Person-Centered概念(アプローチ)と障がい者の権利擁護
-ニューヨーク州における発達障がい者支援事業所実践モデルから-
済生会熊本病院 勝本 映美(4891)
キーワード: 《Person Centered概念》 《Person Centered Planning》 《障がい者の権利擁護》
アドボカシーと並ぶアメリカにおける障がい者の権利の基本的根拠はParson-Centered概念であるといわれる。わが国でも、改正社会福祉法の中で利用者本位の質の高いサービスと権利擁護の実現に向けた取り組みを規定しており、障害者自立支援法あるいは介護保険法において、利用者中心あるいは当事者主体の理念のもと、障がい者や高齢者の支援計画の策定及びサービスの提供を行うこととされている。しかし、利用者の思いや希望をどのように把握し、自己決定を支援するのかという利用者主体のサービスプランニングの方法論の確立はもとより、サービス提供現場での具体化が十分になされているとは言いがたい。そこで、アメリカにおけるPerson-Centered概念を概観し、その具体的アプローチを考察することで、わが国の福祉サービスにおける利用者主体の支援への方策を導出し、自己決定を支える概念として、Person-Centeredアプローチが「プロセスとしての権利擁護」であることを明らかにすることを目的とする。
2.研究の視点および方法筆者が2005年秋に訪問したニューヨーク州の発達障がい者サービス事業所で入手した資料から、Person-Centered Planningとその具体的アプローチを紹介し、Person-Centeredアプローチがエンパワメント支援による個別性を重視した自己決定を支えるプロセスであることを確認する。
3.倫理的配慮本報告は、ニューヨーク州の事業所Hudson Valley Developmental Disabilities Services Office、Association for the Help of Retarded Children、NYS Office of Mental Retardation and Developmental Disabilities等の事業所で入手した「Five Accomplishments」(John O' Brien&Connie Lyle)や「Personal Futures Planning」(Beth Mount 1992年)、「"Quality Indicators"」を参考資料にした報告であり、熊本県立大学大学院紀要(第6号2009年3月31日発行)の一部を加筆、修正したものである。
4.研 究 結 果Parson-Centered概念を基にしたParson-Centered Planningは、障がいを持つ人が夢や希望を達成することを支援するため、アメリカで1980年代後半に展開された概念である。Parson-Centered概念に基づくプランニングは、その人の不足や課題に焦点をあててきた「human service planning」とは異なり、その過程はその人の可能性を広げて関係を構築していくものである。つまり、その人を中心とした生活の中にケアの焦点があてられ、そのプロセスは熟練したファシリテーターによって導かれ、個々の障がい者が地域社会に参加するために等しく支援を受けることを保障するものである。アメリカではニューヨーク州をはじめ、各州で発達障がい者 に対して本人の意思に基づく本人中心の個別サポートプログラムを作成し、「"Quality Indicators"」のもと、具体的サービスが提供されている。ここでは、 障がい者を援助の客体として捉えるのではなく、サービスの主体としてとらえ、個別性を重視し本人が望む必要な援助を行う。Parson-Centered概念に基づくPlanning(アプローチ)にはいくつかの種類があるが、そのどれもが個人の能力と強さに焦点をあてており、「Five Accomplishments」(John O'Brien&Connie Lyle)の価値観や原則に基づくものであり、その原則に即しているかどうかをアセスメントするためのHallmarksが各事業所に明示されている。具体的アプローチを通して、問題解決のプロセスが進行しており、わが国の福祉サービスにおける実践に示唆を与えるものであった。
わが国でも、要介護高齢者や障がい者に対してマイナスの点に目を向けるのではない、その人の強さや能力に焦点をおく考え方が、ICFの障害分類にもみられ、居宅支援計画や個別支援計画作成の際の重要な視点になっている。これは、知的障がい者や認知症高齢者の、特に自己決定権やその人がその人らしく生活する権利の基礎となる概念といえる。いわゆる問題指向型あるいは課題解決型ではなく、支援によって高齢者や障がい者の可能性や潜在能力を引き出し、「したいこと」や「望む暮らし」に向けて、いかに生活能力や社会参加の拡大や安定を図るのかという目的志向型に移行している。つまり、生活ニーズを「どのような生活を実現したいか」というポジティブなものとして捉え、彼らの希望する生活を実現するために、その人の強さや能力に着目するものである。Parson-Centered アプローチは障がい者が自己決定をなしうるための、アドボカシーに基づくエンパワメント支援の実践方法の確立の重要なひとつの方策であり、サービス利用における自己決定の過程を支援するものに他ならないといえる。わが国でも、日常生活自立支援事業や成年後見制度などの福祉サービスにおける権利擁護システムを重層的に機能させるとともに、Parson-Centered概念の浸透をめざし、その具体的アプローチの開発と検証を行うことによってプロセスとしての障がい者の権利擁護が図られるべきである。そのためには、ファシリテーターとしての役割を担う障害者ケアマネジメント従事者やサービス管理責任者への資格認定制度を含めた、一定程度の質の担保も必要になってくるであろう。
¹ 知的障がい者とほぼ同義ではあるが、定義は州によって多少異なる。