自由研究発表障害(児)者福祉4  古寺 久仁子

障害児の養育者のサービスニーズと関連要因
-肢体不自由児通園施設に通う子どもの養育者の調査を通して-

東京都立多摩療育園・ルーテル学院大学博士後期課程  古寺 久仁子(会員番号7080)
キーワード: 《肢体不自由児》 《養育者》 《サービスニーズ》

1.研 究 目 的

近年家族機能の脆弱化と地域社会の変容が指摘されている一方、肢体不自由児通園施設を利用する子どもの障害の重度化と重複化が進んでいる。すなわち、肢体不自由児通園施設に通う乳幼児の障害の変化に伴い、子ども自身のニーズも多様化し、さらに家族や地域の状況の変化が重なり、子どもの養育者のニーズも多様化している。
  障害者自立支援法の施行と、児童福祉法改正等によって、障害福祉施策、子育て支援施策もさまざまに展開しているが、障害をもつ子どもとその養育者が抱くニーズがどのようなものであり、また現行の施策がそのニーズを充足させているかの検証は、十分に行われていない。
  そこで本研究では、肢体不自由児通園施設に通う乳幼児の養育者のもつサービスニーズがどのようなものであるか、またその関連要因がどのようなものであるかを明らかにすることを目的とする。

2.研究の視点および方法

全国肢体不自由児通園施設連絡協議会の協力を得て、同協議会役員のいる20施設を利用する障害児の養育者を対象に自記式質問紙調査を行った。調査期間は平成20年12月16日から21年1月16日までとし、各施設職員に配布、回収を依頼した。回収数は417通、有効回収数415通、有効回収率は62.3%であった。
  調査項目は、従属変数として、サービスニーズの重要性の認識、独立変数として、子どもの状態、家族状況、ソーシャルサポート、ケア役割に関する認識(中川ら2007)を設定した。サービスニーズは先行研究を参考に、既存のサービスを中心に、障害福祉、子育て支援、所得保障、保健医療、相談・情報の5分野21項目を設定した。
  先行研究では、学齢脳性麻痺児の母親のニーズは子どもの性別、年齢、ADLとは関連がなかったが(種子田ら2003)、障害幼児の問題行動は母親のニーズのうち3領域(「Community services」「Needs for support」「Explaining for others」)との関連が認められている(呉ら2006)。本調査では、障害児の養育者のサービスニーズは、子どもの状態、家族状況、ソーシャルサポート、ケア役割に関する認識の影響を受けているとの仮説をたて、それを検証する。
  質問項目の内容は、肢体不自由児療育に関わる専門職によるエキスパートレビューを受けたほか、7名の障害児者の養育者による訂正を受けて作成した。分析方法はカテゴリカル回帰分析を用いた。

3.倫理的配慮

各施設長に研究の趣旨や倫理的配慮を役員会および文書で説明のうえ、調査対象者にはデータの匿名性、プライバシーの保護、研究以外の目的で使用しないこと、協力しないことによる不利益がないことなどを明記した文書を配布し、調査への協力が得られた場合は無記名での提出を依頼した。なお、本調査の実施にあたっては、ルーテル学院大学研究倫理委員会の承認を得ている。

4.研 究 結 果

回答者は97.7%が母親であり、平均年齢は35.82歳(SD=5.14)であった。施設利用児は男性213名、女性202名と男女差はなく、平均年齢は3.85歳(SD=1.38)であった。また、利用児の42.1%が身体障害者手帳1、2級、療育手帳A相当を併せ持つ重症心身障害相当であった。
(1)サービスニーズの構造
  サービスニーズ21項目について、まず主因子法プロマックス回転による因子分析(固有値1以上)を行った。ここでは5因子が抽出されたが、因子負荷量が十分でない項目と2因子に同程度の因子負荷量がある項目を削除して再度因子分析を行った結果、第5因子が1項目だけになったため、この第5因子を削除したところ、4因子構造となり、それぞれの因子を「相談・交流」「在宅ケア」「所得保障」「子育て支援」と命名した。なお、回転前の4因子17項目の全分散を説明する割合は63.24%であった。
(2)サービスニーズと関連要因
  サービスニーズを4因子ごとに合計得点を算出したものを従属変数とし、独立変数に子どもの状態として、日常生活の介助度、医療ケアの必要度、健康上の問題を、家族の状況として、他の要介護者の有無、きょうだいの有無、家庭の経済状態、居住地、養育者の主観的健康度を、ソーシャルサポートは4つの提供主体(配偶者、配偶者以外の家族、友人・知人、専門家)ごとに情緒的サポートと手段的サポートに分けて合計得点化したものを、ケア役割に関する認識は因子ごとに得点化したものを設定し、因果関係を検討した。
  「相談・交流」は子どもの状態とは有意な関連がなく、「在宅ケア」は子どもの状態とケア役割に関する認識と有意な関連があった。「所得保障」はソーシャルサポートとの関連は見られず、「子育て支援」はケア役割に関する認識とソーシャルサポートと有意な関連があった。家庭の経済状況は「相談・交流」「所得保障」「子育て支援」の3因子と有意な関連が見られた。

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