自由研究発表障害(児)者福祉6  三田 岳彦

国際生活機能分類(ICF)からみた特別支援学校の個別の指導計画の
現状と課題

川崎医療福祉大学  三田 岳彦(会員番号7176)
キーワード: 《特別支援教育》 《個別の指導計画》 《ICF》

1.研 究 目 的

2008年文部科学省中央教育審議会は,幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善に関する答申において「個別の指導計画」を作成することによって,発達期にある児童生徒の現状や変化を的確に把握し,関係者ならびに関係機関との連携を強め,より効果的な指導や支援に取り組む重要性を指摘している。一方,2000年相澤らによる全国の知的障害養護学校を対象に実施された調査は,当時既に約60%の学校が「個別の指導計画」を導入していることを明らかにしている。しかし,そこでは指導・支援の目標として達成可能な行動目標だけが設定されがちで,児童生徒の全体像の把握が弱くなってしまうことや,個別のニーズに応じた指導計画を進めるには家庭,福祉,医療,保健,労働関係機関などとの連携が不可欠であることなどの課題が挙げられている。このような課題に対して国際生活機能分類(ICF)の有用性が報告されている.それは児童生徒の全体像をICFが示す統合モデルの視点から把握し,個別の指導計画や支援計画に活用しようとするものである。しかし,ICFの導入に際して,用語が難解であったり,項目数が多いなどの問題点が指摘されており,ICFを活用した指導計画の策定や実施の実用化には至っていない。
  そこで,本研究では,ICFを活用した個別の指導計画にむけた基礎研究として,某特別支援学校において既に導入されている個別の指導計画:実態表をICFの視点から整理・分類し,その現状と課題を明らかにすることを目的とした。

2.研究の視点および方法

(1)対象データ
  対象データは対象特別支援学校が使用している「個別の指導計画:実態表」(以下,実態表と略す)であり,それは6領域(生活,身体・運動,コミュニケーション・社会性,学習,職業,自立活動)から構成されていた。実態表への記入は担当教員によって行われていたが,その記入方法に関する特別なマニュアルや規定はなく,各教員による自由記載(文章)とされていた。本研究では2008年度の実態表を対象データとした。実態表に記入された児童生徒の数は202名であり,その内訳は小学部76名,中学部34名,高等部94名であった。
(2)分析方法
  実態表の記述内容をICFの構成要素(b:心身機能,s:身体構造,a:活動,p:参加,e:環境因子)およびそれらの第1レベルに分類し,全学部および各学部の児童生徒に対する記入率を求めた。実態表の記入は,上述したように担当教員による自由記載とされた結果,内容(文章)の長さや表現形は記入者によって様々であった。そのため,まず記載内容を簡潔な箇条書きに書き換え,個別のエピソードに分解した。その後,それぞれの個別エピソードをICFの構成要素および第1レベルに分類し,「記入あり」とした。なお,複数の個別エピソードが同一の構成要素および第1レベルの分類に該当し,複数回の「記入あり」が生じた場合でも,発生回数とは関係なく,一括して単に「記入あり」と扱った。

3.倫理的配慮

対象特別支援学校には研究の趣旨や方法について説明し,実態表データの使用および本研究課題の公表について承諾をえた。なお,本研究課題を公表するにあたっては,対象児童生徒のプライバシーが侵害されないよう,個人の氏名や所属する学校名およびその所在地なども一切公表せず,個人,団体が特定されないよう留意した。

4.研 究 結 果

<分析の結果,心身機能・身体構造に関する記述の少ない(36%)ことが明らかにされ,児童生徒の心身面に関する保健医療情報を適切に得られる体制づくりが求められた。活動に関してはほぼ全員の記入(99%)が確認され,参加は57%の記入率であった。活動第1レベルの9項目中7項目が高い記入率を示し,残りの2項目は参加の項目において,活動の項目より高い記入率を示した。特別支援学校では児童生徒の能力の発達を促すことに主眼がおかれている。そのため生活行為そのものをさす活動の記入率が高い比率になることは納得されるところである。加えて,これらの活動が参加にどうつながって行くかということも重要であると考える。環境因子は約86%の記入率であり,決して低い比率ではなかった。しかし,児童生徒を取り巻く全てが環境因子であると認識すれば,全員に記入があるべきと考える。
  なお,本研究は実態表の記述内容をICFの項目へ分類する作業であり,該当項目の有無を示したにすぎない。しかし,実態表をICFが示す生活機能に位置づけ,児童生徒の実態を総合的に理解するための手がかりを示すことができたと考える。今後は,この成果を基盤として,個別の指導計画の実態調査をICFの項目から設定し,その質的な評価をも行って,児童生徒の実態の理解と課題を明確にし,ICFを活用した指導や支援への実用化をはかりたいと考えている。

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