害者権利条約第33条「国内における実施及び監視」について
-日本と諸外国におけるアプローチ比較-
国立社会保障・人口問題研究所 勝又 幸子 (会員番号6562)
キーワード: 《障害者》 《自立支援》 《障害者権利条約》
障害者の権利条約(The United Nation Convention on Disability Rights)が2008年4月に20カ国の批准を集めて発効した。
日本は2007年9月に署名したが批准には至っていない。2009年6月10日現在、批准を済ませた国は58カ国その中には、韓国・中国
・オーストラリア・ニュージーランド・イギリス・スペイン・イタリア・スウェーデンが含まれている。
障害者権利条約の批准に向けた日本政府の準備としては、障害者基本法やその他関係法の改正が必要だと考えられている。
たとえば、厚生労働省職業安定局が「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」を2008年4月
に召集し検討を開始した。
障害者権利条約においては、差別の定義に「合理的配慮の否定」をいう新たな考え方を出している。[第2条定義より抜粋
<「合理的配慮」とは、障害者が他のものとの平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を亨有し、又は行使することを
確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又
は過度の負担を課さないものをいう。>]これを、各法律や制度においてどのように具体化していくかが問われている。また、
これに加えて、第33条では国内における実施及び監視(National implementation and monitoring)を定めており、この機能
を果たすため現行の組織(たとえば中央障害者施策推進協議会)の強化が必要とされている。本研究では第33条でさだめられ
た「監視」にテーマを絞って、従来の障害者福祉をめぐる政策評価の方法をレビューし、第33条に対応するためにはどのよう
に変更されるべきかを考察する。
「監視」機能のレビューにおいては、法務省において設置されている人権擁護委員会の機能や内閣府の男女共同参画会議の もとにおかれている影響調査・監視委員会の成り立ちと役割などとの比較を行うとともに、障害者のすべての社会における完全 参加を実現するために「監視」が果たすべき機能をまとめ、その実効性を担保する方法を検討する。国際人権条約(1979年批准 )についても、当時どのような監視についての議論があったのか、それがどのように現在の状態になったのかなども調べた。
3.倫理的配慮日本社会福祉学会研究倫理方針を遵守して報告を行う。
4.研 究 結 果障害者権利条約第33条(以下囲み)の条文に沿って監視機関をどう構築するかをまとめる。
第33条 国内における実施及び監視 1.締結国は、自国の制度に従い、この条約の実施に関連する事項を取り扱う1又は2以上の中央連絡先を政府内に指定する。また、締結国は、異なる部門及び段階における関連のある活動を容易にするため、政府内における調整のための仕組みの設置又は指定に十分な考慮を払う。 2.締結国は、自国の法律上及び行政上の制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し、及び監視するための枠組み(適当な場合には、1又は2以上の独立した仕組みを含む)を自国内において維持し、強化し、指定し、又は設置する。締結国は、このような仕組みを指定し、又は設置する場合には、人権の保護及び促進のための国内機構の地位及び役割に関する原則を考慮に入れる。(下線追加「パリ原則」) 3.市民社会(特に、障害者及び障害者を代表する団体)は、監視の過程に十分に関与し、かつ、参加する。 |
<監視機関構築の視点>
1)監視機関はどこに設置されるべきか。
*障害者の政策や制度が複数の行政機関や法律にまたがる問題であるため、特定の行政機関内に設置されるべきではない。
*監視機関として従来型(審議会・協議会など)にはどんな問題があるか。
*組織運営上、従来型のメリットデメリット。
*市民社会の監視過程への関与や参加はどのように達成されるのか。
2)「パリ原則」は第33条においてどのように具現化できるか。
3)既批准国にみる監視機関の位置付けと組織
4)障害者の自立支援政策活性化との関係
(注)本研究は、平成21年度厚生労働科学研究補助金採択、障害保健福祉総合研究事業「障害者の自立支援と『合理的配慮』
に関する研究-諸外国の実態と制度に学ぶ障害者自立支援法の可能性-」(勝又幸子研究代表者)の分担研究として実施した。