適性        【別資料2】
●3章1節-教育に際しての基本的注意事項   【別資料3】
  2節-プロジェクトを進めるための基本事項
  3節-統合カリュキュラムへの介入方法
  4節-個別の学校に許されている自由度
  5節-自治体での個別施策と有効性の認知
  6節-プロジェクトの詳細事例を記録する
  7節-取り組みに対する独自性の確保
  8節-「評価」の正当性と平等性

  身体や知的に障害をもつ人たちにとって、イタリアのスローワークという概念は、理想的なのかも知れないと感じた。さらに、「協同組合」という組織で、彼らを地域社会で雇用していこうという「地域雇用」という考え方は、最も"ノーマライゼーション"に近いのではないかと感じている。地方自治体が持つ公共事業を障害者福祉関係機関へ優先的に入札させる方法は、我が国でも手掛けていく必要があり、一般市民の深い理解と障害者福祉関連事業所の能力や技術を向上させていくことが不可欠である。

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