自由研究発表障害(児)者福祉4  下尾 直子

ICF-CY序文「家庭関係における子ども」をみる
-社会モデルからの示唆-

日本女子大学大学院  下尾 直子(会員番号6765)
キーワード: 《ICF-CY》 《社会モデル》 《障害児家族》

1.研 究 目 的

2001年に発行されたICFがリハビリテーション等の分野で普及し,障害をみる概念枠組みとして定着してきている中,2007年に発行されたICF-CYは18歳未満の児童に対して使用することを前提にされており,序文にはICF-CYが派生された背景や目的,実際的・理念的根拠,具体的使用方法等が記されている.この中で「児童に関連する諸論点」として取り上げられている4つの事項(家庭関係における子ども,発達の遅れ,参加,環境)は,ICF-CYの活用において常に念頭におくべき重要なテーマである.特に,第一に挙げられている「家庭関係における子ども」は,家族が発達期にある子どもの「参加」に多大な影響力を及ぼす環境因子であるという点で,他の3つの事項を包括しうるテーマであるといえる.ここでは,「家族や身近な養育者,社会的環境との継続的な相互作用」が「さまざまな技能の獲得の枠組みをつくる」ことから,「環境の果たす役割は非常に重要である」と述べられているが,家族が技能の獲得にかかわるような促進因子として働くほかにも、障害のある子どもと家族のあいだには、様々な相互作用がある.
  本論の目的は,社会モデルから示唆を得て,「家庭関係における子ども」をみる際の多角的な視点を確認するものである.

2.研究の視点および方法

ICFは, ICIDHからの改定作業の中で社会モデルとの激しい議論に応え、医学モデルと社会モデルの統合に基づいて改定された。しかし、その後の議論の展開からみて、社会モデルと医学モデルがICFによって統合されたという認識は,少なくても社会モデルを代表する障害学にとって了解されたものではない.本論では,杉野(2004)が「(社会モデルとしての)障害学の研究視角は,個別援助学の理論モデルとは統合不可能なものである」と述べると同時に,「実践モデルにおける協調は可能」と述べていることに注目したい.特に,本論が主題とする家庭関係において,医学モデルと社会モデルの共存は、現実的に実践されていると考えうるからである.
  本論では,個人の生活機能に焦点化しているICFを,社会モデルと協調する個人モデルとして個別援助実践に活用するほうが実用性が高まるのではないかという観点にたち、障害者自立生活運動、障害学の文献レビューを行うことで、「家庭関係における子ども」をみる視点に対する社会モデルからの示唆を整理する。

3.倫理的配慮

本稿は、日本社会福祉学会研究倫理指針にのっとり、文献研究による他説と自説とを峻別し、引用文献に関しては、原著者名・文献・出版社・出版年・引用箇所を明示する。

4.研 究 結 果

1)囲い込む家族
  我が国の障害者自立生活運動の脱家族論では,いつのまにか障害のある子どもを「囲い込む家族」のありようが糾弾された.そこでは,家族は子どもにとって,技能獲得の阻害因子にさえなりうることが示されている.本論では,「囲い込む家族」を「子どもの生活機能を普通以上に代替し,又,子どもの生活機能の責任をとろうとする家族」と仮定し,身体的・精神的に「できない」ことを代替しようとする「無力の囲い込み」と,幼児のように愛すべき面を積極的に囲い込む「無邪気の囲い込み」とに分類した.特に知的障害者家族の囲い込みは,このような「無邪気の囲い込み」を含むことに顕著な特徴がある.
  しかし,脱家族論は,成人期の障害者家族のオルタナティブモデル=囲いこまない家族を示すものの,そこに至る過程に言及していない.囲い込まない家族は,成人するある日を境に突然実現できるはずのものではない.親がかりが当然である乳幼児期から本来徐々に親離れする過程がどこかで停滞することが,囲い込む家族を形成してしまうはずである.いつどこからを「囲い込み」として警戒するか、囲い込まない家族への道程はどのように形成しうるのかを見極め,成人期に向けて家族のオルタナティブモデルを具現化していくことは有用である.
2)当事者の視点
  社会モデル実践では,当事者の視点は第一義的に重視される.我が国の障害者自立生活運動において,当初中心的役割を果たした身体障害者が規定した自立概念では,支援者や専門家による代弁が否定され,障害当事者の主体性が重視された.しかし,そのような自立概念は,自己決定を前提とするために,知的障害者を排除することにつながっていった.その後,知的障害者自らが主体的に主張していくという当事者活動がさかんになってきてからも,特に家族の代弁機能についての問い直しと,家族との関係の再構築についての明確な答えは得られていないといえるだろう.

5.結論

障害のある子どもの家族は、促進因子として働くだけではなく、「囲い込み」という形では阻害因子にもなりうる.「家庭関係における子ども」をみる際は、囲い込みによって与えすぎてしまう危険にも着目されるべきである.そこでは,障害当事者の視点がもっとも重要な基準として示されるべきであり,その規定そのものが家族との関係を再構築することにもつながるといえるだろう.
  杉野昭博(2004)「「障害」概念の脱構築:「障害」学会への期待」,障害学会発表資料.

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