自由研究発表障害(児)者福祉4  朝倉 和子

障害児の母親のエンパワメント過程に関する実証的研究Ⅱ
-オープンにし・理解してもらう行動としての親の会活動について-

○  東京家政学院大学  朝倉 和子(会員番号6215)
東京家政学院大学  高橋 幸三郎(会員番号0428)
東京家政学院大学  吉賀 成子(会員番号2372)
文教大学  星野 晴彦(会員番号2265)
多摩市社会福祉協議会  有安 茂己(会員番号4225)
東洋大学大学院  木口 恵美子(会員番号6371)
相模女子大学  河尾 豊司(会員番号7002)
埼玉工業大学  上原 施門(会員番号7643)
キーワード: 《親の会》 《学齢期》 《成長モデル》

1.研 究 目 的

われわれは,本学会において4回連続で障害児の母親が子育で感じる「困難な出来事」を明かにし、その出来事をどのように「受け止め」、「どのように対応」しているのかについて、聞き取り調査の結果を報告してきた。そして、母親の意識・対処行動パターンの変化について,子どもの障害について,「A.気づく・知らされる」という出来事から始まり,障害を母親として「B.理解する・分かち合う」(障害児の母親になる)プロセス,そして子どもの障害を親戚や周囲のひとに「C.オープンにする」,さらに,そうした人たちに「D.理解してもらう」(社会と向き合う)という過程を構造(感受概念)化した。
  さらに、母親の意識と対応の仕方を理解する枠組みとして示した「オープンにする」過程を中心に聞き取りと内容の分析を行った。その際、①誰に対して、②どのようなことが影響しているのか、③当事者はそのことにどのように意味を見出しているのかに焦点を当てた。今回の目的は子どもの障害をオープンにし、理解してもらうための行動として「親の会活動」を取り上げて検討することである。

2.研究の視点および方法

どのレベルで親の会の活動を論じるのかによって内容は異なってくる。第1には、親として行う活動なのか、組織としての親の会なのかによっても異なる。第2には、親の会を論じていく方向性として、その設立条件や展開過程(被説明変数としての親の会)を明らかにするのか、団体の活動が福祉サービスや地域社会へのインパクト(説明変数としての親の会)を明らかにするかによっても異なってくる。第3に、親の会に肯定的・否定的な眼差しを投げかけるかによっても異なってくるだろう。今回の報告は、親の会が障害者家族にどのような役割を果たしているのか、親の会のリーダーの話の内容から、その発展過程について考察する。
  本研究では,個別の聞き取りについて,ICレコーダーを使用し詳細なデータを収集した。そして,この聞き取りデータに基づき作成された事例を分析作業の素材にした。其々の事例に対し,研究会において,当事者団体による相互支援のネットワーク形成過程に関する研究の延長として質的な検討を多角的に行なった。
  其々の事例について,研究会において,母親が感じてきた生活困難と当事者による相互支援のネットワーク形成過程に関する質的な検討を多角的に行なう。面接調査は,聞き取りの許可が得られた範囲内での「特徴的な障害者家族」を生きている人に対して行なった。
  この調査において2つのタイプの家族を想定した。一方が成人期以降も子どもと同居して「囲い込み」に近い生活で対処する家族と,他方でさまざまな「ネットワークを形成する」家族である。ここでは,問題を大まかに示すために2つのタイプの家族を「感受概念」として用いて研究を開始している。何故家族(母親)が障害児の介護を囲い込まなければならなかったのかに関する対処過程を解明することは,相互支援のネットワーク形成を拒んでいる要因を明らかにする作業につながると考えている。ここでは事例の一般化志向よりも,特徴的な事例を効果的に理解するための調査デザインを採用した。

3.倫理的配慮

本研究では聞き取りの内容を事例として公表するため,被調査者に対して,事前に原稿を見せ、望まない部分は公表しないことを約束し、聞き取り場面では多くの事柄を語ってもらうよう配慮をした。それは,プライバシー保護の関係である部分を削除するにしても,その背景を研究者・調査者が理解できるようにするためである。今日のように,個人情報保護が重視される社会状況において,この研究計画の実施には,聞き取りデータの収集から蓄積・分析・公表に至る過程で,被調査者の「プライバシー保護」に関する慎重な対応が必要であると考えている。

4.研 究 結 果

今回はK県のS市を中心に(人口70万の中核都市)、障害(知的障害・自閉症・肢体不自由)児の親の会を事例にして検討した。当該市は、市町村合併により、住民と基礎自治体との距離は遠くなるという課題を孕んでいる自治体である。その問題を改善するために、22の地域社会福祉協議会、自治連合という「地域組織」が形成されている。
  聞き取り調査の対象はS市3団体、市外3団体(聞き取りを行なった人12名)で、団体の歩みや現状に関して自由な聞き取りを行ない、詳細な会話データに基づき課題を明かにした。一定の歴史を有する団体への聞き取りは、そのことを認識していることが対象者の前提になるために、団体のリーダー的な存在の人に限定された。団体の設立から現在の活動までを自由に語ってもらい、親の会が「子どもの学齢期に与える影響」と、親の会の「継続・発展の過程」を明らかにするように焦点化を行い質的に考察した。
  会員は、団体に所属することにより①「子どもの成長モデル」の不在からくる不安を除去することが出来る。団体は多様な年齢層の親との交流をとおして、参加している親に自分の子どもの「成長モデル」を提供していた。そして、子どもの成長とともに②リーダーとして他団体との連携に関心を向けるようになる。学齢期までは子どもに直接関わる課題に追われる日々を過ごすが、成人期頃からは、「他団体との連携」により解決を図るという視野を獲得するようになる。しかし、③団体内部でのみ「共同性」や「連帯性」を追求していくと、同質なもののつながりを強め、異質なものを排除する傾向が生じる。ここに古くて新しい課題である「連帯」と「排除」が横たわっている。以上の3点に関して質的なデータを用いて例証する。
  今回は、リーダーとして成長した人に限定した聞き取り結果に基づく考察した。こうしたリーダーの意識変化がない限り、障害者団体も多様に存在し続け、連携を図ることが困難と思われる。市内には、交流と福祉の向上を目指す25の障害者当事者団体、8の自主訓練グループが存在する。今回の調査では、この中の障害者団体A、Bと自主訓練グループC、に限定して聞き取りを行ったが、団体の内部的・対外的なネットワークが会員に与える影響を詳細に調査していきたいと考えている。(聞き取りデータを用いた例示は、当日の配布資料で行います。)

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