自由研究発表障害(児)者福祉6  木下 隆志

就労移行支援における個別支援計画作成のあり方について
-A市就労支援ハンドブック作成で試みる支援体制の考察-

関西国際大学  木下 隆志(会員番号3629)
キーワード: 《就労支援ハンドブック》 《就労ニーズ》 《個別支援計画》

1.研 究 目 的

A市は、平成22年度に総合福祉センターを建設する。そのセンター内で喫茶が運営されるのだが、就労支援の場として提供されることになっており、三障碍を対象に、喫茶における就労支援ハンドブックを作成することになった。ハンドブックの目的は、具体的な喫茶内容をイメージできるものはもちろんのこと、ハンドブックを見て理解できない当事者、また、ハンドブックを手にすることのない当事者をも包括した、かかわりの場の提供と支援体制作成ツールとして利用することを検討している。ハンドブックを手に取る利用者は実際に就労に向けて個別支援ハンドブックを作成する段階へ移行する。 また、ハンドブックを見たが就労への希望を持てない利用者には、どの段階のサポートが必要なのかを本人と支援者が理解でき、本人の就労ニーズと就労能力とのミスマッチの原因を環境要因から探る段階と、本人の就労ニーズに沿った個別支援計画を作成する段階へ移行する。またハンドブックに興味を示さない方へは、現存の支援にどのような不足があり、本人のニーズと符合させることができるかという段階の個別支援計画へ移行するための指標になるものを計画している。そのため、現段階では就労に関するアンケート調査、雇用者に対する就労支援の工夫について情報を収集している。次いで、当事者を含めたハンドブック作成会議を実施する。当事者と一緒に就労のためのSSTを行い、具体的なハンドブック作成と就労ニーズと就労とのギャップを検討する。振り返りに使うのはロールレタリングを用い、本人の就労ニーズを外在化し、その外在化したものに自ら手紙形式で問う方法によって、本人の可能性と課題について自ら評価し、課題に気づく手法を取り入れている。これらハンドブック作成を通し、当事者の就労ニーズに答えるための段階的サポート体制の必要性を検討する。

2.研究の視点および方法

就労支援ハンドブックは最終的に、個人レベルのものが必要になってくる。しかし、A市で行われている支援は、本人の就労ニーズが顕在化している対応には積極的に支援体制が組まれるが、ニーズが潜在化しており、就労できる能力に達していない場合は、現行のサービスが維持・継続されることになる。多くの場合、支援員との関わりによる判断と個別的な力量にゆだねられている現状である。A市において作成するハンドブックが就労ニーズの潜在的・顕在的ニーズのいずれの場合も次の個別支援計画を作成するツールとなることで、より多角的な面でサポート体制を検討できると考察する。平成21年7月に就労ニーズに関するアンケートを実施。また、同月に雇用者の工夫についてのアンケートを実施。平成21年8月から当事者参加による検討会議を実施し、当事者参加のSSTから具体的なハンドブック作成の課題を検討。その中で出てきた課題から、就労ニーズを満たす段階的サポート体制について、当事者を含めた回答を集約する。

3.倫理的配慮

アンケート実施は匿名性を厳守し、集約した結果について、就労支援ハンドブック作成とそれに関する就労支援サポートのための検討会議、および学会発表、論文発表以外で公表しない。また、このハンドブック作成に協力頂く方には、この企画の発表及び、論文作成についての承諾を得る。

4.研 究 結 果

発表は現在進行中の事業の途中経過になる。ハンドブック完成は平成22年4月となる。また、実際の運用段階のデータではなく、モデル事業の段階のデータにより発表する。このハンドブックは就労に関する個別支援計画の一助となるためのツールとなることを意識して作成している。
  喫茶を中心とする就労ニーズは、福祉センター内にあるという立地条件、就労支援を看板に掲げた運営事業ということもあり、かなり高い希望があるのではないかと推測している。しかし、実際に仕事をする上で、本人と仕事とのミスマッチが生まれる。現在あるA市の福祉的就労場所や日中活動の場は知的で4カ所、精神は1カ所、身体2カ所である。おそらく希望者の多くは、現行の日中訓練の場に戻られる方が多くなる。一方、就労ニーズを満たせた方の中にも、ドロップアウトの危険性がある。満たせなかった方は就労意識を無くす可能性もある。この就労支援ハンドブックを多くの方が手に取り、手に取った段階から、本人と支援者の関わり方が模索できるハンドブックとなることを期待している。 ハンドブックの形態は喫茶業務を柱とする主な内容となっているが、ハンドブックを読み進める各段階において、支援者と相談を行い、必要な技能を習得していく道筋を立て就労のための個別支援計画作成に繋げていくものとなる。支援者と相談を行う際に、自分自身を振り返る方法として、ロールレタリングを使用実施することもこのハンドブックの特徴である。(ロールレタリングが障碍を持つ方において効果があるのかは、初の試みであることから、今後平行して検証する必要がある。)就労場所を具体的な喫茶場面に特定し、この喫茶業務を通して、ひとつの流れができれば、就労ニーズ→自己の気づきのステップ→就労ニーズの具体化→ギャップ調整の段階→就労ニーズの深化→具体的就労のための個別支援計画の作成という流れを作ることができる。就労支援の多角的なかかわり方を模索でき、就労のための具体的な個別支援計画作成のためのひとつの方法として考察できればと思う。

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