精神障害者に対する偏見と差別意識に関する研究
○ 慶尚大学校社会福祉学科 Mi Kyung Seo (韓国社会福祉学会会員)
木浦大学校社会福祉学科 Young Ran Kim(韓国社会福祉学会会員)
キーワード: 《精神障害者》 《偏見》 《差別意識》
精神障害者に対する全般的な社会の態度は,別の障害と同様に「憐みの待遇をすべきだ」といいながらも同僚や家族として個人的な関係をもつことには,ずいぶんネガティブな態度をみせている。このような二重の態度は,精神障害者に対し障害を隠し必要な治療を避けさせ回復を深刻に妨害している。つまるところ,精神保健社会福祉の目標である社会統合と回復のためには地域社会における受容が前提になければならない。
したがって本研究の目的は,韓国における精神障害者の人権保護増進のための国家戦略樹立を前にして,精神障害者に対する偏見と差別に対する国民意識調査を通し,これらを克服するための国家戦略を提案することである。
(1) 調査対象 : 精神障害者に対する偏見と差別に対する国民意識調査のため乱数表を利用し,地域(市郡区)を無作為選定し各地域別の年齢と性別を考慮した2100名を対象としアンケート調査を行った。調査は2008年7月から2008年11月までの4ヶ月間,訓練された調査員によって行われた。
対象者の人口学的特性をみてみると,男性49.4%,女性50.6%であり,年齢分布は, 20代21.0%,30代23.5%,40代 22.7%,50代15.1%,60代以上17.8%であった。教育水準は,小学校卒7.4%,中学卒8.1%,高校卒25.0%,専門・大学以上56.9%であり,一月の収入は,200万ウォン未満22.6%,200~400万ウォン未満52.6%,400万ウォン以上 24.8%であった。
(2) 調査道具 : 研究者と同僚たちが開発した精神障害者に対する偏見尺度24項目を使用した。因子分析の結果「精神障害者は無能なため治療や結婚など生活全般を誰かが代わりに決めてやらねばならない」という『無能力』の 8項目,「精神障害者は危険で予測困難な行動をするため行動を統制するべきだ」という『危険』の 7項目,「精神障害者は持続的に治療を受けねばならず,正常に戻ることは困難だ」という『回復不能』の6項目,「精神障害者は誰でも一目でわかる」という『識別可能』の3項目で構成されている。差別意識は全13項目からなり,因子分析の結果2つの下位因子に分類された。つまり「精神障害者と友人,隣人,同僚などの個人的関係を結ばない」という『個人的関係意向』7項目,「精神障害者の選挙権,養育権,保険加入などを制限すべきだ」という『基本的人権の制限』6項目で構成されている。最後に調査対象者が思う典型的な精神障害者の特徴的な行動にはどんなものがあるか,という質問を行った。
本研究はアンケート調査時,対象者の応答内容が研究以外の目的に使用されないことを約束し,これに同意した応答者に限り調査を行った。
4.研 究 結 果第一に,人口統計学的変数と偏見および差別の関係を分析した。結果,年齢は偏見,差別の下位因子と高い相関関係が見られ,年齢が高いほど全般的な偏見と差別の両方ともに高い相関が見られた。性別による偏見と差別の違いをみると偏見の下位因子の中の危険と回復不能が,そして差別の二つの因子すべてに女性の方が高い相関がみられた。すなわち,女性の方が偏見と差別が多いことを示している。また教育水準と所得水準による偏見と差別の差を分析した結果,全般的な偏見と差別の下位因子は所得が低いほど,教育水準が低いほど偏見,差別意識が高かった。
第二に,偏見の下位因子と差別の下位因子の相関関係を分析した結果,4つの偏見下位因子はすべて高い正の相関関係を見せひとつの領域に対する偏見が高い場合,他の領域の偏見も高かった。差別の下位因子間の相関関係もやはり高く,個人的関係を意向する傾向が多いほど基本的人権の制限に関する意識も高かった。また偏見の下位因子と差別因子間の関係も有意な相関関係がみられ,偏見が高いほど差別意識も高いことがわかった。
第三に,人口統計学的変数を統制した状態から偏見の内容が差別をどの程度予測するかを分析した結果,「危険」に対する偏見が最も強い予測要因であり,次に「無能」と「回復不能」の順位であった。人口学的変数の中では,所得水準と教育水準が有意に影響力をもっていた。このような変数の差別意識に対する予測模型は有意に影響力を持っており,説明力は45.5%であった。
本研究結果を通して年齢,所得水準,教育水準などを考慮した多様な標的集団のそれぞれに合わせた偏見教育が必要なことから,集団別に精神障害者と様々な社会的相互作用を経験できる機会を提供することが重要である。また精神障害者に対する社会的偏見がマス・メディアからの影響を多く受けていることに鑑み,公益広告などを通して「私たちはともに暮らしていける」という認識が広がるよう積極的な広報が国家政策に反映されなければならない。
※本研究は国家人権委員会の「精神疾患者の人権保護と増進のための国家報告書」作成のための基礎資料となる研究である。