自由研究発表障害(児)者福祉5  岡部 耕典

知的障害者の「生活の自律」とそのために必要な支援
-アメリカ・カリフォルニア州の政策・制度を踏まえて-

早稲田大学  岡部 耕典(会員番号5461)
キーワード: 《知的障害者の「生活の自律」》 《サポーテッド・リビング》 《重度訪問介護》

1.研 究 目 的

海外(アメリカ・カリフォルニア州)における先駆的取組みに対する調査研究の成果を踏まえ、知的障害者に対するパーソナルアシスタンスの活用を中核とした地域自立生活支援の在り方について検討し、障害者権利条約批准後の日本の障害福祉施策への示唆を得ること。

2.研究の視点および方法

2008年8月31日から9月7日まで、知的/発達障害者におけるパーソナルアシスタントの利用を中心とした地域自立生活支援について、全米でももっとも先駆的な取組みをおこなっているカリフォルニア州発達障害局(State of California Department of Developmental Services)及び関連事業所等を訪問し、その実施の状況及び政策的課題について情報収集と意見交換を行い、その成果を考察の対象とした。

3.倫理的配慮

研究目的、方法など、学会研究倫理指針に則って行われている。

4.研 究 結 果

障害者権利条約の批准を目前に控え日本の国内法制の整備が急務であり、なかでも障害者権利条約第19条に示された「自立した生活[生活の自律]及び地域社会へのインクルージョン」を障害の種別や軽重によらず実現することは障害者福祉における最大の政策課題といえる。一方で、介護と居住支援が一体化した長時間見守り型の介護は一部の身体障害者にしか制度化されていないという障害者自立支援法の現状がある。
  これに対して、自立生活運動発祥の地アメリカでは早くから知的障害者も限りなく自立/自律して地域で生活することが当然視され、そのための支援システムの構築が積極的に行われてきた。なかでも注目されるのは、カリフォルニア州において1980年代から開始され1995年に制度化されたサポーテッドリビング・サービス(Supported Living Services以下SLS)という知的障害者の「生活の自律」と地域生活を両立させることをめざす先駆的な居住/生活支援サービスである。
  SLSは、入所施設でもグループホームでも親元でもなく住居を所有/賃貸してコミュニティで暮らことを望む知的障害者に対して、(A)自分自身の家での生活、(B)地域活動への参加、(C)個人の可能性の最大限の実現を確保するために住居の提供とは完全に切り離されたパーソナルアシスタントやハウスメイトによる支援をおこなうものであり、グループホームに代わる知的障害者の中心的な居住支援システム/地域移行の受け皿として期待され、今世紀にはいって急速に拡大している。
  今回の調査研究によって、米国カリフォルニア州ではすでに90年代からSLSが知的障害者に対するフレキシブルな長時間見守り型支援(パーソナルアシスタンス)として制度化され、グループホームのオルタナティブとして知的障害者の地域移行の推進の受け皿となっていること、そのような施策の推進と不可分な基盤として①地域での自立とインクルージョンのために必要な支援を権利としてエンタイトルメントする法制度②合議調整に基づくニーズ本位の支給決定システム③サービス提供及び購買主体としての行政責任の担保というリージョナルセンター(regional center)を中核とする運営システムがあること、さらにその延長に知的障害者の自己決定を最大限尊重し加えてサービスのさらなるフレキシビリティを確保するためのダイレクトペイメントによるサービス利用システムがセルフディレクテッド・サービス(Self-Directed Services以下SDS)として制度化され、その実施が目前に迫っていることが確認された。
  知的障害者に対しても「生活の自律」の確保を求める障害者権利条約の批准と障害者自立支援法が推進する更なる脱施設と地域移行を両立させるためには、今後の日本においても従来の事業所主導型の居宅介護やグループホーム/ケアホームのオルタナティブとなるSLSのようなパーソナルアシスタンスを活用しつつ「自分の家」で暮らす「生活の自律」やSDSのような「支援を受けた自己決定(Supported Decision Making)」に基づき「ケアの自律」を可能とする制度改革が急務となる。まず求められるのは、知的障害者に対する現行の居宅介護制度の質的・量的な見直しであり、すでに制度化されている長時間見守り型支援である重度訪問介護を知的障害者にも対象拡大し、併せて自治体要綱や国庫負担基準の見直しを含め「自分の家」で暮らす知的障害者に対する居宅介護支給時間の抜本的な増大を図ることがその「生活の自律」の確保となる。

  *本研究は、厚生労働科学研究費補助金 障害保健福祉総合研究事業 平成20年「障害者の自立支援と『合理的配慮』に関する研究(研究代表者勝又幸子)」の研究成果の一部である。(総括研究報告書pp.39-65)

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