自由研究発表障害(児)者福祉4  楯 隆子

発達障害をかかえる子どもの親のストレス要因への対応と支援
-親のストレスと子どもの心理・社会的機能との関連-

東海大学大学院健康科学研究科  楯 隆子(会員番号7567)
キーワード: 《発達障害児》 《ストレス》 《社会的機能》

1.研 究 目 的

近年、幼稚園や保育園において「気になる・困っている行動」を示す子どもは全体の4.3%(平澤 藤原2005)小学校通常級において支援を必要とする児童は全国で6.3%といわれている(文部科学省調査報告2002)医療現場においても、ここ10年では広汎性発達障害と診断されるケースが加速的に増加している。旭川荘療育センター児童院発達障害外来では、1998年から2004年までの間に診断者数が7倍近くに増えている。うち、IQ70以上のケースは77.2%という。受診の増加の要因には、診断巾が広がっただけでなく特性の希薄な発達障害児でも不適応があり得るという臨床的事実がある(発達障害者白書2009) 
  H17年4月「発達障害者支援法」が施行された。発達障害児の支援体制は制度ともに整備が必要である。本研究により発達障害児の親のストレスと、子どもの心理的・社会的機能との関連性の分析・考察を行う。育児ストレスの軽減にむけて、要因、対応を分析・考察し、発達障害児の親及び子どもに有効な支援を検討する。

2.研究の視点および方法

本研究では、Lazarus(1996)の心理的ストレス理論を用い個人と環境の関係をストレスと定義した。育児ストレスには日本版Parenting Stress Indexの評価表を用いた。児の心理・社会的機能の全体的評定尺度はDSMⅣのChildren's Global Assessment Scaleを用いた。この尺度は、心理的・社会的側面での個人における機能を連続帯として捉えている。研究方法は量的研究法を用い、東京都・神奈川県の発達障害児の親の会に所属する親を対象に調査票を配布した。親の会代表者と調査者による手渡し222部と、郵送による150部による調査を行い157部の回答を得た。量的分析はSPSSによる多変量解析(重回帰分析)と相関分析を行った。H21年6月の時点で、25ケースのデータを入力し分析した。

3.倫理的配慮

倫理的配慮は、①調査はすべて匿名とする②あくまでも本研究に関する以外は他用しない ③調査結果から個人が特定されないよう留意し調査を拒否する権利を保障する、とした。

4.研 究 結 果

発達障害児の全体的機能と親のストレスとの相関分析を行った。「親の全ストレス」に対する優位な相関はみとめられなかったが、PSIストレスインデックスの「親が感じる子どもの側面によるストレス」(r=0.478*)と、その下位項目「人に慣れにくい・親につきまとう」(r=0.509**)、「子どもに問題を感じる」(r=0.413*)、「刺激に敏感・物に慣れにくい」(r=0.448*)に相関が認められた。さらに「児の全体的機能」「児の心理的機能」「児の社会的機能」をそれぞれ従属変数、「親が感じる子どもの側面によるストレス」と前述の下位項目を独立変数とし、重回帰分析を行った結果、「児の全体的機能」と「親が感じる子どもの側面によるストレス」との正の影響が認められた( R²=0.191 F=6.211 P=0.021) 心理的機能と社会的機能に分けた場合、心理的機能について同じ項目との正の影響がみられた (r=0.557* R²=0.259 F=8.042 P=0.009) 社会的機能については、「親が感じる子どもの側面によるストレス」との影響は優位ではなく、その下位項目の「人に慣れにくい・親につきまとう」との正の影響がみられた(r=0.542**R²=0.275 F=8.980 P=0.007) 親が感じる子どもの側面のストレスが高ければ、児の全体的機能・心理的機能は低くなる(数値は高くなる)ことを示し、子どもの人に慣れにくさを親が感じていれば社会的機能は低くなることを示している。社会的機能は、家庭・幼稚園・学校等における適応度をさし、社会的適応度という意味では子ども全体によって感じる親のストレスではなく、児の一部の特徴によって親が認知するストレスが、社会的機能に影響を与えると思われた。その逆に、児の社会的機能が親の認知する「人に慣れにくい・親につきまとう」と感じるストレスに影響を与える結果となり相互関係にある(r=0.542* R²=0.372 F=7.82P=0.049) 親が「子の人に慣れにくさ」として認知するストレスに対し、子どもや母子へのアプローチもさることながら、子どもの特徴にあわせた家庭・社会環境にむけてのアプローチの必要性も示唆された。調査結果より、回答者のうち50%の親が子どもがいじめ等心理的苦痛をうけた経験があるとしている。それが要因で子どもの所属を変えた経験がある親は25%に及ぶ。子どもの心理的・社会的機能へのアプローチは重要な意味をもつと考察された。 育児ストレスとコーピングの関係では<気晴らし>(r=-0.626**R²=0.352F=11.324 P=0.003)、<情報収集>(r=-0.486* R²=0.369 F=6.551 P=0.047)、<親の会の所属期間>(r=-0.532*R²=0.369F=6.551 P=0.011)との相関、負の影響がみられた。このことから、親が自分の時間を持ち気晴らしすること、情報収集をする・できる環境をつくり、見通しをもちやすくすること、親の会等のピアカウンセリング的な場で共感しあい情報交換しあい、安心感をもつことがストレス軽減に有効であると考察できた。
  育児ストレスとソーシャルサポートの関係では、友人・知人の<経済的に困ったときのサポートなし>との相関と正の影響があった(r=0.430*R²=0.507F=7.507P=0.029)  <経済的に困っていない>と負の影響もあった(r=-0.501*R²=0.248F=6.585 P=0.018) 
  抑鬱と各項目との関係では、<自分のことで専門家に相談なし>(r=0.466**R²=0.597 F=14.84 P=0.034)に相関、正の影響が、<経済的に困っていない>(r=-0.631**R²=0.597F=14.84 P=0.000)に相関、負の影響が認められた。子どもに困難な状況が生じた時には<当事者への相談なし><当事者以外への相談なし>よりも、<専門家への相談なし>(r=0.466* R²=0.597 F=14.84 P=0.032)との相関と正の影響がみられた。ストレスとの相関とは違う結果となり両者への対応が違うものであり、抑鬱には専門家の介入が有効であることを示している。ストレスと抑鬱には相関関係(r=0.414*)があり、ストレス軽減への対応は、同時に抑鬱に至る前への対応と捉えられた。  

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