障害者権利条約における「福祉的配慮のある雇用形態」の意義
-障害者の経済的基盤の確保の観点から-
東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科社会福祉学専攻博士後期課程 大村 美保(6979)
キーワード: 《福祉的配慮》 《障害者権利条約》 《経済的基盤》
障害者の地域での自立した生活を可能とするためには,経済的な基盤の確立は不可欠のものであり,そのためには就労及び年金・手当などより経済的に自立した生活を総合的に支援することが重要である.近年,障害者福祉施策において強化されている一般労働市場における雇用促進の取り組みは,その有効な方法の一つであるが,障害者への配慮の多くは雇用主の裁量に委ねられている.一方,一般労働市場に対するものとして,福祉的配慮のある障害者の雇用形態があり,福祉工場,就労継続支援A型といった制度上の事業所を挙げることができる.また最近では,法制度によらない新しいタイプの同種の企業が見られるようになった.
日本政府は障害者権利条約の批准に向けて複数の分野について国内法の整備が必要であるとし,その1分野である障害者の労働・就労に関して「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」を立ち上げ協議を行い,2009年4月に中間報告が示されている.報告者は,08年度厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究事業「障害者の自立支援と「合理的配慮」に関する研究―諸外国の実態と制度に学ぶ障害者自立支援法の可能性―」の委託研究として,一般労働市場とも,授産施設や小規模作業所といった雇用契約を結ばない就労形態とも違った,こうした福祉的配慮のある雇用形態に着目して調査を行い,報告書「福祉的配慮のある雇用形態における経済的自立に向けた取り組み」としてまとめた.本報告では,この「福祉的配慮のある雇用」と障害者権利条約との関係について障害者の経済的基盤の確保の観点から考察するものである.
2008年8月~10月の期間,関東地区3か所,中部地区2か所の合計5つの「福祉的配慮のある雇用形態」をもつ事業体に対してヒアリング調査を行った.
このヒアリング調査の結果を踏まえて文献研究を行い,①「福祉的配慮のある雇用」とは何を指しどのような配慮を行っているのかを提示し,②障害者権利条約における労働・雇用に関する「合理的配慮」と「福祉的配慮」との関係性を示し,③経済的基盤の確保の面からその有効性と限界について述べる.
ヒアリングした事業体名及び利用者の個人情報が特定されることのないよう留意した.
4.研 究 結 果福祉的配慮のある雇用形態をもつ事業体に対するヒアリングを通じて,以下の共通する特質がみられた.
(1)勤労収入の高さ
(2)収益を上げるための工夫
(3)障害者以外の従業員の存在
(4)経済的基盤を支えるために求められる施策
(5)障害者の地域生活を意識した就労
(6)一般的な企業との違い
(7)継続雇用の場
この結果を踏まえ,
①「福祉的配慮のある雇用」とは何を指しどのような配慮を行っているのか
②障害者権利条約における労働・雇用に関する「合理的配慮」と「福祉的配慮」との関係
③経済的基盤の確保の面から「合理的配慮」及び「福祉的配慮」それぞれの有効性と限界を文献により整理を行った.